表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

817/819

第七百六十五話 迷子の気分

最終話まであと数話です。

もう少しだけお付き合いいただければ、幸いですm(__)m


 フィーネの言葉は予想外で。

 ついつい動きを止めてしまった。

 そんな俺の手をそっとエルナが掴んだ。


「アル……」

「……」

「また、行くの……?」


 問いかけに何と答えていいのかわからない。

 そうだ、また行くんだと、直接エルナに言えるほど、俺の心は図太くはない。

 ただ、沈黙は肯定。

 エルナは何かを察して、俺の手を離した。

 そして、ぐっと俺の顔を掴んだ。


「どこかに行くなら……私も連れてって!!」

「エルナ……」

「もう一人じゃ行かせないから! 駄目と言われてもついていく! 騎士だというなら……最後まで供をさせて! 誓ったの!! 傍に仕えると! あなたの傍に!! アルが諦めたって、私は諦めないから!!」


 エルナはエルナで思うところがあったんだろう。

 二人に連れていけと言われて、俺は困惑する。

 物好きにもほどがあるから。


「落ち着け、二人とも……」

「落ち着くのは兄さんだよ」

「レオ……」

「観念しなよ。二人とも……逃げても追いかけるよ? どこまでも、いつまでも」


 もちろん僕も協力を惜しまない。

 そんなレオの言葉に俺はため息を吐く。

 やめてほしい。そんなことを言うのは。

 決意がブレてしまう。


「俺は……」

「聞きたい言葉は肯定だけです!」

「そうよ! 連れていくと言いなさい!」


 二人に迫られ、俺は体を軽く引く。

 圧がすごい。

 たぶんだけど。

 俺は女性の圧に弱い。

 ずっとエルナが近くにいたというのもあるが、姉二人があれだから。

 ついつい、圧を感じると下がってしまう。

 それにしてもフィーネまでこんなに食い下がるなんて。

 自分が傍で幸せにするなんて、意味が分かって言っているんだろうか?


「アルは……いつも勝手よ! 自分でなんでもできるからって、自分一人でやる必要はないでしょ!?」

「そうです! 必ず役に立ってみせます!」

「あなたの代わりにはなれないけど、片腕くらいにはなるから!」

「そうです! だから!」

「「連れて行って!!」」


 連れて行けと言われて、喜んでと言えるような旅じゃない。

 楽な旅じゃないのだ。

 それに二人を巻き込むのは……気が引ける。

 いや……その勇気が俺にはない。


「兄さん……物分かりの良さを求めないほうがいい。僕らは三年間、待ったんだ」

「まったく……」


 痛いところを突いてくる。

 三年待たせたのだ。

 必ず帰るといって、三年待たせた。

 そのうえで、帰ってきて早々、消えようとしている。

 どう考えても俺が悪い。

 悪いのだけど。

 けれど、仕方ないことでもある。

 だから。


「それなら……俺を見つけられたら連れていく。探してみろ。すぐ見つかるかもしれないぞ?」


 それだけ言うと俺は転移門に入った。

 現れた場所は帝都の上空。

 拡声の魔法を使い、俺は帝都に集まった者や帝都周辺の街まで声を届ける。


『聞け、帝国の民よ。この俺、アルノルト・レークス・アードラーは帰って来た。そして……よく覚えておけ。皇帝ヨハネスと皇太子レオナルトの治世であるかぎり、俺は常に陰から帝国を見ている。悪意ある者は言っている意味がわかるな? 命を無駄にするな。この帝国で余計なことを考えるならば……俺が許さん』


