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第七百五十話 僕の兄さんだ


「終幕を望むならいいだろう……終わらせてやる!!」


 そういうとダンタリオンの周りには切り落とした羽が集まってきた。

 それが一気に散って、そして二本の剣を形作る。

 先ほどまでとは明らかに違う。

 片翼の天使は追い詰められて、本気を出してきた。

 もはや俺たちに勝つこと以外、何も求めていないようだ。


「帝国ごとこの大陸から消し去ってやろう!! 最後の皇子たちよ!!」

「やれるもんなら……」

「やってみろ!!」


 俺とレオは同時に動き出す。

 左右からの攻撃。

 聖剣と超高圧縮のエンド・セイバー。

 どちらもダンタリオンにとっては危険だ。

 ダンタリオンは二本の剣で受け止めると、すぐに俺たちの剣を弾いた。

 こちらの出方を窺う気はないようだ。


「消えろ!!」


 ダンタリオンの一振り。

 それを避けると、その衝撃波が遠くの森に着弾し、森を破壊する。

 攻撃の威力が上がっている。

 ただ剣を振っているだけ。けれど、込められている力が異次元すぎて周囲への被害がデカい。

 本気で打ち合えるように、相当な力をこの剣に込めたらしい。

 左右の剣は両方とも聖剣並みと思っておく必要があるな。


「私が支配し、安定に導いてやろうと言っているのに! なぜ抗う!? 争いばかりの人類よりはよほど平和であろう!!」

「お前の考えに興味はないな」


 打ち合い、距離を取り、そしてまた打ち合う。

 空で行われるのは高速の機動戦。

 それでもダンタリオンはものともしない。


「支配は帝国も同じはず! 何をもって私を拒む!?」

「興味がないと言っている。好きなようにやればいい」

「そうさ。どんな目的だってかまわない。けれど」

「俺たちを倒せないような奴に支配されてやる気はない。語るなら……勝ってから語れ!」


 圧倒的な力で人類を屈服させる。

 結構なことだ。やりたければやればいい。

 けれど、俺たちには抗う権利がある。

 そして抗う俺たちを止められないならば、支配はされてやる気はない。

 そんな奴の支配が安定するとは思えないからだ。


「ならば貴様らを倒して……力の証明をするとしよう!!」


 ダンタリオンは左右の剣を掲げて、一気に振り下ろす。

 巨大な力の奔流が俺たちに迫るが、それを俺たちは同じく力の奔流で迎撃する。

 衝突。

 そして爆発。


「理解できん……私は貴様らを理解できん!」

「人はわかりあえる生き物ではあるが……真に理解し合うことはできない。不完全だからな。だから理解しようとする。お前の間違いは完璧に理解できると思っているところだ」


 俺とレオは何でも共有できる。

 けれど、それでも考えがわからないときもある。

 それが人類だ。

 だから、努力を怠ってはいけない。

 分かり合おうとする気持ちが大切で。

 そういう気持ちを人は絆と呼ぶ。

 それをダンタリオンは理解できていない。

 すべてを解明することはできない。


「人を理解しようとする悪魔、ダンタリオン。誰よりも人類を見てきたからこそ、お前は人類には近づけない」

「人は先へゆく。答えはないからこそ、人類なんだ」


 不完全と言われてもしょうがない。

 単一の個としては未熟。

 けれど、それは可能性があるということでもある。

 そこを理解できないからこそ、ダンタリオンは倒さねばいけない。

 こいつの支配は可能性を潰す。

 だから。


「「ここで……お前を討つ!!」」


 俺とレオは同時にダンタリオンの懐に潜り込んだ。

 二本の剣でダンタリオンは俺たちの剣を受け止めようとするが、俺たちの狙いはダンタリオンではなかった。

 打ち合わせはない。

 ただ、ダンタリオンを倒すためには何が必要か?

