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第七百五十一話 最後の暗躍

「動けるか? レオ」

「なんとかね……」


 苦笑しながらレオが肩を竦める。

 俺もレオも満身創痍。

 無理に無理を重ねている。

 けれど、今はもう少しだけ働かないといけない。


「行くぞ、空を片付ける」

「うん」


 俺は聖剣をレオに手渡すと、一気に空へ上がる。

 門の周辺では激戦が繰り広げられていた。

 次々に出てくる悪魔や魔界の竜。

 大陸の最精鋭でも荷が重い。

 だから。


≪――シルヴァリー・レイ≫


 一気に片付けることにした。

 銀光が悪魔を焼き、聖剣を持ったレオが竜を両断する。

 門から出てきている分はそれで片付いた。

 けれど、また出てくるだろう。


「ご苦労! アルノルト!」


 そう言ってオリヒメが門に結界を張る。

 これで少しは時間が稼げるだろうが、根本的な解決にはならない。


「アル! レオ!」


 オリヒメの結界に降り立つと、エルナが駆け寄ってきた。

 俺もレオも笑顔を浮かべようとするが、その前に膝が崩れた。

 互いに無茶の反動が来たようだ。


「さすがに……疲れたな……」

「そうだね……」

「大丈夫!? 怪我したの!?」

「平気だ……ただ疲れただけだ……」

「しばらく戦闘はごめんだね……」


 二人で苦笑しつつ、俺たちはエルナに支えられてどうにか立つ。


「とりあえず帝都へ……そこで方針を決めるぞ」




■■■




 帝都に降り立った俺たちを出迎えたのは、父上やフィーネたちだった。


「まずは……よくやった、二人とも」

「まだ、終わってませんよ……」

「そうだな……どうする? あの門を」

「全力攻撃で塞ぐしかないじゃろうな」


 エゴール翁をそう言いつつ、空を見上げる。

 最初の頃よりも門はだいぶ広がっている。

 おそらく五百年前よりもでかい。

 あの規模の門を塞ぐとなると、それなりの準備が必要となる。

 ただ。


「時間がありません。すぐに手を打つべきかと」


 イングリットがそう言って決定を急かす。

 いつまでもオリヒメの結界が持つわけじゃない。


「悔しいが、妾の結界はそれほど持たぬからな」

「ああいう穴は内側からの攻撃には弱いってのが相場で決まってるが、入ったら戻ってこれる保証もないからな。外から攻撃するしかねぇか」

「それなら全員で外側から攻撃といきましょう」


 エルナの言葉にSS級冒険者の面々が頷く。

 ただ、俺はずっと考えこんでいた。

 全員が満身創痍。

 とくにレオの体はもう限界だ。

 これ以上の無茶は、命に関わる。

 元々、SS級冒険者級の実力者というわけじゃない。

 無理やりアイテムで強化した結果だ。当然、体への負担は俺たちの比じゃない。

 今もレティシアに支えられて、ようやく立っているような状態だ。

 けれど、あれを閉じるとなるとレオも戦力として数えなくちゃいけない。厄介なのは、それほど無理をさせたとしても閉じられる保証がないという点だ。

 それに。


「……」


 荒れ果てた帝都を見渡し、俺は静かに物思いにふける。

 悪魔と人類。

 五百年前から続く因縁。

 今回はなんとかなったかもしれないが、これからも悪魔の脅威は続く。

 薄れてきた悪魔の恐怖は、また人類に刻みつけられた。

 アードラーはさらに血を磨き、勇爵家は力を受け継ごうとするだろう。

 それをしなければ人類が危険だから。

 明確な目的があればこそ、狂気ともいえる行為は成立する。

 帝位争いは五百年前から意義を変えた。

 最初は帝位を継ぐ者は優秀でなければいけないという考えだった。けれど、五百年前の悪魔襲来により、それは悪魔に対抗するために皇帝は傑物でなければいけない、というものになった。