 これは警告。

 俺がいるぞ、という警告だ。

 これで俺は抑止力となれる。

 アルノルトなんて、シルバーなんて、怖くないという奴は出てくるだろう。

 けれど、多くの者は俺を恐れて帝国を離れる。

 心にやましいところがある者は、俺の影におびえることになるから。

 どこまで逃げても俺の影はそいつらを離さない。俺が健在であるかぎり。

 なぜなら俺の行動範囲は大陸全土だから。

 定期的に俺が現れれば、その抑止力は強力だ。

 俺の行動に文句を言う国家元首もいないだろう。

 三年たったとはいえ、いまだ各国は復興段階。

 俺と敵対することにメリットはない。よほど俺の行動が問題でないかぎり、放置される。

 俺はもう皇子でもなければ、SS級冒険者でもない。

 第三勢力として大陸に君臨する。

 そう思わせればいい。

 それで救われる命があるのだから。


「いつも通りの暗躍だと思ったんだけどな……」


 ポツリと呟く。

 このまま姿を消して、陰から世界を見守る。

 その予定だった。

 けれど、連れて行けと二人は言うし、レオは観念しろと言ってくる。

 誰も納得していない。

 正論でもなんでもなく、ただ感情をぶつけられてしまった。

 理論的に説得されたなら、こちらにも返す言葉がある。

 けれど、感情的に連れて行けと言われると返す言葉がない。

 なにより、それを嬉しいと感じる俺がたしかにいる。

 ただ、嬉しいと感じて、それを受け入れていいのかどうかがわからない。

 自分の好きなようにやってきたけれど、自分の嬉しいとか、好きとかっていう感情で動くことはあまりなかった。

 だから、困る。

 今、自分はどうすればいいのか。

 迷子の気分になりながら、俺はその場を転移門で去った。

 行く場所は決めている。

 俺が逃げ込める場所は限られているからだ。




■■■




「今日は休みなのか?」


 帝都の最外層。

 そこに立派な道場が立っていた。

 そこに俺は勝手に入り込み、静かに座っている茶色の髪の男に話しかける。


「皇太子の結婚式だぞ? 休みに決まってるだろ」

「それもそうか」


 苦笑しながら、俺は道場の中を進む。

 そんな中、ゆっくりと男が立ち上がる。


「いろいろと言いたいことがある」

「だろうな」

「まずその前にすることがある」

「そうか」

「アル」

「なんだ? ガイ」

「歯を食いしばれ」


 言われたとおりに歯を食いしばると、腰の入った右ストレートが俺の頬に飛んできた。

 思いっきり吹き飛ばされて、唇からも血が出る。

 その血を拭いながら、俺はガイを見つめる。

 鼻を鳴らし、腕組みをしながらガイは告げた。


「世界を救った英雄様だからな……お前を殴ってくれる人は少ないだろ? だから俺が殴ってやった。お前が困らせて、悲しませた人たちを代表してな。感謝しろ」

「ああ……ありがとう」


 ガイは快活な笑みを見せると、尻餅をついた俺に手を伸ばす。

 その手を取ると、ガイは俺を引っ張り起こした。

 そして。


「よく帰って来たな、アル」


 ガイは俺の背を叩いてそんなことを言った。

 距離感は変わらない。

 いつだってそうだった。

 だから、俺とガイの関係は変わらない。

 今も、昔も。


「ちょっと……ここにいていいか?」

「いたいならずっと居てもいいぞ」

「そういうわけにもいかないだろ……ちょっとでいい」

「まぁ、お前がそう思うならそうすればいい。それはそうと、フィーネ様やエルナに迫られているようだったな?」


 さすがに冒険者か。

 目が良いことで。


「まぁ、そうだな」

「それで圧に負けてここに逃げ込んだわけか。アル、お前とレオで明確な違いを教えてやる。女への対処法だ。お前は意気地なしで、レオは違う。覚悟が決まってる。実際、結婚したしな。お前とは雲泥の差だ」

「……だからなんだよ」

「話してみろよ、なんて言われたか。ダチとして笑ってやるからよ。とてもほかの人には聞かせられない意気地なしの話でも、ダチになら話せるだろ?」


 ニヤニヤと笑うガイを見て、俺は肩を竦めて、そして二人に言われたことを話し始めたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エルナもフィーネもめっちゃ尊い(*´ω`*) それから…ガイ逃げてー!!めっちゃ押し寄せて来るからー
[一言] てっきり頬を殴ると見せかけて腹を殴るものとばかり
[一言] 面白すぎてまた最初から読み直してきちゃった…! 他の女性人も押し寄せそうだから、一気に幸せすぎる展開になりそうな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