第七百一話 悪趣味
「悪趣味なやつだ」
呟きながら、俺は復活したナイジェルの攻撃を避けつつ、第二の人物のフードを魔力弾による攻撃で剥がした。
そこにいたのは帝都反乱の際に戦死した、第八近衛騎士隊隊長、オリヴァー・フォン・ロルバッハだった。
高潔な人物だった。
最期まで父上に忠義を尽くした。
父上もその最期を聞き、深く悲しんだ。
生前ならば間違ってもヴィルヘルムにつくような人じゃない。
けれど。
「さすがはシルバー。噂に違わない手数の多さだな」
オリヴァーは言いながら、ナイジェルと共に俺へ剣を向けた。
ありえない光景だ。
忠義の厚い近衛騎士隊長と、帝国の法に反した魔剣士。
二人が並び立ち、シルバーに挑むなんて。
だが、これは現実だ。
「まさかとは思うが、全員の答え合わせをしないと気が済まないとか言わないよな?」
「そこまで暇じゃない」
「なら、さっさと片付けてくれ。足止めも疲れるんだ」
ジャックはそう言いながら、矢を放って残る四人の行動を制限する。
ジャックの矢を警戒するからこそ、俺に向かってくる敵の数は制限される。
俺が数を減らさないと、一向にこいつらの数は減らない。
「さっさと片付けるとは舐められたものだ」
「俺たちがそう簡単にやられるとでも?」
オリヴァーは笑いながら剣を手元で回転させた。
オリヴァーらしからぬ警戒の薄い行動。
記憶を引き継いでいるためか、生前の要素を多く宿しているようだが、それでも憑依した悪魔によって性格は変わるようだな。
それがわかればいい。
あとは権能だが、出させて解析するより、出させないようにしたほうが賢明だろう。
こいつらの権能を知ったところで、ほかの奴の権能の予想や分析にはあまり役に立たない。
そんなことを考えながら、俺は左右から攻撃してきた二人の剣を後ろに下がって躱す。
その際、俺は魔力弾を二人に放つが、二人は苦もなく弾いた。
そのまま息の合った様子で突きを繰り出してきた。
下がる俺への追撃。
だが、その突きも空ぶった。
二人が追撃した俺は幻術だからだ。
精度を極限まで上げた幻術。達人でも一瞬なら騙せる。
本物と見間違えた二人は、幻術に対して攻撃を仕掛け、空ぶった。
その間に俺は背後に転移していた。
すべては魔力弾を放った瞬間。二人の意識を魔力弾に向かわせた上で、幻術を作成して、転移したのだ。
俺は両手を二人の首に伸ばす。
振り向いた二人は、あえて俺に首を掴ませる。
脱出できると踏んでいるからだ。
狙いは俺の腕。
両腕は頂いたとばかりに二人は剣を振るが、それはかなわない。
「なに!?」
「これは……!?」
糸のように細く伸ばした結界。
それが二人をどんどん包んでいく。
形状は糸だが、強度は通常の結界を圧縮したものだ。普段、広範囲に広げたものが糸レベルまで圧縮されているわけだから、並みの攻撃じゃ斬ることはできない。
腕の動きを阻害され、やがて繭のように二人は包まれた。
「捕獲成功か?」
「いや」
ジャックの言葉を否定すると、俺は二人の首を掴んだまま詠唱を始めた。
≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者≫
≪銀雷は天空より姿を現し・地上を疾駆し焼き尽くす≫
≪其の銀雷の熱は神威の象徴・其の銀雷の音は神言の鳴響≫
≪光天の滅雷・闇天の刃雷≫
≪銀雷よ我が手で轟き叫べ・銀天の意思を示さんがために――シルヴァリー・ライトニング≫
超至近距離での銀滅魔法。
左右の両手から発せられたそれは、二人に破滅をもたらす。
特殊な権能をもっていないかぎり、脱出は不可能。
何もない荒野に巨大な銀色の雷が二本、放射される。
それらは二人を灰に変え、そして灰すら消滅させる。
炎神を使ったナイジェルは、規格外の回復力を誇った。だが、灰すら残さず消滅させられたら復活はできないだろう。
手にあったはずの感触が消え去ったのを確認し、俺は両腕を下ろす。
「討伐完了だ」
「じゃあ、あとは四人か」
何もできずに二人がやられたわけだ。
六人が存分に動いて、ようやく俺たちの行動を制限できた。
四人になったなら、そう上手くはいかない。
だが、四人はまだまだ本気という雰囲気ではない。あくまで目的は時間稼ぎ。
二人の損害も想定の範囲内という様子だ。
そんな風に考えていると、四人の内の一人が手を地面に向ける。
すると、地面からナイジェルが持っていたはずの炎神が浮かび上がってきた。
冥神に匹敵する魔剣だ。銀滅魔法に耐えることもできるだろう。
とはいえ、傷一つないところを見ると、やられる前にナイジェルが手放したんだろう。
もしくは手放させたか。
どっちにしろ、ナイジェルたちの救出より炎神の回収のほうが大事だったらしい。
まぁ、あの状況で救出は無理だ。
ジャックの足止めをかいくぐって、そのうえで俺の糸状結界を破壊しなければいけない。
そんな余裕はないだろう。
とはいえ、ドライなものだ。
「時間か」
炎神を回収した一人がそう呟くと、四人は一斉に転移の魔導具を使った。
「貴重な魔導具を……一体、いくつ持っているんだ?」
「逃げたか?」
「いや、任務達成という様子だった」
「つまり、時間稼ぎが終わったってわけか」
ジャックの言葉に頷いたあと、俺はすぐに巨大な魔力を探知した。
それは南側から。
見れば、空に巨大な光が上っていた。
「天球か……いや、六色?」
俺の知っている天球は五色のはず。
そして帝国を覆うように半透明の結界が出現した。
見る限り、帝都の防衛魔法・天球のようにみえるが、帝国全土を覆うような力は天球にはない。
「どうなってる? これは?」
「結界によって帝国を外界と隔絶したんだろう」
「なんのためだ?」
「強力な戦力との分断。それと時間稼ぎだろうな」
「転移で入れないのか?」
「あれが天球と同じような魔法なら無理だな」
とはいえ、帝国全土を覆う結界。
それに対して、出ることも入ることもできない、という条件をつけるのはやりすぎだ。
魔法は万能ではない。
これほどの大魔法なら何か穴があるはずだ。
「とりあえず調べにいくぞ」
「転移で行くのか?」
「どこまで結界かわからない。飛んでいく」
「またかよ……」
うんざりした様子でジャックは呟く。
そして。
「それで? ここはどこだ?」
「おそらく藩国だろうな」
「おっと、危ない危ない。娘の国に被害を出すところだった」
いい加減、足止めにも飽きていたんだろう。
さっさと強力な攻撃で一人、二人を落としてやろうという考えがあったらしい。
あのタイミングで二人をやれてよかった。
藩国に無駄な被害が出るところだった。
「さて、行くか」
「おい、ちょっと嬉しそうにするな! 俺を引きずり回して喜ぶな」
「お前を引きずりまわすことに喜んでいるわけじゃない」
「じゃあ、なんだ?」
「やっと……敵が動いてくれたからな」
互いに大きな動きがなければ、戦いは長引く。
こちらの大きな動きは連合軍の復活。
それに対して、敵は帝国全土を覆う結界という手を使ってきた。
次々に手を打つのは結構。
とはいえ、無限の手札は存在しない。
盤面を動かし続ければ、いずれ敵も窮する。
その時がヴィルヘルムを討つ好機だ。




