8話 ミカエル6歳秋①
転生して6年、今更だけど、この世界には娯楽が無い。
とはいえ、それは魔国だけなのかもしれないけど、私には他の国の事は分からない。
外の世界の情報源は数日遅れの新聞だけだ。
その新聞の広告に私は目を輝かせた。
「演劇セイコマルク公演せまる!」
演劇!なんと!演劇と言うエンターテインメントがあるのね!ネットやテレビ、漫画すら無い異世界では、演劇はかなりの娯楽ではないだろうか?
前世では演劇には、全く興味無かったけど、今は見たくてたまらない。
だけど、魔国から出る事が出来ない私には叶わぬ夢かな。
「はぁ」
毎朝欠かさない牛乳を飲みながら新聞を見てため息をつく。転生前はコーヒーとスポーツ新聞だったが。
おっさんかよ!って自分に突っ込んでみる。
「娯楽がないよ!」
1人でバタバタと椅子に座りながら、まだ子どもの手足を暴れさせていると、誰か来たようだ。
「姫様!おはようございます!ご機嫌麗しゅうです!」
ジスが使い慣れない丁寧な挨拶をして、入って来た。
かわいいなジスは♡
「おはようジス。ラム太郎にも、おはようしてあげてね」
最近、森で隷属化した魔獣の巨大チワワ。
主人が起きてるのに、私のベッドでグースカ寝てる。
いい度胸してんな!
「ラム太郎、おはよう〜」
「…………」
返事が無い、ただのしかばねのようだ。
「起きないとジスがお前を黒焦げにするわよ」
「……ヒッ!すみません起きます!起きますから!お許し下さいジス様〜!」
情けない魔獣だ。
「ラム太郎、朝食そこにあるから食べてね」
毎朝、ラム太郎用の朝食は私の手作りだ。料理の研究も兼ねてるのだ。私用の朝食は王室の料理人達が任されてるので、仕事を奪ってはいけない為、任せている。
とはいえ、かなり口出しをしているが。
その甲斐もあって、王室の料理はかなり向上した。私が提案した牛丼で、魔王ラファエルは涙を流しながら、美味しいと叫んだ程だ。その時の覇気で使用人が数人倒れたのは、ちょっとした事件だった。
「毎日、かたじけないです」
ラム太郎に食べさせる事で、あまり父を刺激しないように努めてたりしていた。
「姫様!新聞を読まれていたのですね!さすが姫様!感服致します!」
ジスは私のする事には全て興味を示す。好奇心旺盛な幼なじみだ。
「演劇?ですか?見てみたいですね!」
「うん。見たいね。何とかならないかな?」
そして私とジスは、ノア様に相談してみる事にした。
◇魔女ノア邸
「セイコマルクに演劇を観に行きたい?」
「はい……何とかならないでしょうか?」
「かなり危ないわね。セイコマルクは中立国だから、人族も出入りしているわ。魔族の子どもでも、捕まえたら高く売れるのよ」
奴隷売買と言うやつだそうだ。
人族の国家では亜人の奴隷売買が行われているらしい。
特にローゼン帝国では奴隷売買が合法らしく、亜人奴隷が数万人もいるらしい。
「仕方ないわね。私が少し手助けしてあげるわ」
「本当に?ありがとうございます!」
そうして、私とジスの魔国脱出&セイコマルク密入国作戦が始まったのだ。