 その答えが一致していただけのこと。


「なに!?」


 俺の剣とダンタリオンの剣がぶつかり合い、そしてその上からレオが聖剣を振り下ろす。

 まさか剣を狙ってくると思っていなかったダンタリオンの行動は遅れる。

 もう片方の剣は、自分の体の防御に回していたからだ。

 交差は一瞬。

 聖剣と高圧縮のエンド・セイバーの攻撃に耐えきれず、剣が砕け散る。

 そしてダンタリオンの左腕を切り落とした。

 咄嗟に後方に下がられたせいで、致命傷ではない。

 けれど、腕は奪った。

 回復の隙を与えるわけにはいかない。

 ここが勝負所。


「はぁぁぁぁぁっっ!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 気合の声を出しながら、俺とレオは左右に分かれた。

 剣は片方。

 受け止めるほうを選ばざるをえない。

 チラリとダンタリオンを俺の方を見た。その瞬間、俺は一気に加速してダンタリオンに肉薄する。

 そして右手でエンド・セイバーを振りかぶる。

 けれど、ダンタリオンは背中を見せた。

 俺の前には羽が広げられていた。


「貴様のことはよく理解している。常に弟へ手柄を譲る。それが貴様の習性だ。貴様の攻撃は囮、そうだろう?」


 そう言ってダンタリオンは俺の攻撃を羽で受け止める。

 高圧縮のエンド・セイバーは羽によって受け止められて、レオの聖剣に対してダンタリオンは余裕をもって剣を構えた。


「自分がやるという気迫は本物だが、囮は囮。本当か、嘘かと考えるからこそ貴様の術中にはまる。レオナルトが本命だと思っていれば、何も恐れることはない」


 聖剣を持つレオこそが一番の警戒相手。

 どれだけ強力でも俺の剣は魔力の剣。

 羽との相性は悪い。

 妥当な判断だ。

 だからこそ、俺は本気で攻撃を仕掛けた。

 本気でなければダンタリオンは食いつかないから。

 それは攻撃が受け止められてからも、変わらない。

 きっとレオも一緒だ。

 本命も囮もない。

 俺たちはどちらも本気だ。

 やれるほうがやる。

 それが俺たちの答え。

 理解した気になるから、足元をすくわれる。

 俺は空いている左手を掲げた。

 何も持っていない左手。

 その左手に光が集まり始める。


「ダンタリオン……よく覚えておくんだ。〝僕の兄さんだ。僕にできて兄さんにできないことなんて――何一つとしてない〟」


 レオの右手に握られていた聖剣。

 それが光へと帰っていく。

 そしてそれは俺の左手へ。


「――勇者が今、奇蹟を必要としている!!」


 黄金の剣。

 銀色の俺の剣とは対照的な勇者の剣。

 それを握る資格が俺にあるとは思えない。

 けれど、この剣には幼馴染の想いが乗っている。

 それが俺に召喚を可能にさせた。

 まぁ、そういうことにしておこう。

 勇者なんて俺のガラじゃないから。

 そんな俺だからこそ、聖剣の召喚は予想外。

 読み切ったとダンタリオンは思っただろうが、それが敗因。

 人類を読み切ることはできない。


「アルノルト……貴様!?」

「安心しろ、奥の手じゃない」


 できるかもと思ったからやっただけ。

 計算のうちじゃない。

 俺だってできたことに驚いている。

 だけど、それが人類だ。

 可能性こそ人類の力だ。

 想いや技術を受け継ぎ、先へ先へ。

 先人の果たせなかったことを託された者が成し遂げる。

 そうやって歴史は紡がれる。

 この出来事もまたその一つだろう。


「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 聖剣を振り下ろすと、ダンタリオンの羽は容易く切り裂かれ、そして体が斜めに両断された。

 けれど、まだ終わらない。


「私は……! 悪魔のために……!!」

「俺たちも周りの人のためだ」

「どっちが正しいなんてない」

「お前はただ、負けただけだ」


 悲しい現実。

 正義や悪だなんて立場で変わる。

 だからこそ、意志を貫く力が必要となる。

 上半身だけになったダンタリオンに対して、俺は聖剣を、レオは皇剣を振り下ろす。

 さらに切り裂かれ、ダンタリオンは首だけの姿となる。

 そんなダンタリオンに俺はエンド・セイバーを突き刺す。


「馬鹿な……私が……この私が……!」

「幕だ」


 俺とレオは同時に離れると、エンド・セイバーが圧縮された銀属性の魔力を溢れさせて、爆発した。

 それを見届けながら、俺は深く息を吐く。

 ようやく終わった。

 ダンタリオンは定命の者となった。

 今の爆発でその命は散った。

 あとは。


「門か……」


 手にある聖剣を握りしめながら、俺はそっと呟くのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 熱い!確かにエルナの強い心の籠った聖剣をアルノルトが呼び出せない道理はない!
[一言] キンハー1のラストの王様とリクが門閉めるシーンがうかぶ天気
[一言] 追い詰められて何かを滅ぼそうとする悪役は大抵負けるんすよダンタリオンさん
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