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第十六話 暴走(スタンピード)

おじさん達と別れた後、私はセリナの家に馬車でやってきた。

伯爵令嬢というだけあって、広い敷地には色とりどり花が咲き、大きな屋敷の中には何人もの使用人さん達が仕事をしていた。

もし、私の心に余裕があれば、本物のメイドさんやら、執事さんやらに興奮していたのだろうが、今はそれどこではなかった。

私の心の中は先ほどの出来事で、不安でいっぱいだった。

魔王軍、大規模スタンピード。

意味の分からないが、なんだか大変なことが起きそうな言葉よりももっと大変なこと。

もしかした私の人生を左右するかもしれないことそれは……。


ほ、本当にセリナは伯爵令嬢だったよ。

ど、どうしよう……このままだと私、何か処罰とかされるのかな。

その場の流れで、伯爵家までお邪魔してしまったけれど……うぅぅん。

やっぱりここは正直にセリナに謝って情状酌量を願うしか……。

だ、大丈夫いざとなったら前世の知識、謝罪の究極系『DOGEZA』を行使すれば……。


土下座をしたところでこちらの世界でその文化がなければ、そもそも謝罪としての意味すらない。

なんてことには気が付かず、前世の知識を万能だと思いこんだ私は、セリナに意を決して謝ることにした。

幸いここは、セリナの部屋であり、使用人の人たちの姿は見えず、チャンスはここしかないとおもったのだ。


「せ、セリナいや、セリナ様、今までごめんなさい。その伯爵令嬢とは知らなくて……無礼なことしてごめんなさい」


「い、いきなりどうしたのミーシャ?私、そんなこと気にしてないから頭を上げて」


「でも……」


「ほら、私達、友達でしょ?だから今更そんな態度とらないで」


「ありがと——」


セリナと私の友情に感動してお礼を言おうとしたときだった、セリナはニヤリと怪しげな笑みを浮かべた。


「でも、やっぱり伯爵令嬢をからかったりするのは、いただけないわよね」


「うぅ……。私達、友達でしょ?」


「そうね。本当だったら処刑だってされてしまうかもね。でも友達だから減刑して罰金ね」


「ば、罰金って……私、お金持って——」


持ってないと言おうとしたとき、セリナは私に詰め寄り、顎にそっと手を触れた。


「知ってるよ。だ・か・ら、ミーシャには身体で払ってもらうわね」


セリナはそういうと私を部屋にあるベッドに押し倒した。

ベッドに押し倒された私は体格の差、種族の差もあって簡単にセリナに拘束された。


「ちょ、ちょっと、セリナ!私達、女の子同士だよ!」


セリナは私に馬乗りなると、頬を赤くしながら自分の服に手をかけた。

ま、まずいよ!このままだと本当に私の初めてがセリナに……。


「ふふふ、大丈夫。私も初めてだから——」


「え、ちょっと、心の準備が——」


「大丈夫、優しくしてあげるから」


「うぅぅぅ——」


は、初めての相手が女の子なんて絶対おかしいよぉ……でも、私もいずれこういうことを……。

そうなったら、やっぱり相手は男の人で——、でも、男の人に抱かれるって嫌だし……。

なら、いっそのこと女の子と……セリナが初めてでもいいかな……。


セリナは自身の上着を脱ぎ、下着姿になった。

はじめは、抵抗していたミーシャであったが、心境の変化があったのか、徐々に抵抗する力が抜け、大人しくなっていった。


「これは襲ってもいいってことだよね」


「……」


私は恥ずかしくてセリナの顔を見ることできず、プイと顔を逸らした。

無言を了承だと受け取ったセリナは、私の服に手を脱がそうと手を伸ばしてきた。

私の洋服のボタンを丁寧に外していくセリナを私は、恥ずかしさから直視することはできずただされるがままでいた。

熊の魔物と相対したときは別の緊張から、身体は硬直し、顔は湯気がでるんじゃないかと言うほど熱くなっている。

上着のボタンを全て外され、胸元の開けた私にセリナは囁くように耳元でいった。


「——綺麗ね」


「……ぁ、ぁ、ありがと——」


私は羞恥に頬を赤く染めながらも、セリナに言った。

恥じらいながらも、懸命にセリナに言葉を紡ごうとするミーシャの姿にセリナはぐっと胸を苦しそうに抑えた。

先ほどまで、主導権を握り余裕を見せつつも、ミーシャに怖がられないように欲望を抑えていたダムが決壊しそうになる。


