7話 ミカエル6歳夏②
チワワだ。確かにチワワなんだけど……
体長3メートルはありそうな位にデカい。
そのチワワ特有の大きな瞳は黒目部分が多く、ウルウルして、こちらを見つめていた。
「ガルルルル」
これは魔獣なのか?ただの大きな犬なのか?
とりあえずどうして良いか分からない。
「答えろ!此処に何用だ!」
しかも流暢に喋る犬とかマジでファンタジーだよ。
敵意丸出しの魔獣とか初めてで、流石に足が震える。
こんな所で死にたくはないけど……
「姫様!お逃げ下さい!ここはジスに任せて下さい!」
「ジス!無茶しないで!私だけ逃げるなんて嫌!」
ブルブルとジスも震えながら、私を守ろうとする。
私の制止を振り切り、ジスがチワワ?に向かって行ってしまった。
「姫様には指1本触れさせないんだからぁ!」
果敢にチワワに体当たりをし、チワワの足にしがみつく。
「この!離せガキが!」
ブンブンと足を振ってジスを剥がそうとしてるみたいだが、ジスが必死にしがみついて離れない。
「姫様……ジスは今まで幸せでした。ジスはコイツを道ずれにして先に逝きます!」
ジスが突然別れを告げ、自爆魔法の詠唱を始めた。
「ジス!早まらないで!貴方まだ6歳よ!これからまだ楽しい事や気持ちいい事が待ってるの!だから死んじゃダメ!」
「姫様ぁ、グスッ、ありがとうございます……ですが、ジスは姫様の盾です!だから守ります!」
「じ、自爆?やだよ!止めろよー!ヤダヤダ怖いよー!ヒー!」
チワワがジスの自爆魔法に恐怖したのか、慌て始めた。
ジスの体が光始め、自爆魔法が発動した。
「姫様ぁー!」
「ヒィィ!」
「ジスぅー!」
ボンっ!
爆発はジスの頭だけで発動し、ちょっとパーマあてたみたいになっただけだった。
「…………ジス?」
「…………はい」
自爆魔法はジスの魔力不足で失敗に終わったみたいだった。MPが足らない!みたいな?
それにしても……自爆魔法なんて!
目の前で親しい人が死なれるのはごめんだ。
「ジス!お願いだから自爆魔法はもう使っちゃダメよ!貴方には生きていて欲しいの!ジスが死んだら誰が私を守るの?」
「はい……姫様!ジスは一生離れません!」
いや、一生じゃなくて良いから!
「あの犬はショックで気絶したみたいね……コイツ、実は弱いのかな?」
デカいチワワはしばらく気絶していたが、目を覚ますなり、ヘタレ感を出していた。さっきまでの勢いはどうした?
「ヒィィ、すみません!子ども相手だからといきがってしまいました!こう見えて実は弱いんです」
いや、どう見ても強そうには見えないし。チワワだし。
さっきまでビビってたのは秘密だ。
「で?ここは貴方の縄張りなの?」
「いえ!滅相もないです!自分なんてただのダメ魔獣で……」
「あ、そう。それより私達、あの蜂蜜が欲しいんだけど、何とかならないかしら?」
「蜂蜜ですね!任せて下さい!キラービーとはマブダチですから!」
意気揚々とチワワがデカい蜂の魔物、キラービーの元へと近づき、何やら交渉してくれた。
直ぐに戻って来た。これで蜂蜜ゲットかな?かな?
「すみません!やだって言われました!」
「ダメじゃねーか!マブダチじゃなかったんかい!」
「ヒィィ!お許しをー!」
「姫様!ならば私にお任せ下さい!」
「ジス!頼んだわよ!」
続いてジスが交渉に行くとあっさりOKとの事だ。
チワワ使えねぇ。
「好きなだけ持ってって良いそうです!さすが姫様です!これで森の全ては姫様の物です!姫様最高です!」
ジス。一体、キラービーになんて言って交渉したのだろうか?
とにかく、無事に蜂蜜をゲット出来た。
蜂蜜を使ったお菓子を作れる様になった。
「うん?なんだこれは!ミカエルが作ったのか?こんな甘くて美味しい物が作れるとは、流石、余とサクヤの娘だ!」
父である、魔王ラファエルにカステラを作ってあげたら、凄く気に入ってくれて、城の料理人達に作らせる様になり、しばらくして魔族国でカステラブームが起きた。3時のおやつはカステラが魔族の間で定番となる。
森で出会ったチワワは従魔として城で飼う事になり、名をラム太郎と名ずけた。役にはたっていない。