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第七百五十三話 皇帝たち

予約投稿ミスってました、すみません


 どれほど時間が経っただろうか?

 ただひたすら結界の完成だけを目指して、魔法を編み続けた。

 時間の流れが大陸と同じなのかどうかもわからない。

 ただ、長い時間ずっと結界を調整している。

 生活に必要なものは何もないが、そもそも生活する必要がない。

 四宝聖具の圧倒的な魔力が俺の体を覆って、俺の生命活動を維持してくれている。

 魔力が切れることもない。

 安心して結界作成に集中できる環境といえるだろう。

 けれど、たまにどうしてこんなことをやっているのか? と疑問を抱くことがある。

 そんなときは精一杯、頭をフル回転させて思い出を思い起こす。

 レオとの思い出、フィーネとの思い出、エルナとの思い出。

 だけど、いつも同じ思い出ばかりだと飽きてしまう。

 たまに違う思い出を思い出そうとするが……。


「思い出せないな……」


 久々に声を発した。まだ自分が声を発することができたことに驚く。

 それはそれとして。

 どんな声をしていた?

 どんな表情を浮かべていた?

 強い思い出以外、思い出すことができない。

 だから。

 思い出すことをやめて、作業に集中した。

 思い出がなくても作業はできる。

 ただ、寂しいだけだ。

 けど、もう涙も出ない。

 今の俺は歯車と大差ない。

 結界を完成させるために時間を使う。

 それしかやることがなく、それだけは絶対にやり切るという意志がある。

 使命感。

 それだけが俺を動かしていた。

 結界は順調だ。まだ永久機関として完成はしてないけれど。

 誰かがそばで調整し続けないといけない。

 それが俺の役目。

 そう思っていた。

 いずれは調整役がいなくても機能するようになる。

 そうなったら。


「帰りたいなぁ……」


 帰る場所があるのかもわからない。

 ただ、帰ると約束した。

 その約束を嘘にはしたくない。

 みんな元気だろうか?

 許してもらえるだろうか?

 勝手なことばかりして、怒っているだろうか?


「怒られるのは嫌だなぁ……」


 ボソッとつぶやいた。

 そんな俺の独り言。

 けれど、反応する声があった。


『ちゃんと怒られなさい。しっかりと説教を受けるべきよ』


 懐かしい声。

 振り返ると、そこには呆れた表情のザンドラ姉上がいた。


「ザンドラ姉上……?」

『馬鹿ね……』


 ザンドラ姉上はそっと俺の頭を撫でる。

 すると、反対方向から声が届いた。


『あとは結界の調整のみ。完成させる必要はない。調整役がここにいればいいのだから』


 姿を現したのはエリク兄上だった。

 フッと微笑むと、エリク兄上は呟いた。


『よく頑張ったな』

『結界の調整など俺にはわからんがな! まぁ、任せろ!』


 豪快な笑みを浮かべながら、ゴードン兄上が俺の背中を叩く。

 そして。


『私たちはお前に多くのことを託してしまった。せめて、この役目は私たちに託していけ』


 俺の目の前にヴィルヘルム兄上が現れた。

 驚いた表情を浮かべる俺に対して、ヴィルヘルム兄上は軽く指で俺のおでこを叩く。


『そんな顔をするな。お前にばかり苦労はさせない。兄として、姉として。これ以上、お前に重荷は背負わせたりはしない』

「兄上……」

『とはいえ、来たのは私たちだけじゃないけれどね』


 ザンドラ姉上の言葉と同時に結界のすぐそばで、小さな老人が現れた。

 興味深そうに結界を見つめている。


『ふむふむ、四宝聖具を要としてその魔力を結界に伝えて、そのまま消費された魔力を回収し、四宝聖具でさらに活性化。再利用の術式。良く作り上げたのぉ』

「爺さん……」

『さすがは儂の弟子じゃな』


 爺さんは満足そうに笑うと、何度も頷く。

 最後に。

 背後から足音が聞こえてきた。


『アードラーが誕生してから六百年以上。我らはアードラーらしく、多くの功績を生み出してきた。だが、功績と同じだけ罪科もある。我らの歩みのせいで、命を落とした者は数知れず。しかし、我らが歩まねば人類の未来はなかった。必要な犠牲だった……そういうのは簡単だ。とはいえ、罪は罪。償いは必要だ』