うぅぅ……。

それは卑怯だよ、ミーシャ。そんな顔されたら私もう我慢できない。

いいよね?いいのよね?それじゃ——。


そしてついに、セリナの欲望が決壊し、ミーシャの体に手を伸ばそうとした——。


『セリナ!緊急を要する、すまないが、勝手に入るぞ』


「な!今はダ——」


セリナの制止の声も聞かずに部屋のドアが開け放たれ、一人の人物が部屋に入ってきた。

入ってきたのは、セリナと同じく常闇の様な黒い髪に、一本の角を持った大人の鬼人の女性だった。

髪の色といい容姿もどことなくセリナに似ており、大人版セリナのような凛々しくカッコいい美人な人だった。

彼女は、部屋に入ってくるなり、要件を伝えようとした。


「セリナ、暴走スタンピードが起きた。今この街に魔物の群れが押し寄せて……」


だが、その要件を全て伝える前に、部屋で起きていた光景を目にしてしまった。

開けた私が下着姿のセリナに押し倒されている様子。

見たかによっては、少女が幼女を襲っているような何とも犯罪臭がする光景を……。

それを目にした女性は、咳払いを挟むと、何とも申し訳なさそうにいった。


「そ、そのセリナ、邪魔して悪かった。まさか、取り込み中だとは思わなくて……」


「……」


「……」


顔を見合わせた私達であったが、先程までの熱に浮かされたかの様な状態から一変、一気に頭が冷えてきた。

そして、私は悲鳴をあげた。




そこから何があったかは少し割愛します。

私と主にセリナの名誉のために言いますけど、これは俗に云う若気の至りという奴なのです。

まぁざっくり説明しますと、私がセリナにその……抱かれそうになる直前に部屋に入ってきた女性。

容姿からも想像がつく通り、案の定セリナのお母様でした。

セリナのお母様に、その行為中を見られた私達は大急ぎで服を着て、何事もなかったかの様にしました。

実際、何も起きてない、というか起きる直前であったので事実には、違いないのですが……。

そして、改めてお母様を部屋にお呼びし、私達は事体の収拾に入りました。

と言っても私は色々な羞恥からずっと黙って、顔を真っ赤にしながら座っていたので、あんまり覚えていませんが。


だって想像してくださいよ!いきなりそう言う雰囲気になって、戸惑いつつも受け入れようとしたら、親登場ですよ。

前世でも経験のない私にどこまでハプニング起こせば気が済むんですか。

途中から泣きそうでしたよ!というか普通に恥ずかしく泣きましたよ。

お陰様でセリナのお母様からも心配されるしで、ほんとカオスでした。

まぁ私の涙もあってか、このことはなかったことにしようと私達三人の中でなりました。


終わり。


終わりですよ。

だから掘り返さないでくださいよ。

恥ずか死んで転生とか嫌過ぎですからね。




私達は今、セリナの部屋にあるソファーでセリナのお母様、スイーシさんと向かい合うように座っている。


「——グスン」


「それで、お母様、私に一体何の用があったのですか?」


「そ、そうだった。本題に入る前に今の状況を説明しよう」


スイーシは今、この街で起きようとしていることについて語った。


「今、この街は大規模な暴走スタンピードに巻き込まれようとしている」


「お母様、スタンピードとはなんなのですか?」


暴走スタンピードというのは、原因体コアと呼ばれる異常成長した魔物によって引き起こされる魔物の大量発生のこと。暴走スタンピードは一種の天災みたいなもので、頻繁に発生することはないのだけど、過去に国を一つ滅ぼしたことさえあるものなの。原因体コアによって増えた魔物は通常の魔物よりも狂暴化していているうえ、原因体コアの戦闘力は桁外れに高いと言われている」


「そ、そんな——」


私が表情をこわばらせているとスイーシは優しく言った。


「大丈夫だ。先ほどこちらに魔王軍を派遣したという知らせが入った。それに既に別の魔王軍の方々が原因体コアの討伐に動いているらしい。軍が動いているのならすぐに暴走スタンピードは終息するだろう」


「お母様、暴走スタンピードについては理解しました。それで、本題というのは?」


「あぁ。これより私は正門にて魔物の群れを迎え撃つ。原因体コアは魔王軍の方々に任せるとしても、増えた魔物が街を襲うことは変わりないからな。セリナ、お前には裏門の警備に加わってもらう」


