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第二十一話 報告書

大規模な暴走スタンピードがウィルオードで起きてから一週間が過ぎた。

未曾有の最悪に見舞われたはずのウィルオードであったが、人的被害は少なからずあったものの暴走スタンピードが発生したにしては軽微なものであった。

と言う噂らしい。

その噂の真偽を確かめるために、現魔王フェイト・フォン・ヴァーミリオンは、手元の報告書に目を通しているのだった。

報告書にはこう書かれていた。



~魔王へ~


ウィルオードで起きた暴走スタンピードは終わった。

ちょっと死んだ人もいたけど大体みんな元気。

エンシェントエルフがほとんど魔物倒した。

めちゃくちゃ強く凄かったらしい。

報告終わり。


追伸

私しばらくウィルオードに滞在するから色々よろしく


~ソーナより~


魔王は盛大にため息を吐くと何ともわかりきっている質問をした。


「ねぇ……これ誰書いたの?」


魔王は報告書(羊皮紙一枚)をペラペラと玩びながら黒羽の青年に聞いた。


「黒百合騎士団第六位のソーナさんですね」


「やっぱりか……」


魔王は机に突っ伏すとソーナが書いた報告書のような手紙を丁寧に折りたたみ机の引き出しにしまった。

そして何事のなかったように再びに青年に問いかけた。


「ウィルオードの件の報告書は?」


「こちら私の副長から報告書です」


青年は何事もなかったかのように報告書を魔王に提出した。

魔王は報告書をもらうとすぐに目を通していった。


報告書には、暴走スタンピードの規模から被害、原因体コアのことまで全て詳細に書かれていた。

今回起きた暴走スタンピードは全部で三種類。

竜型、蟲型、獣型だ。規模は竜が数千、蟲が数億、獣が数十体。

竜型、蟲型による被害はなく、獣型に数十名の新米の冒険者が殺された。

原因体コアは全て討伐済みで、上位個体も掃討済み。

竜型、蟲型の原因体コア、及び上位個体はエンシェントエルフによって討滅された。

蟲型の原因体コアは焼失したらしいが、他の二体の原因体コアは死体の確認もされている。


報告書を読む限り、とても信じがたい内容のであった。

規模を考えれば被害が街の一つや二つ、国まで滅ぼしかねないものであり、一つでも天災に等しい暴走スタンピードが三つも同時に発生するという絶望的な状況であったこと。

さらにそれをこれだけの被害に抑えたことが何とも信じられなかった。

だが、これに嘘偽りはないのだろう。

なぜならあのエンシェントエルフが動いたのだから。


普段、彼らが自ら国のために動くことは絶対にない。

有事の際にしても動くかわからないほど、彼らは表舞台に出て来ようとしないのが常であった。

それは魔王軍に所属する幹部クラス者達なら常識とまで言わせるほど、極々当たり前のことだった。

しかし、彼らは今回、何故か自ら表舞台に姿を見せ動いたのだ。

理由はわからないが最強の種族が動いたおかげでウィルオードは救われたと言えるだろう。


報告書を一通り読み終えた魔王に青年は別の紙束を魔王に渡した。


「これは何かしら?」


「報告書です」


「えっ?誰からの?」


「魔王軍独立旅団諜報科団長バラライカ・フォン・カノープス様からです」


「なっ?」


魔王は慌てた様子で受け取った報告書を割れ物を扱うように丁寧に目を通していった。

最初は、何を要求されるか戦々恐々としていた魔王であったが、読み進めていくうちにその顔は別の意味で焦り変わっていった。

急変した魔王の様子を訝しんだ青年は魔王を珍しく心配した。


「どうされましたか?」


「ねぇこれ?読んだ?」


「いいえ」


「そう……ならこれ読んでみなさい」


魔王はそう言うと青年に報告書を渡した。

青年はゆっくりとページをめくり、読み進めるうちにそこに書かれた驚愕の事実に思わず声を上げてしまった。


「な!嘘ですよね」


「本当よ」


青年の驚愕する様子を魔王は真面目な顔で肯定した。


「そ、そんな最強のエンシェントエルフ達が、一人の少女のために動いたのですか!」


「そう実はって——違うわ!私が驚いてるのは、そこじゃない!いや、そこもびっくりだけどもっと先のページよ」


魔王は速く読めと青年に促し、その先に書かれている驚愕の事実を共有した。


「そんな!こんなことが可能なのですか?」


「そんなの私に言われてもわからないわよ!」


「ですが……人為的に暴走スタンピードが起こすなど信じ難いですよ」


「私もそう思いたいけど……でも、他でもない彼らの報告よ。十中八九マジよ。そう言うことだから——」


魔王そう言うと席を立ちどこかへ行こうとしたが、案の定その行動は青年の手によって阻まれた。

青年は遠慮することなく、魔王の頭をガシっと鷲掴みした。

力強く、素手でリンゴジュース作るくらいの割とマジの握力で……。


「イダイ、痛いって!は、放せ!」


「行かせませんよ」


暴走スタンピードの調査はこちらでやりますので、どうぞ魔王様はご自分のお仕事をしてください」


「お、お前またそうやって——」


「働け」


「は、はい」


魔王様は何事もなかったかのように自分の机に座ると、また一つ書類に判子をペタリと押すのだった。

決して部下の青年の圧に負けたわけではない!

魔王様はあくまで自分の仕事をしているだけなのだ。


『クソ童貞野郎、あとで絶対しめてやるから覚えとけよ』


「魔王様、何か言いましたか?」


「な、何も言ってないないですよ!」


「そうですか。では、こちらの書類にもサインをお願い致します」


「わ、わかったわ」




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