 白いローブを着た金髪碧眼の人物。

 初代皇帝アルフォンスが喋りながら、俺の横を通り過ぎる。

 結界までたどり着いたアルフォンスに従う形で、爺さんやヴィルヘルム兄上たちが隣に並ぶ。


『この結界の維持は任せろ。アルノルト。我らが調整しながら少しずつ完成させよう』

「けど……」


 完成するのはいつになるのかわからない。

 悠久の時をここで調整役として過ごすことになりかねない。

 それは俺よりも辛いことだ。

 だが、アルフォンスは首を横に振る。


『これはアードラーが犯してきた罪の清算。魔界との関係を断ち、未来に禍根を残さない。許されないし、許しを求める気もないが……それでも〝我ら〟がやるべきことだ』


 アルフォンスがそういうとその姿が一瞬、光り輝く。

 白いローブ姿から、皇帝としてマントを羽織った威厳ある姿へと変わる。

 それはヴィルヘルム兄上たちも同様で。

 まるで全員が皇帝のようにマントを羽織っている。

 それだけじゃない。

 ズラリと横に光が生まれていく。

 数十の光が生まれていき、そしてすべてが人の形を取っていく。


『これより先は……〝皇帝たち(我ら)が引き受けた〟』


 歴代の皇帝たちが姿を現す。

 二代目、三代目、四代目……。

 誰もが歴史書に載っている皇帝たち。帝国を率いた者たちだ。

 同時にゆっくりと俺の体がその場から離れていく。

 咄嗟に手を伸ばすが、誰も俺の手は取らない。

 そんな俺にヴィルヘルム兄上が語り掛けてきた。


『生きろ、アルノルト。生きて、愛して、愛されて、人生を全うしろ。よく頑張ってくれた。お前は私たちの自慢の弟だ。だから……これからは自分のために生きろ。そして幸せになれ』


 どんどん距離は離れていく。

 皆が俺を笑顔で送り出す。

 暗闇の中、落ちているのか、登っているのかわからない感覚の中で。

 唐突に何かに引きずり込まれる。

 それは光だった。

 しばらく味わっていない太陽の光。


「うっ……」


 眩しくて手で顔を覆う。

 気づけば草原の中で倒れていた。

 しばらくぼーっとしていると、小さな少女が俺の顔を上から覗き込んできた。


「おにいちゃん、だれ?」

「……君こそだれ……?」

「あたし? あたしはアルレリア……このくにさいきょうのりゅうきしよ。せかいさいきょうのまどうしとおなじなまえももってるの」


 えっへんと少女、アルレリアは胸を張る。

 赤毛に赤い瞳のアルレリアを見て、少しだけ懐かしさを覚えた。

 笑い方が誰かに似ていた。


「アルレリア! あまり遠くいっちゃだめよ!」

「おかあさま! だれかしらないひとがいるよー」


 アルレリアは呼びに来た母親に向かって、そう伝える。

 同時に俺は体を起こす。

 すると、アルレリアの母親と目があった。

 金髪の女性だった。

 俺の顔を見ると、両手で口を押さえる。

 そしてその場で膝をついた。


「おかあさま……?」

「あぁ……神よ……奇跡に感謝します……」

「ビアンカ義姉上……」


 そこにいたのはゴードン兄上の妻のビアンカ義姉上だった。

 つまり、あのアルレリアは。


「は、早馬を出して! 竜王陛下にすぐに知らせて!」


 ビアンカ姉上は護衛の騎士にそう告げると、俺の下へすぐに駆け寄ってくる。

 そして俺の頬に触れて、体温を感じるとまた涙を流した。


「大丈夫よ、アルノルト、もう大丈夫……」

「おにいちゃんもアルなの?」


 泣くビアンカ義姉上をよそにアルレリアは不思議そうに首をかしげる。

 そんなアルレリアに俺は苦笑しながら、頷いた。


「ああ……俺もアルなんだ」

「じゃああたしといっしょ! しってる? せかいさいきょうのまどうしもアルなんだよ?」

「ああ……知ってるよ」


 微笑みながら、俺は静かにアルレリアの髪を撫でるのだった。


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― 新着の感想 ―
伏線回収の仕方すげぇ
姪っ子の名前に関しては、ヘンリックの命をかけた嘆願によって帝国の王女としての彼女はなきものとして扱われてる。 連合王国の人間として生きることになるから彼女には帝国での名前は呼べない。 だから世間が落ち…
魔王が出てきたのもアルが帰ってきたのも連合王国って、何かの伏線あったっけ… 「神よ」で信仰復活してるのも、悪魔が人類に落とした影が完全に無くなった感あるのもいい
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