「裏門の警備ですか?正門ではなく?」


「そうだ。お前もアイギス家の者として、貴族の義務を果たさなくてはならない。だが、お前は未熟だ。魔物の群れ相手では荷が重い。だが、貴族とし戦いに参加しないという選択肢はない。だからお前には、裏門も警備に加わってもらう。異論は認めんぞ」


「わかりました。お母様。ミーシャそういうわけだから、すまないが私の部屋で待っていてくれないか」


セリナは私に申し訳なさそうに言った。

かく言う私はというと、不安と心配でいっぱいだった。

スタンピード、魔物の氾濫。

どうして気が付かなかったんだろう。

スタンピードと言えば転生ものの定番イベントではないか。

そしておそらくだが、原因体コアの討伐に動いているのは、バラライカおばさん達だ。

話を聞く限り原因体コアは、暴走スタンピードを起こしているボスモンスターなのだろう。

そしてそのボスモンスターの取り巻きの雑魚モンスターがでも、今の低レベルの私では苦戦を強いられるだろう。

それは、セリナも同じことだろう。

先の野外活動の動きを見るに、私よりはレベルが高いのだろうが、見た目こそ年上に見えるが、彼女も実年齢は私と変わらない少女なのだ。

だが、彼女は民を守る貴族の務めを果たすために、戦場に向かわなければならない。

仕方のないことだとわかっていても、セリナの事を思うと行ってほしくはない。

友達として、危険な目にあってほしくない。

自分だけ安全なところでいるのは、嫌だ。

そう思ったとき、私は一つの妙案を思いついた。


「ス、スイーシ様、恐れながら私、ミーシャ・フォン・シリウスもセリナ様に同行させていただけませんか?私もこれでも騎士の爵位を持つ貴族の端くれです。民を守る義務がございます」


「貴女は何ができるの?」


「魔法、回復魔法が使えます。それに弓もできます」


私がそう言うとスイーシは顎に手を考える素振りをした。

だが、そこにセリナが割って入ってきた。


「ダメだ!ミーシャは私の部屋に居てくれ。また、あの時のようになるのは嫌なのよ!」


「大丈夫、次は失敗しないから。それに私も貴族なんだよ。戦わないといけないの」


「それでも……私はミーシャをなくしたくないの」


セリナの必死な言葉に一瞬、私の決意が揺らぎそうになる。

だけど、私は思い出してしまった。

私の力が何なのか。

転生リンカネーションそれは、消えた命の灯火に再び火を灯す力。

死してなお、立ち上がる力であることに。


この力がある限り私は死んでも生き返る。

だからセリナの危惧していることは絶対に起こらない。

でも、今このことを伝えるのは少し無粋かもしれない。

ならば、どのようにしてセリナに伝えればいいのだろうか。

セリナはきっと私に傷ついて欲しくない。

あの日のようなことを繰り返したくないのだろう。

もしかした、あの日のことはセリナのトラウマになっているのかもしれない。

そう思うと尚更、セリナが私についてきて欲しくないという気持ちも理解できる。

だけど、私は自分のエゴを優先する。誰だって大切な友達が傷つくくらいなら自分が傷つく方がいいんだ。

それが死なない身体ならなおさらだ。

だから、私は少し卑怯なことをすることにした。


「そんなに私が大切なら、今度こそ守ってよ」


私はとびっきりの笑顔でそう言うセリナは私にギュッと抱き着いてきた。


「わかった。今度こそ絶対に守ってみせるから、絶対」


「むぅぅぅん。く、苦しいよぉ」


「おいおい、セリナ、ミーシャちゃんが苦しんでいるぞ。まったく、まだ私は何も言ってはいないのだが」


呆れた顔で言うスイーシであったが、彼女はそれだけ言うと席を立ち部屋から出て行こうとした。


「ほら、二人ともじゃれてないで支度しろ。魔物討伐だ。ミーシャちゃん、屋敷にあるものだったら何でも使っていいから、あと戦うってなったら魔力は極力温存しなさい。大切なときに使えるようにね」


「は、はい。ありがとうございます」


「セリナ、貴女は自分のお姫様をしっかり守んなさいよ」


「お、お母様!」


クスクスとスイーシは笑いながら廊下で待機していたメイドさんに『後は任せた』というと颯爽と部屋を去っていった。

残された私達はというと、メイドさんがこちらに来るなり私の体を巻き尺の様なもので計ると部屋を飛び出し、帰ってきたと思ったら小さな胸当てや皮鎧を両手に持ちあっという間に私に装備してくれた。