 これは呪いだ。

 人類を縛る呪い。

 もっといえば。

 皇帝家であるアードラーと勇爵家であるアムスベルグを縛る呪い。


「アル様?」

「アル?」


 俺の異変に気付いたからだろうか。

 フィーネとエルナが同時に俺の名を呼んだ。

 胸がズキンと痛んだ。

 けれど。


「……誰かがしなくちゃいけないことだよな」


 呟き、俺はため息を吐く。

 悪魔の脅威が存在するから、アードラーは血を磨くことを諦められない。

 悪魔の脅威が存在するから、アムスベルグは勇者であることを諦められない。

 レオが皇帝になったとしても、これほどの被害を出した悪魔への対策を疎かにはできないだろう。

 エルナは常に聖剣召喚者として備える必要がある。

 呪いは続く。

 門を閉じたところで、それは変わらない。

 悪魔の脅威が存在するかぎり。


「なにか良からぬことを考えておりますな?」

「……止めるか?」

「お好きになさいませ。あなたはいつもそうしてきたのですから」


 いつも付き従ってくれた執事、セバスの言葉に俺は一つ頷く。

 なにをしようとしているのかまではわからないだろうに、それでも背を押してくれるのはありがたい。

 俺はゆっくりと空に浮かんだ。


「必ず帰ると……約束する」

「兄さん?」

「アル?」

「アル様?」


 いつになるかはわからない。

 けれど、必ず帰る。

 その決意を込めて、言葉に出した。

 困惑するレオたちに苦笑しながら、俺は聖剣、聖杖、聖符を自分のほうに呼び寄せる。

 そして俺がつけている聖輪を加えれば、四宝聖具が揃う。

 最初に流星から聖剣が作り出され、その後、あまった流星の素材で三つの道具が作られた。

 それが四宝聖具。

 現代の技術では再現不可能なオーパーツ。

 それを軸とすれば強力な結界が張れる。実際、ミズホ仙国はそれで強力な結界を張っていた。

 四つすべてを要として配置すれば、悪魔でも通れない結界を張れる。

 大陸と魔界を切り離すことができるだろう。

 ただ、それが完璧に機能するようになるのに、どれほどの時間が掛かるかわからない。

 それなのに必ず帰るだなんて、いい加減な言葉。

 けれど、言わなきゃ俺も決断できない。


「すまない」


 一言謝り、微笑む。

 その瞬間、父上と目があった。

 片腕を伸ばして、父上が叫ぶ。


「よせ! アルノルト!!」


 駄目な息子だ。

 いつも父上を困らせてばかりだった。

 今回もまた、困らせるだろう。

 けれど、大丈夫。父上の傍には母上がいる。

 きっと支えてくれるだろう。

 手を伸ばしたのは、父上だけじゃない。

 レオとエルナも手を伸ばすが、俺はすでに背後へ出現した転移門に身を投げていた。


「待って! アル!」

「駄目だ! 兄さん!」


 そんな中、フィーネの姿が目に映る。

 手を伸ばすことはせず、フィーネは俺に一礼する。


「ご武運を……」


 いつもの言葉。

 あえていつも通り振る舞うのはフィーネらしい。

 だから俺もいつも通り振る舞った。


「ああ、行ってくる」


 転移門で門のすぐそばに転移すると、そのままオリヒメの結界を破って門の中へ突入する。

 こういう門は内側からの攻撃に弱い。

 外に広がる力が強いからだ。

 外から押し戻そうとしても反発される。だから内側から崩壊させたほうが楽なのだ。

 ただ、入った瞬間。

 強い力で穴の奥へと引きずり込まれていく。

 それに抵抗しつつ、シルヴァリー・フォースを発動させて、俺は魔法を唱えた。


≪――シルヴァリー・レイ≫


 ここでは周りに配慮する必要がない。

 全力のシルヴァリー・レイを放ち、門を閉じにかかる。

 内側から膨大な魔力攻撃を受けた門は、急速に閉じ始める。

 同時に俺は四宝聖具を要とした結界を構築しにかかった。

 ここは二つの世界を繋ぐ穴の真ん中。

 世界と世界の狭間。

 真っ暗な空間。

 そこに行き来できない結界を作り上げる。

 強い力を発する四つの聖具は圧倒的な魔力を有している。

 それを要として、途方もなく巨大な魔法陣が出現し、俺の体を固定した。


「さて……大仕事といくか」


 この結界はまだ発動したばかり。

 これから崩壊しない永久機関の結界を作り上げる。

 二度と悪魔が大陸に現れないように。

 禍根はここで断つ。未来のために。

 どれだけ時間がかかろうと。

 俺は成し遂げよう。

 身勝手で、我儘で。

 周りの意見を聞くこともせず。

 自分のやりたいように動いたのだ。

 ならばこそ。

 やり遂げなければ。

 これが最後の――暗躍だ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 幽々白書かな?
[気になる点] 第五百五十四話 勇爵家誕生 で勇者に聖剣は封印されていて、ここで核に聖剣を組み込んだら戻って消えちゃわないか気になりました。
[良い点] アル「ふはははは、この結界を超えたければこの俺を越えて行け」 悪魔ズ「人間ごときが!!」 アル「我は魔を極めしモノなり。悪魔共よこの程度か?」 悪魔ズ「なんだこの規格外は!!コナクソー」…
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