第七百三十八話 あれ
お待たせして申し訳ありません。
どうにか体調が回復したので、今日から更新再開します。
ただ、まだ咳が止まらない状況ですので、再度、体調不良で更新が止まってしまう場合もあることをご了承くださいm(__)m
帝都の南。
南部諸侯連合軍と共に戦っていたミアは、黙って戦っていた。
感情を押し殺し、ただ戦っていた。
けれど。
「ミアさん!」
「ジンメル伯爵!? あ、もう侯爵だったですわ!」
「休憩は必要ありませんか!? 前線を入れ替えますが!」
「大丈夫ですわ! それより!!」
ミアは空を指さす。
そして。
「あれ! あれですわ! あれについて話したいですわ! ジンメル侯爵も知っていたんですの!!??」
「あれというのはシルバーの正体のことでしょうか? いえ、さすがに驚きました」
驚いたと言いつつ、アロイスは落ち着いていた。
それに対して、ミアは両手をブンブンと振りながら叫ぶ。
「あのアルノルト皇子がシルバーの正体だったなんて!! びっくり仰天ですわ! 驚愕ですわ!! 私、だれかとそのことについて喋りたくて! 落ち着かなかったですわ!!」
「なるほど……まぁ、アルノルト殿下ですから」
アルノルトがシルバーの正体ならば、シルバーが扮していたグラウもアルノルトということになる。
シルバーは凄腕の魔導師だ。
そんなことはわかっている。
けれど、そのシルバーが超一流の軍師であるというのは知られていない。
その情報をアロイスは知っていた。だから、正体を明かされても取り乱すことはしなかった。
超一流の軍師という点では、アルノルトと合致するからだ。
表立って動けない事案には、シルバーとして、そしてグラウとして介入していた。
そう考えればすべて繋がる。
「すべてあの方の手の平の上だったというなら……不思議と納得できます。悪い気もしません」
「それはそれ! これはこれですわ! あの皇子! 仮面の奥でニヤリと笑っていたに違いありませんですわ! キー!!!! 想像するとムカつきますですわ!」
「まぁ、笑っていたでしょうね。同時に見守ってもいてくれたんでしょう」
「まったく……」
ミアは喋りながら空に光の矢を放つ。
矢は拡散して、モンスターたちに降り注いだ。
その隙に前線の兵士たちは一時退却して、後方の兵士たちと入れ替わる。
「言わなければいけないお礼が増えてしまったですわ」
「そうですね」
「この戦いが終わったら、からかってやるですわ! あの皇子がすました口調でシルバーとして現れていたと思うと! 今から楽しみですわ!」
「やめておいたほうがいいと思いますけどね」
アロイスはそう呟くと、後ろを守る騎士に質問する。
「あなたも驚きましたか? ラース大佐」
「驚きはしましたが、それよりも誇らしさが勝ちますな」
「誇らしさ?」
「我らネルべ・リッターはあの方に賭けた。弟のために死んでくれというあの方の奥に、〝理想〟を見たからです。それは間違いではなかった。上辺だけの言葉ではなく、あの方は重い責任を背負っていた。帝国を守るという責任を。私は誇らしい。誰もが出涸らし皇子と侮っていた時に、我々はあの方に剣を捧げた……我々の目に狂いはなかった」
「それは……その通りですね」
「だからこそ……それに恥じぬ戦いを」
クリスタと共にネルべ・リッターは出撃したが、ラースを含めた一部はアロイスの護衛に残っていた。
アロイスがやられてしまえば、南部諸侯連合軍は瓦解するからだ。
クリスタは心配ではあったが、せめて自分くらいは残らねばという団長としての責任があった。
実際、それは正しかった。
西側では一気に反撃が始まった。
南部にはそれに追従する力はない。けれど、現状維持はできる。
「さぁ、もうひと踏ん張りといきましょう、侯爵閣下」
「そうだね」
■■■
「右翼前進、予備隊も投入。西側の攻勢の邪魔はさせないで」
北門側にて指揮を執るソニアは冷静だった。
西側が攻勢に出た以上、ほかの戦域はその維持に努めればいい。
幸い、北部諸侯連合軍は精強であり、シャルロッテという強力な戦力もいる。
この状況を維持するだけならどうにかなるだろう。
そんな風に思っていたソニアは、横でボーっとしているリンフィアに目を向ける。
「どうしたの?」
「いえ、その……」
「シルバーの正体がアル君で驚いた?」
「そうですね……あなたは驚かないのですか?」
「別に、そっかって感じかな。どっちも恩人だから」
アルノルトの指示でシルバーが動いたのではなく、アルノルトがシルバーとして動いてくれた。
どん底の状況から救い出してくれた。
だから、正体がアルノルトと言われても驚かない。
そうだったのか、と納得するだけだ。
元々、シルバーとアルノルトには強い繋がりがあった。
同じ目的を持つ協力者ではなく、同一人物ならなおさら納得できる。
「リンフィアさんは気付かなかった?」
「……残念ながら」
「それじゃあ驚くよね」
「傍にいたのに……」
リンフィアは少し俯く。
リンフィアの仕事は基本的にはフィーネの護衛だ。
アルノルトの傍にいることは少なかった。
それでも長く共にいた。
気づけたはずだ。しっかりと見ていれば。
「気づいてあげられなかったことを悔やんでいるの?」
「……そんなところです」
「気づくのは無理じゃないかな。アル君がミスをしないかぎりは」
「ミスですか……?」
「うっかりミスは誰にでもあるからね。ずっと警戒し続けるのは無理だよ。だから、バレるならうっかりだろうね」
クスクス笑いながらソニアは西側に目をやる。
帝都に来た時、不自然なことが一つあった。
突如、帝国西部に向かったアルノルト皇子は蒼鴎姫と共に帝都へ戻ってきた。
レオナルトではなく、アルノルトとだ。
その後も常に傍にいた。
一体、なぜなのか。
それが疑問だった。
けれど、今ならなんとなく理由はわかる。
「うっかりだったんだろうなぁ」
「どういうことです?」
「ただの予想の話だよ。しかし、帝国の人はアル君に頭上がらないね」
「それはそうですね……私もシルバーに救われました」
「アル君だけでも結構な人を救ってるはずだけど、シルバーとして救った人も合わせたら、すごい量だよ。まさに英雄。本人は嫌がるだろうけど」
「でしょうね」
「案外、正体を隠していた理由はそれが一番かもね」
そう言ってソニアは笑う。
それにつられて、リンフィアも軽く笑った。
シルバーに救われたことで、すべてが始まった。
手こずっていたモンスターを討伐してもらい、そのツテを頼って帝都にやってきた。
そこで救った皇子がシルバーの正体だったとは。
「あれは余計な手出しでしたか……」
シルバーが暗殺者一人退けられないわけがない。
人がいなくなれば、自分で対処する算段だったんだろう。
そこに割って入ってしまった。
けれど、その縁で今がある。
「やはり人助けはするものですね」
お節介だったのは間違いない。
ただ、あの時の行動が自分とアルノルトを繋げた。
その繋がりによって、アルノルトは自分の故郷の村を救ってくれた。皇子として、SS級冒険者として。
「なんだか嬉しそうだね?」
「そう見えますか?」
「とても」
「そうですか……確かに嬉しいですね。私は……仕える人を間違ってはいなかった」
自分は弟を皇帝にするためならなんでもやる。
そう偽悪家のように振る舞いながら、裏ではSS級冒険者として民を救い続けていた。
これほどまでに仕え甲斐のある人もいないだろう。
「さすがはアル様です」




