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第七百四十五話 無心の一撃


 レオと俺は左右に分かれて、ダンタリオンを挟撃する。

 互いに剣を振りながら、ダンタリオンの防御を突破しようとする。

 しかし、ダンタリオンはダンタリオンで羽を集めた剣を作り出し、俺たちの連携攻撃を受け止めていく。


「さすがに一筋縄じゃいかないか」


 呟きながら、俺は真っすぐ突進する。

 ダンタリオンが剣で受け止めたら、背後から魔法を遠隔発動させる。

 そうすればレオが攻撃する隙ができるはず。

 そう思った。

 たしかにそう思ったのだが。

 直前で別の考えがよぎる。

 魔法で隙を作り出してから、剣での攻撃をするべきでは?

 どちらがいい?

 迷いが動きを鈍らせる。

 気づけば、ダンタリオンは俺に接近していた。

 剣が振り下ろされ、どうにか受け止めるが衝撃で帝都まで落下させられる。


「くそっ……」


 接近戦に不慣れな部分が出たか。

 一瞬の判断で動く以上、あんなふうに迷ったらすべて台無しだ。

 判断は早く、迷うな。

 自分に言い聞かせると、再度空へ上がる。


「大丈夫?」

「なんとかな」


 遠距離、中距離の魔法攻撃が使えない以上、勝負を決するのは接近戦。

 足を引っ張るわけにはいかない。


「行くぞ、レオ!」

「うん!」


 再度の攻撃。

 接近戦での技量は一線級の戦士たちには遠く及ばない。

 けれど、フォース状態ならば身体能力だけはそれに匹敵する。

 素早く後ろに回り込み、剣を振るう。

 羽が攻撃を受け止めるが、その隙にレオが正面から攻撃を仕掛ける。

 だが、ダンタリオンはそんなレオの攻撃は剣で受け止める。

 俺たちの動きが一瞬止まる。

 その瞬間、ダンタリオンの羽が攻撃を仕掛けてきた。

 右を防御して、そのまま離脱。

 しかし、左からの攻撃が見えた瞬間。

 左を先に防御するべきか? という考えがよぎる。

 いや、先に右だと防御するが、一瞬だけ迷った代償に左からの攻撃を避けきれずに食らってしまう。

 なんとか結界で直撃は防いだが、再度、吹き飛ばされる。

 何かおかしい。

 そんな風に頭を働かせようとした時。

 ダンタリオンが右手を空に掲げていた。

 その手には銀色の球。

 まずいと思い、すぐさま魔法の準備をする。

 そして。


「「シルヴァリー・レイ」」


 互いに銀色の球を潰し、七つの光球を出現させる。

 ダンタリオンの光球は帝都内や帝都外にいる連合軍に照準を合わせていた。

 発射された銀光を俺も銀光で相殺する。

 帝都の上空で十四の光球が銀光を打ち合い、そして消滅した。


「古代魔法まで使うようになったか……」

「貴様の優位が一つ消えたな、アルノルト」

「言っていろ。古代魔法だけが俺のすべてじゃない」


 相手が古代魔法を使うからといって、状況が変わるわけじゃない。

 手段が古代魔法になっただけで、その気になれば古代魔法なんか使わなくても周囲を攻撃できる。

 奴は俺に揺さぶりをかけているのだ。

 それはなぜか?

 こういう場合、揺さぶりをかけるのは崩すのが難しいから。

 しかし、俺たちの連携はダンタリオンを追いつめてはいない。

 だから、別の可能性を考える必要がある。

 なぜ揺さぶった?

 おそらく俺に考える時間を与えたくないから。

 目線を逸らしたかったのだ。

 奴自身が言っていたことだ。

 俺の分析力が脅威である、と。

 ならば、これは目線を逸らすための揺さぶり。

 考えをまとめろ。

 何かがおかしかった。

 常に俺の思考は鈍っていた。

 判断が遅く、思いつきに左右されていた。

 では、その思いつきは本当に思いつきだったか?