胸当て以外全て皮鎧なのは、不慣れな鎧よりもこちらのが、いいという判断らしい。

武器の方も私の体に合う小さめの弓と短剣を見繕ってくれ、さらに高価な回復ポーションまで持たせてくれた。

さすがは、伯爵家に使えるメイドさんなのか一瞬で魔物討伐の準備が整ってしまってびっくりした。

セリナの方はというと、動きやすい服に着替え、腰に剣と回復ポーション吊るしただけで正直私よりも軽装備だった。


「セリナ?その装備でいいの?」


「うん?あぁ大丈夫よ。私のスキル『騎士の誇り(シュヴァリエ・フィエルテ)』は武器と防具を創るスキルだからな。寧ろ鎧を纏うと重く邪魔になってしまうんだ」


「そうなんだ」


この世界では、人のスキルやステータスのことを詮索するのは、あまり褒められたことではないので、私はセリナのスキルにはあまり言及しなかった。




準備が整った私達は馬車に乗り込むと裏門の方へ向かった。

馬車の中で私とセリナ、後、何故か同乗している執事のギルさんと少し話した。


「各家の当主とその私兵、街の騎士団、有志の冒険者が今、魔物の来る予定の正門付近で陣を構えています。そして、今向かっている裏門には、各家の次期当主候補や低ランクの冒険者が既に陣を展開しています」


「つまり、私達はそこに加わればよいのですね?」


「その通りです、ミーシャ様。生憎と当家の私兵は全て正門に集結しているため護衛は私だけですがね」


ギルによくできました。と言われんばかりの表情をされ喜んでいるとセリナは冷たい目をジルに向けながら言った。


「その護衛が何故、私達と同じ馬車に乗っているの?」


「それは、ロリコンからミーシャ様を守るためです」


「ろ、ロリコン……」


「誰がロリコンですって?」


ギルにロリコン呼ばわりされて怒っているセリナをよそに私は内心、少し傷ついていた。

ろ、ロリコン……私ってまだロリッ娘なの?確かにまだ身長も低いし……胸も小さいけど……。

私は自分の胸に手を当てて自身の成長の確認をした。


ペタ———————————。


今、悪意のある効果音が聞こえましたよ!

べ、別にぺったんこで、少し小さいくらいでロリッ娘判定はシビアじゃないですかね?

十歳の割に少しだけ成長が遅いだけであって、ロリではないんですよ。

精神は大人なのですからね!

というか、さっきから君達あんまり、ロリ、ロリ言わないでください!

私だって、私だって成長してるんですから!

