第七百四十二話 帝都の空
お待たせして申し訳ありません。
本日より更新再開です。
地震の影響でなかなか大変な一年の幕開けとなりましたが、本年もどうぞよろしくお願いします。
「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
アルとレオが帝都にてダンタリオンと交戦し始めた頃。
空でも激戦が繰り広げられていた。
空にはオリヒメが展開した結界が広く作り出されており、それを足場にして人類の最高戦力たちが戦っていた。
門から次々に現れる悪魔たちと。
「イングリット!! 無茶をするでない!!」
「まだ……まだです!!」
一人、二人と悪魔たちが襲い掛かる中、今代ノーネーム、イングリットは奮戦していた。
エゴールが制止するほどの無茶を繰り返しながら。
「イングリット! あまり動きすぎると妾の結界も間に合わぬ!!」
「平気です!!」
獅子奮迅。
そんな言葉がピッタリなほど、イングリットは戦っていた。
すべては師匠のために。
自分が師匠であるリナレスの代わりを務める。
その覚悟でイングリットは魔剣を振り続ける。
そんなイングリットだったが、激戦につぐ激戦で体力が限界に近づいていた。
門から悪魔はどんどん出てくる。
けれど、人類側の戦力はこれ以上増えない。
それでも踏みとどまるしかない。
今、帝都ではアルとレオがダンタリオンと戦っている。そこに増援を向かわせるわけにはいかないからだ。
空と帝都。
どちらかが崩壊すれば、戦局は変わってしまう。
とにかく帝都の戦いが終わるまでは、ここから先に悪魔たちを進めるわけにはいかない。
だが、そうは思っていても体がついてこない。
「はぁはぁはぁ……」
一体の悪魔を消し飛ばしたあと、イングリットは膝をつく。
息が整わない。
それでも。それでも。
心は前へ前へと向かっていく。
気力は尽きない。
師匠のためにという思いもあるが、それだけではない。
好敵手がまだ戦っているから。
「疲れたなら休んでていいわよ!? イングリット!!」
「まだまだですよ! エルナ!!」
聖剣を手にしたエルナは魔界から現れた黒竜を相手取っていた。
巨大な黒竜はいくどもエルナの攻撃を食らいながら、それでも交戦を続けている。
異常すぎるタフさ。それにエルナも手を焼いているのだ。
だからこそ。
そのほかの悪魔は自分たちが引き受けなければいけない。
「ジャック!! 援護は任せましたよ!!」
「こき使ってくれるぜ!!」
イングリットは叫びながら、悪魔に突撃していく。
空で戦う全員の援護を行っていたジャックは、顔をしかめながらイングリットの突撃を援護する。
矢が飛来し、悪魔はそれを弾く。
その隙に接近したイングリットは冥神を上段から振り下ろす。
だが、大振りのせいで悪魔によって冥神は受け止められてしまう。
そして。
「これで使えまい!!」
悪魔が作り出した糸が冥神を絡めとる。
しかし、イングリットは迷わず冥神から手を離した。
剣士が剣から手を離すという行動は、悪魔の予想から外れていた。
その隙をついて、イングリットは悪魔の懐に潜り込む。
「私の師匠は……拳仙です!!」
強く握った拳が悪魔の体を貫く。
一撃では終わらない。
何度も拳で悪魔を貫く。
悪魔が動かなくなるまで、連打は続き、トドメとして深く腰を落として拳を引く。
教えはシンプルだ。
強く、速く、美しく。ただ一直線に。
イングリットの正拳が一閃する。
その一撃を受けて、悪魔は胴体部分の大半を失いながら、吹き飛んでいく。
だが、相手は悪魔だ。
再生の可能性がある。
追撃しようとするイングリットだったが、その必要はなかった。
ジャックの矢が悪魔を完全に消し去ったからだ。
「無茶も無理も結構だが、手を焼かせるなっての」
「私は……」
「うん?」
「あなたの援護を信じていますので……」
イングリットの言葉にジャックは目を丸くする。
あまりにもイングリットらしくない言葉だったからだ。
けれど、すぐに苦笑して頭に手を置いた。
「そう言われると……頑張らなきゃだな」
「そうですよ……働きなさい」
「へいへい」
ジャックは言いつつ、戦局を見極める。
ちょうど、エルナが黒竜を仕留めたところだった。
エゴールもオリヒメもそれぞれ悪魔を倒している。
ただ、門を閉じていない以上、いつまでも悪魔はやってくる。
事実、何体かは逃してしまっている。
すべてを防ぎ切ることはできない。
幸い、まだ地上には勇爵やリナレスがいる。けれど、二人とも万全ではない。
それ以外にも強者はいるが、どうしても手が足りない。
そんな風に思っていると、下から猛スピードで上がってきた人影が悪魔を斬り伏せた。
「遅くなりました!!」
「おいおい、ちょいとここに来るのは早いんじゃないか?」
やってきたのはクロエだった。
地上である程度の敵が片付いたため、援護に来たのだろう。
ただ、ここは最前線も最前線。悪魔が続々とやってくる場所だ。
下手な戦力は足手まといでしかない。
しかし。
「上手く援護してください!」
「その横暴さは師匠譲りだな……まったく」
「頼みましたよ……ジャック」
イングリットは冥神を拾うと、息を整えてクロエと共に前へ出た。
そんな二人の援護のためにジャックは弓を構える。
弓使いは援護が仕事だからだ。
「若いってのはいいもんだな」
「まだお主だって若いじゃろ、ジャック」
「そりゃあジジイと比べればだいたいの奴は若いだろうよ」
隣にやってきたエゴールの言葉にそう答えつつ、ジャックは苦笑する。
「儂はまだまだ老いぼれとらん。気持ちは若いぞ?」
「なら働け、ジジイ。援護はしてやる」
「面白い、援護できるもんならしてみることだな」
まるで子供のようにニッと笑うと、エゴールも前線へと出ていく。
悪魔の新手がやってきたからだ。
まだまだ軽口を叩ける余裕がある。
どうにかなるだろう。
けれど、いつかは力尽きる。
「早めに頼むぜ、皇子様よ」
いくらエルナがいるとはいえ、現状維持が精一杯。
とにかく帝都の戦いが終わって、アルノルトが援軍に来ないことには門を閉じることはできない。
だからこそ、ジャックは帝都の戦いが早く決着することを祈るのだった。