「権能による思考の誘導か……」

「同情せざるをえないな、これほどの天才が隣にいて、さぞや息苦しかっただろう? レオナルト」

「今度は僕に揺さぶりかい?」

「誰もが貴様を天才というが、実際は違う。レオナルト、お前は天才の後を追う秀才だ。本物の天才はアルノルト。苦しかったのでは? 」


 ダンタリオンの揺さぶり。

 奴は帝国の民の精神を操作した。支配したと言っても過言ではない。

 けれど、ヴィルヘルム兄上のふりをしたうえでそれをしたのは、あくまで誘導だからだろう。

 無の感情は生み出せない。

 何も感じない相手に対して、何かを植え付けることはできないのだ。

 人間が持っている小さな感情。それを操作して、肥大させて、変化させることはできるのだろう。

 だが、突然、知りもしない悪魔を尊敬させたりはできない。

 俺が戦闘中に迷わされたのも、いくつもある手段で、迷い決断したからこそ。そのうち、切り捨てた選択肢が大事だったかも? と思わせていた。

 今、ダンタリオンはレオの感情を呼び起こそうとしている。

 しかし。


「兄さんが天才だなんて、昔からよく知っているよ。それが苦しかったなんてことはない。僕はいつだって……兄さんが前を走ってくれるからこそ、走り続けられた。誰よりも尊敬しているし、誰よりも偉大だと思っている。兄さんを褒めてくれてありがとう、ダンタリオン。君のことが少し好きになりそうだよ」

「……兄が兄ならば弟も弟か。貴様らは通常の人から大きく逸脱している」

「それも褒め言葉として受け取っておくさ」


 レオの下へ飛んでいき、再度、二人で肩を並べる。

 そんな俺たちを見て、ダンタリオンは苛立ちを見せた。


「人とは……嫉妬する生き物だ。他者を羨み、自分も欲しいと願う。ゆえに、発展してきた。なぜ貴様らの間に嫉妬がない? 優秀な兄、後追いの弟。不人気な兄、人気な弟。嫉妬も憎悪も欠片もないというなら、貴様らの間には、なにがある?」

「「絆だ!」」


 繰り返しのように俺たちをダンタリオンに攻撃を仕掛ける。

 けれど、それは今までとは少しだけ違った。

 二人で真っすぐ突撃。

 当然、ダンタリオンは権能を使う。

 その権能は強力なのだろう。俺たちに通じるということは、連合軍に使われたら即座に行動不能になるくらいに。

 だが、ダンタリオンは使わない。

 俺たちを相手にしているから。

 そして、俺たちはそれに対して明確な対策を持ち合わせていない。

 考えれば考えるほど相手の思い通りになってしまう。

 話し合いすら、奴に利用されかねない。

 だから。

 〝俺たち〟は無心で突撃した。


「力押しで私に勝つつもりか!?」


 攻撃は羽と剣に受け止められる。

 けれど、気にしない。

 ただ、考えるのは一つだけ。

 こいつをぶん殴る。

 それだけに注力する。

 剣で受け止められたなら、その剣をかいくぐる。

 目線は常にこいつの顔に固定。

 最低限、自分の命を守りつつ。

 俺は左手で、レオは右手で拳を握って、振りかぶった。

 通るかどうかは考えない。

 ただ、殴ると決めたから、殴るだけだ。

 意表を突かれたからだろう。ダンタリオンの顔に俺たちの拳がクリーンヒットした。

 だが、攻撃力が足りない。これで仕留めることはできない。

 ダンタリオンを後ろにのけぞらせる程度しかできなかった。


「この程度……!」


 そう、この程度。

 けど、いつだってそうだった。

 この程度の積み重ね。

 それが新しいことに繋がる。

 俺たちは昔から、この程度の積み重ねが得意だった。

 笑われてもいい。

 目的地さえ見えていれば。

 誰にもそれがわからなくても。

 隣にいる兄弟は常にその目的地を共有できていたから。


「この程度でも」

「攻撃は通った」

「「次はもっと強くやる」」

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の戦いはアルとエルナのコンビだと思ってたんですよね。 でもこの双子が本当の意味で対等な兄弟であることが伝わるの凄くエモいと思います。
[良い点] 更新ありがとうございます。 やはり、思考の単純化は精神攻撃に有効ですね。ごちゃごちゃ考えず、ぶん殴るのは昔ながらの対処法です。
[一言] 今まで散々ありえないだの気味が悪いだのと言われていた、連絡も合図すらもなく意思疎通ができる理由がよくわかった。 目的意識が確実に共有されているということを理解しているから、何があろうと必ずそ…
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