第十七話 最強(エンシェントエルフ)
ミーシャがセリナ達と共に裏門に向かう中、他のエンシェントエルフたちは何をしていたかというと既に数人は戦闘を開始していた。
いち早く戦闘を開始したのは、アンナであった。
彼女は、原因体の場所をバラライカの部下より念話で伝えてもらうとその場所に直接転移したのだ。
原因体のすぐそばまで転移すると、その眼で直接アンナは標的を見定めた。
「ふぅう。結構遠かったわね。ふーん、まぁSランクオーバー以上と言ってもこんなものか。さてと、はじめますか」
アンナは軽く背伸びをするとバラライカに念話送った。
『目標を捕捉した。これより周辺の魔物を殲滅する』
アンナはそれだけ言うと自身の標的、強大な蜂と蜻蛉を合わせたかの様な魔物との戦闘を始めようとした。
魔物はその姿によって多少分類することができ、分類ごとに同じような特徴を持つ。
竜型は、強力な個体が多いが数が少なく単独で行動する魔物が多い。
逆に蟲型は個体の戦闘力は低いものの、群れで行動する魔物が多いのだ。
この原因体も例にもれず自身より小型の魔物を周囲に大量に配置している。
羽の大きさも加えれば全長30メートルはあるだろう原因体を見つめながらアンナは標的を分析していく。
「なるほどね、元はキラビーとヘルフライの合成獣ってとこかしらね。でもここまで変異していたとは、ヘルビーキメラってとこかしら、はぁ……こんなの私達くらいじゃないと倒せないんじゃないかしら。まぁ私なら余裕だけどね」
アンナによって名付けられたヘルビーキメラは、アンナの存在を未だ認識しておらず、木の頂上に止まっていた。
見た目は蜻蛉の様であるが、蟷螂のような鎌を持ち、漆黒に染まった外骨格、尻尾に生えた針は、蜻蛉というよりも蠍や蜂に近い。
まるで昆虫の攻撃性を抽出したかのような見た目に加え、異常なほどに巨大化した身体がさらに恐怖心を煽る。
もし、普通の冒険者が奴を見れば、逃げることすら諦めてしまうほど相手だろうが、アンナはそんなことお構いなしにヘルビーキメラに向かって小さな火の玉をぶつけた。
小さな火の玉は、ヘルビーキメラにぶつかると、一瞬で大きくなりヘルビーキメラの全身を覆い焼き尽くそうとする。
しかし、ヘルビーキメラも無抵抗ではない。
羽を高速で羽ばたき身体を覆う炎を一瞬で吹き飛ばしてしまった。
ヘルビーキメラの羽ばたきは、炎を吹き飛ばすだけでは終わらず、その場に生える木々を根元から吹き飛ばしてしまった。
羽ばたきだけで、地形を一瞬で変えてしまったヘルビーキメラは、自身に攻撃をした者をすぐさま探した。
標的はすぐに見つかった。
驚いたことになんと自身が先ほど羽ばたきで地形を変えた場所の中心にその者はいた。
「これで私を脅威と見なしたわね。それじゃ次の段階に行きますか」
ヘルビーキメラは、自身に攻撃を加えた小さな存在を目で捉えると、上空へ舞い上がり奇声を上げた。
まるで、金属をすり合わせたかの様な甲高い音が森一面に響いた。
「おぉ!おもったよりも早いわね。予想外だけど順調に進んでいるわね」
次の瞬間、黒い雲の様なものがヘルビーキメラ目掛けて辺りから集まってきた。
黒い雲は高周波のような音をたてながらこちらに向かってくる。
距離がみるみるうちに近くなり、そして黒い雲の正体が明らかになった。
それは、小型のヘルビーキメラだった。
奴は自身の小型をこの場に呼び寄せたのだ。
小型と言ってもどの個体も10メートル近くあり、一匹だけでも脅威だろうに、それが数千いや、数万匹いるのだ。
「あちゃ~。結構な量がいるわね、うぅ気持ち悪いなぁ。でも、やりますか」
誰もが絶望的な状況だろうと思う、その光景を目にしたアンナは、口角を釣りあげ、不敵な笑みを浮かべた。
気付けば空は、魔物で覆われ太陽の光さえ、届かず夜の様に暗くなった。
昼夜が入れ替わったかの様な光景の中、アンナは静かに時をまった。
時を待つと言っても決して無防備というわけではない。
攻撃魔法も放てば、結界魔法で自分を守りもする。
ただ、アンナはその場から一歩も動かないのだ。
ヘルビーキメラは遥か上空から、小型の魔物に攻撃を仕掛けさせるも、アンナの張った結界魔法がそれを妨げる。
尻尾から放たれる毒針、口から吐かれる溶解液、その全てが結界によって阻まれる。