ロリっ娘扱いされ、若干傷心中の私をよそにギルとセリナは攻防ヒートアップしていた。


「お嬢様、捕まってからでは遅いのですよ。世間はロリコンに厳しいのです」


「だから、私は別にロリコンではない、ミーシャが好きなだけだ」


「それを世間ではロリコンと言います。お嬢様、手を出してしまってからでは遅いのですよ」


「…………」


無言のセリナを見たギルは、手を額に当て天上を仰いだ。


「お嬢様、まさか既に……」


「ま、まだ、何もやってないわよ」


セリナの発言を自白と受け取ったのか、ギルは私に頭を下げた。


「もう手遅れに……ミーシャ様、お嬢様に変わり謝罪します。さぁお嬢様自首しましょう」


「い、嫌よ!私は……」


「お嬢様、手を出したロリコンは等しく有罪なのですよ」


ギルはそう言うと懐から取り出した手錠で、セリナを拘束した。

えっ?なんで執事さんなのに手錠持っているんですか?といかセリナの執事さんなのに普通に逮捕してるんですけど……。

手錠されたセリナも突然のことで驚いていると、今度はギルは懐から小さな鍵を取り出した。

おそらく手錠の鍵と思われるそれを、馬車の窓を開けポイと投げた。


「あ」


「あぁぁぁぁぁ!」


「静かにしてください、ロリコン様。ここにはミーシャ様もいるのですよ」


「ぎ、ギル今な何を捨てたの!」


「手錠の鍵ですが?」


手錠をされながらも胸元を掴んで必死に詰め寄るセリナを余裕たっぷりにギルはバカにする。


「これから、私達は魔物の討伐に行くのになんで手錠の鍵捨てるのよ」


「お嬢様、手を出したロリコンを外に放つのも魔物と同じくらい危険ですからね」


「ギィィィィルゥゥゥゥ。クビよ!クビ!主人を犯罪者呼ばわりして、拘束する執事なんてクビよ!」


「犯罪者も何も手出したんですよね?」


「…………あれはセーフだし」


尻すぼみになるセリナの言葉にギルはセリナの目の前で足を組むと笑顔で追い詰めた。


「部屋に連れ込んだりしてないですよね?」


「…………」


「もしや、無理矢理ベッドに押し倒したりは?」


「…………」


「あろうことか、服を脱がせたりなんかしてないですよ?」


「…………」


セリナなんか言わないとダメだよ!その沈黙は不味いよ。

私はセリナに何とか弁明をしてもらいたかったのだが当のセリナはというと。


無言で俯きセリナは徐々にプルプルと震えてきていた。

私は流石に助けてやろうと思ったのが、私がギルの方を見ると懐から小さな鍵を私にだけ見えるようにして、こちらにウィンクしてきたのだ。

あれってもしかして、手錠の鍵?

そして、セリナに見えないように飴玉を渡すと舐めるように身振り手振りで伝えてきた。

私は言われるがまま、口に飴玉を含んだ。

飴玉をとっても甘くて私の好きな果物の味だった。

私はほっぺに飴玉を含んでいる間にギルはセリナにも飴を与えた。

もっとも飴玉ではなかったが……。


「お嬢様、やってしまったことは仕方がありません。しかし、私もお嬢様に仕える執事の一人。ですのでお嬢様が私の言う通りのことを言えば、私も先ほどのことは忘れましょう」


「ほんと?」


「ええぇ。本当ですともいいですか。『私はロリコンの変態です。可愛い幼女に手を出しちゃう悪い子です』と言ってください」


「うん……。わかった」


セリナは追い詰められた末に与えられて逃げ道に向かう愚かに獲物のように従った。

私はこの鬼畜執事にセリナが乗せられる前に止めようとするも口に入った飴玉のせいで上手くしゃべれない。

こちらの動きに気が付いたギルは私の方を見るとまたもや懐から何かを取り出すとそれを私に渡してきた。

紙袋に入ったそれはなんと、私の大好きなドーナッツだった。

私は急いで口に入った小さな飴玉を噛み砕くともらったドーナッツを口に含んでしまった。

知らない人から物をもらってはいけないと散々前世で言われてきたのに、私はまったく気にせずに食べてしまった。

そのせいで私はギルの行動を止めることができなった。


ギルは、またまた、懐からモノを取り出した。

今度は飴玉や手錠、ドーナッツでも少し小ぶりの水晶玉であった。

水晶を取り出したギルはとてもいい笑顔しながら、若干半べそ気味のセリナに向けた。

水晶から発せられた魔力を感じ、私が顔をあげた時には既に遅かった。


「わ、私はロリコンの変態です。可愛い幼女に手を出しちゃう悪い子です」

「はい、よくできました。それではお嬢様、私は先ほどのことは忘れます。ほら、ドーナッツでも食べて落ち着いてください」

「うぅん。……ありがとう」


セリナはそう言うと無言でもらったドーナッツを食べ始めた。

その様子に満足したギルは先ほど水晶に魔力を流し、それを耳に当てた。

そこには、先ほどのセリナの言葉が一字一句残さず入っており、それを確認すると満足そうに懐にしまった。

その一部始終を見ていた私にギルは、そっと耳打ちしてきた。


『幼女扱いして、申し訳ございませんでした。先ほど見たことどうぞご内密に……追加のドーナッツいかがですか?』


『わ、賄賂ですか』


『ふふ、いいえ。迷惑料ですよ』


そう言って笑顔でこちらを見るギルに私は一つの結論を導き出した。

この執事さんはドSさんなのです。

私がロリッ娘でご機嫌斜めだったのにも気が付いていたようですし、セリナを虐めて恥ずかしい発言を言わせて魔道具で録音してるし。あぁセリナが可哀そう。こんなドS執事さんの標的にされて……。

セリナ強く生きてね。


『ドーナッツに罪はないです。あと、後で執事さんのコレクション見せてもらってもいいですか?』


『ええ。もちろん。その代わりと言ってはなんですが、たまにお手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか。もちろん報酬は、はずみますよ』


『考えておきます』


私はそう言うとギルからちゃっかりドーナッツを拝借し、食べるのだった。

セリナごめんね。

私もさっきみたいな虐められてるセリナがおもしろ……可愛……えっと普段見れない姿が見たいの。

だから、ごめんね。私、いけない子なの。

うん。だから、色んな意味で強く生きてね。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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