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第六百七十一話 シルバー現る


「で? どこからやる?」

「西部からだ。いくつかモンスター問題が発生しているらしい」

「それじゃあ俺は東部か」


 ジャックはそう言って弓を担ぐ。

 だが。


「何を言っている? 一緒に行くんだぞ」

「はぁ? SS級冒険者が二人もそろって同じところを担当するなんて無駄だろ?」

「俺は姿を現すだけだ。モンスターはお前がやれ」

「……はぁ?」

「魔力を節約すると言ったはずだ」

「……俺は疲れてないと思ってないか?」


 ジャックは頬を引きつらせながら告げるが、俺は静かに頷いた。


「俺よりは疲れてないだろ?」

「お前が疲れすぎなんだろ? 戻るのか? 魔力は」

「さぁな。戻ってほしいもんだが」


 魔力は徐々に回復してきている。

 ただ、全力戦闘が可能かと言われると話は違う。

 相手が悪魔ならばしっかり回復してくれないと困るが、そればかりはわからない。


「頼むぜ……SS級冒険者も数が減ったからな」

「どうかな? あの化け物たちがあれでやられるとは思えないが」

「……それもそうだな」


 ジャックの言葉に俺は真面目に返す。

 リナレスとエゴールはアスモデウスの攻撃で行方不明だ。

 けれど、死体があったわけじゃない。

 実は生きてましたなんてこともありえる。

 なぜなら、あの二人は頑丈だ。ちょっと人類か怪しいレベルで。


「よし、ヘンリック。魔導具を頼む」

「もうあと一つだが、使っていいんだな?」

「道具は使ってこそ、だ」

「それもそうだな」


 そう言って俺たちはヘンリックの魔導具により、西部に飛んだのだった。




■■■




「突撃態勢!!」


 帝国西部・クライネルト公爵領。

 そこでクライネルト公爵がモンスターの討伐を行っていた。

 相手をしているのは巨大なムカデのようなモンスター。

 それに向かって、騎士たちは突撃して何度も槍を刺している。けれど、決定打にはならない。


「父上!? いったん撤退しましょう!」

「泣き言を抜かすな!」

「ですけど……」

「領地の安全を守るのが領主だ! ここで踏ん張れないなら領主などいる意味がない!!」


 本来、モンスターの討伐は冒険者ギルドの仕事だ。

 騎士の仕事は対人であり、対モンスターではない。

 けれど。


「奮い立て! 冒険者ギルドが動けぬからこそ! 我らが体を張るときだ! いつも彼らはモンスターに立ち向かっていたのだ! 我らにだってできる! 続け!!」


 そう言ってクライネルト公爵は先頭に立って突撃していく。

 相変わらず立派な人だ。

 貴族が皆、こんな人なら苦労はないんだが。

 けれど。

 貴族が皆、そうでないから。

 この人は稀有なのだ。

 そして、稀有な人を失うわけにはいかない。

 クライネルト公爵の前で、ムカデのようなモンスターが魔力弾によって貫かれる。

 一撃でモンスターは地面に倒れた。

 呆然とするクライネルト公爵家の騎士団の上から、俺はゆっくりと降りていく。


「――遅参を謝罪しよう。クライネルト公爵」

「……来てくれたか。シルバー」


 クライネルト公爵家の騎士団は、舞い降りた俺を見て歓声をあげる。

 そんな俺を見ながら、クライネルト公爵は少しためらったあと。


「……シルバーが無事だということは……陛下や連合軍も無事なのだろうか……?」


 何かを覚悟するような表情だ。

 そんなクライネルト公爵に俺は事実を告げる。


「連合軍は結界に閉じ込められている。皇帝は重傷だが、生きてはいた。おそらく無事だろう。ただ、外から結界を破る方法はない。中からこじ開けてくるのを待つしかない」

「ご無事か……そうか……そうか……」


 安心したようにクライネルト公爵は呟く。

 最悪の事態を想定していたんだろう。

 そんな中、ジャックの矢が空に放たれた。

 その矢は空高く舞い上がると、分裂して周辺にどんどん降下していく。


「これは……?」

「ジャックの矢だ」

「SS級冒険者のジャックも来てくれたのか……感謝する」

「元々、冒険者の仕事だ。ここからは任せてもらおう。公爵は別に考えることがあるはずだ」

「……状況は理解しているということか」


 公爵は顔を少ししかめると、部下たちに撤退を命じた。

 そして。


「南部の第一皇子殿下をどうみる? シルバー」

「それを判断するのは俺じゃない」

「それもそうか……第一皇子殿下はご家族を愛しておられた。帝国の混乱を収めるというのはいかにもそれらしいが……ご本人ならば周りが止めても皇帝陛下やレオナルト殿下の安否を確認しにいくはずだ」

「そういう見方もあるかもしれないな」

「そうだ。これは私の主観。そういう人だったと思うだけだ。その通りに動かなかったから偽物だと断じるつもりはないが……帝国貴族として今の第一皇子には誇りが感じられない」


 そう言うと公爵は馬を進めて、自らも帰路につく。

 しかし、すぐに立ち止まって俺のほうへ振り返った。


「陛下の無事を知らせてくれて、感謝する。このことは私のほうからも広めよう」

「そうしてもらえると助かる」

「それと……大陸を守ってくれてありがとう。詳細は知らないが……いつも、いつでも。我々は感謝している」

「……」


 本当に稀有な人だな、この人は。フィーネの性格の良さはこの人の教育の賜物だろう。

 静かに頷くと、公爵は満足そうに帰路へついた。

 領地に出たモンスターにより、多くの領主が対応に追われている。

 頼みの冒険者ギルドは混乱中で、適切な動きができていない。

 どうにか冒険者ギルドを立ち直らせたいが、混乱の大元は本部であり、本部を立て直さないと解決しない。

 今、帝国を離れて冒険者ギルドを立て直す時間はない。

 誰かがやってくれるといいんだが、今のところやれそうな人材はいない。


「ここらへんのモンスターは終わったぞ」


 後ろからジャックが声をかけてくる。

 西部といっても広い。

 ジャックといえど、全域をここから攻撃することはできない。

 せめて俺の魔力がもう少し回復していれば、いろいろと簡単になるのだが。

 それは考えても仕方ないことだろう。

 アスモデウスとの決戦で俺は無理をしすぎた。体に負担をかけ、皇剣からのバックアップを頼みに、魔力を使いまくった。

 その代償が今だ。

 もちろん後遺症があるのは俺だけじゃない。

 レオもエルナも万全とは程遠いだろう。

 すぐに良くなることはない。

 時間が必要だ。

 だが、時間をかければかけるほど。

 敵の有利が確定してしまう。


「次に向かおう。時間がないからな」


 なるべくヴィルヘルム兄上たちにプレッシャーを与えないといけない。

 そのためにも迅速な討伐が必要だ。

 そんなことを思いながら、俺はジャックと共に移動しはじめたのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 素の防御で急所に金タライ貫通する攻撃受けても悶絶で済んでたもんなエゴール
[良い点] 「それと……大陸を守ってくれてありがとう。詳細は知らないが……いつも、いつでも。我々は感謝している」 この言葉で、確証はないがシルバーがアルだとなんとなく気付いているんじゃないかと思った…
[良い点] ほんと稀有な人材は保護せねば。
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