中々攻撃が決まらない上に、アンナが放つ魔法によって小型の魔物達は少しずつ数を減らしていった。
小型の魔物達の攻撃が届かないとわかるや、今度は小型の魔物達を結界に特攻させ強引に結界を割ろうとしてきた。
だが、それでも結界はびくともせず特攻してきた魔物は結界に激突し、無為に命を散らしていった。
そして、ついにしびれを切らしたヘルビーキメラは、自ら攻撃するために上空から距離を詰めてきた。
上空から勢いをつけヘルビーキメラは、その鋭利な鎌で結界を斬ろうした。
鎌と結界が衝突する。
結界は一瞬、鎌の動きを止めた。
だが、ヘルビーキメラの攻撃は、そこから更に別の鎌で斬りつける。
流石の結界もヘルビーキメラの攻撃は、簡単に受け止めることができず、僅かに亀裂が入ってしまう。
気が付けば、アンナはその場で片膝を付き、呼吸が乱れ肩で息をしていた。
その様子を見たヘルビーキメラは、結界にへばりつくと両手の鎌でガツガツと結界を攻撃してきた。
攻撃を受ける度に、結界の亀裂は大きくなる。
ヘルビーキメラを結界から引き剥がすために魔法を放つも、硬い外骨格のせいで満足に攻撃が通らない。
更に結界の破壊に拍車をかけるように、亀裂を広げようと小型のヘルビーキメラも結界に群がってきた。
そして、その時は来た。
パリンとガラスが砕けた音とともに結界が破られたのだ。
結界を破ったヘルビーキメラ達は、アンナの元に殺到した。
動揺した様子でアンナは、急いで簡易的な結界魔法を発動するも、ヘルビーキメラの鎌はそれを易々と突破し、長い尾から生えた針でアンナの腹を貫いた。
腹を貫かれたアンナは、巨大なヘルビーキメラ達を見ると不敵に笑うと体を水に変化させその場から消えた。
その様子に驚いたヘルビーキメラは、急いで周辺を警戒した。
しかし、それは時すでに遅かった。
「残念、時間切れ。私の勝ちね」
そう言うと先ほどまで何もなかった空中から、アンナは現れた。
まるで先ほどまでの攻防が嘘のようにその身体には傷どころか、汗一つかいていなかった。
空中で浮遊するアンナに小型のヘルビーキメラ達は、襲いかかろうとするも、間に合わず、アンナの魔法発動の方が速かった。
「世界構築『黒縄炎獄』」
アンナが魔法を発動した瞬間、アンナを中心に回りの様子、環境、世界が変化していった。
地面から土が消え、煮えたぎる溶岩となり、吹き抜ける風は肺を焼く熱風になった。
そして、全ての変化が終わったときには、そこは先ほどいた世界ではなく、まさしく地獄を彷彿させるような、光景に変化していた。
「さぁ、そろそろ本当の闘いを始めましょうか」
アンナは先ほどまで来ていた服から一変、深紅のドレスに身を包み、手には大きな鎌を持っていた。
世界構築。
魔法の終着点ともいえるこの魔法は、自身の世界を創りその世界の神になる魔法だ。
世界構築で創られた世界の中では、創造主の創った法則しか働かず、あらゆる物理法則、魔法も捻じ曲がる。
そして、その世界で創造主は絶対の存在であり、その世界では創造主の思うがまま世界が変化する。
だから、こういったこともできる。
アンナは指先をヘルビーキメラ達を横切るように振った。
すると地中から、溶岩できた強大な大蛇が現れ、次々と小型のヘルビーキメラ達を飲み込んでいった。
飲み込まれた小型のヘルビーキメラ達は瞬く間に燃やし尽くされ灰も残さず消えていった。
先ほどのアンナの攻撃を辛うじて逃れた原因体は、身の危険を感じ逃走しよとした。
だが、アンナの創った世界に逃げ場などない。
アンナの世界は中心から離れるほど環境が過酷になる。
全方向からの圧力、放電、かまいたち。
通常では考えられないような現象が平気で起こるのだ。
そして、逃走をしようとした原因体もまた、アンナの世界の法則に逆らえず、あっさりと全身を圧迫され炎に飲まれ消えた。
小型のヘルビーキメラ達は親玉が死んだことでパニック状態に陥った。
ある個体は無謀にもアンナに特攻し、焼き殺された。
逃げようとしたは、落雷に撃たれ死ぬモノ、大蛇に飲まれ死んだもの、圧死したものもいた。
唯一共通しているのは、この世界に飲み込まれた魔物は等しく死んでいることくらいだろう。
アンナの一方的な魔物の殲滅は彼女の世界の魔物が全滅するまで続いた。
時間にして数分ほどだろうか?それほどまでに短い時間で数万匹いた魔物を全て殲滅した。
「ふぅぅ。これで全部ね。はぁ~終わった、終わった」
アンナは背伸びをすると世界構築の魔法を解いた。
魔法を解くとそこには、先ほどまであった光景が広がっており、服ももとに戻っていた。
アンナはヘルビーキメラによって変化した地形を魔法でできる限り修復すると、バラライカに念話をした。
『原因体の殲滅終了。次の指示を』
『別、原因体の元へ』
『了解』
バラライカは念話に即座に応答すると、アンナにエルビスの戦闘している場所を伝え念話を切った。
アンナは地形の修復をもう一度確認すると、エルビスの元へ転移するのだった。
アンナがエルビスの元へ転移するとそこには、全長40メートルはありそうな双頭のドラゴンが真っ二つになって倒れていた。
まぁバラライカが原因体の殲滅と言わなかった時点で既に討伐が終了していることは予想が付いていたが、自分の倒した魔物よりも大きくて少しアンナはムッとした。
「よっ、そっちも蟲型の討伐終わったか」
「あんなの楽勝よ。ついでに下っ端もまとめて焼き尽くしてやったわ」
「焼き尽くしたって、素材もあるのに相変わらずもったいないことしやがるな」
「竜や獣ならいざ知らず、蟲の素材なんて嫌よ!そんなの私の収納魔法に入れたくないわ」
「はぁ……わかった、わかった。ならさっさとコイツをしまってくれ」
「はいはい」
アンナは嫌々、真っ二つに割れたドラゴンを収納した。
『バラライカ、状況の説明を頼む』
『少し待て……なるほど、今サラーナとアーサーは蟲型の上位個体の討伐中、ゼルカナトの方は飛竜の討伐が終わったらしい。バルバロとクトラー、シェリーの方はかなりの魔物が押し寄せているらしいが、まぁ問題ないだろう』
『私達はどうすればいいかしら?』
『アンナ、エルビスは街の防衛に回ってくれ。遊撃にはゼルカナトに回ってもらう』
『了解』
『了解したわ』
バラライカの指示を聞くと二人は街の方へ転移した。
転移した先で起こっていた光景を目にし二人は半ば呆れた。
「なぁ、あれってなんだ?」
「……さぁ?」
二人が目にしたのは、その場に立ち尽くす騎士や冒険者たちと空中に無数の大砲を浮かせる者と、地面から永遠と土人形を作る者、最後に二人を止めようする一人の女性がいた。
彼らの二人のお陰で、魔物ほとんどが大砲で打ち抜かれ倒れたり、土人形に倒されたりして街にはほとんど魔物が襲ってきておらず、辛うじてくぐり抜けても、女性の魔法によって確殺される。
一見、素晴らしい連携に見えるが、実際は全く連携など取れていない。
やむことなく撃たれる大砲の弾幕は、砲弾が榴弾のように着弾時に爆発するために近くにいた土人形も破壊するし、土人形も破壊された時に、鉄の破片をばら撒き爆発する破片手榴弾のような構造のため味方ごとズタズタに破壊する。
そのせいで戦場は完全に彼らの独壇場とかし、戦いに参加しようものならこちらが味方に殺されてしまう。
「なぁ。これ俺ら必要あるか?」
「ないわよ。これ、だれが後処理するか、わかっているのかしら?」
「まぁ頑張れよ」
「はぁ……シェリーにも手伝わせないと私の魔力がなくなるわ」
「まぁ拠点防御をこいつらに任せたらこうなるわな……」
二人は呆れつつもなんやかんやでシェリーと同じようにすり抜けた魔物達を倒すのだった。
同刻、部下達を回収し、周囲の魔物を殲滅し終えたバラライカは、一つの疑問に直面していた。
おかしいな。部下の報告だと原因体は竜と蟲の二体。
だが、シェリーの話だとミーシャを襲ったのは、獣の魔物……。
まさか、この暴走は終わってないのか——。
だとしたら……くっ、仕方ない。
「お前たち、仕事だよ。まだ原因体が残っている可能性がある。探しなさい」
「「「御意」」」
バラライカは、部下に指示を出すと自身も森の中へ消えていった。
ただ一心にこの時を待っていた。
傲慢な双頭の竜が死に、狡猾な蟲が滅ぼされるのをひたすら闇に紛れ待っていた。
竜には力で及ばず、蟲には数で及ばないが、生まれ持った知性を使い今まで生き残ってきた。
増やした仲間を喰らい、気取られないようにひたすら闇に隠れていた。
そして、ついにこの時が来た。
我々が上に立つ時が来たのだ——。




