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外伝2 第二十三話 俺が

 自分はどうして助けたいのか?

 どうして自分はあんなことをしたのか?

 どうして自分は今もこうして、落ち込んだり、怒ったりしているのか。

 なぜなのか?

 こんなに色々と言われて、それでも頭からパトリシアのことが離れない。

 彼女は救いを求めてない。

 自らが犠牲となり、未来が続くことに意義を見出している。

 完璧な未来は確かに見えている。

 シルバーと共に長きものを倒し、パトリシアが生還すること。

 けれど、それは最悪の未来も内包している。

 だから、パトリシアは自分だけが犠牲になる未来を選んだ。それが選択できる中でもっとも堅実だから。

 パトリシアがいないだけの未来。

 想像すると、たしかに何もかもが上手くいっている。けれど、胸が痛い。

 わかっている。

 それがきっと自分の理由。


「俺は……俺には! まだ理由がある!」

「どんな理由だ?」

「……俺は……パトリシアの命を諦めたくない。みんなが諦めても……彼女が諦めても……俺は諦めたくない! そう思うことがそんなに駄目か!? 諦めないことがそんなにいけないことか!?」

「いけなくはない。しかし、彼女はすでに諦めている。彼女の命は彼女のものだ」

「だけど! 我儘でも! 俺は諦めたくないんだ! きっと、一生後悔する! これは俺のためでもある! 彼女を見捨てたという事実を抱えて生きていけるほど……俺は器用じゃない! 俺は、俺のために彼女を助けたい!」

「ずいぶんな言い分だな。我儘だと理解しているのは結構だが、それに巻き込まれる人たちのことを考えたことはあるか? お前に背負えるのか?」


 シルバーは静かに告げる。

 助けたいと思うことは悪いことではない。

 それが自分の我儘だと理解するのも。

 ただ、自分がパトリシアに死んでほしくないという我儘を通すことで、多くの人が危険にさらされる。

 それはパトリシアが守りたいと思った国であり、大陸でもある。

 背負うには重いものだ。

 その覚悟をシルバーはアレンに問う。


「失敗すれば多くの怨嗟を受け止めることになるだろう。彼女からも恨まれるかもしれない。何もかもを失う覚悟がお前にはあるのか? 人を一人救うために、多くの者に悲劇をまき散らす。彼女を助けるということは、それを許容するということだぞ?」

「……わからない。俺には重すぎるから」


 素直にアレンは告げた。

 国や大陸なんて、アレンには重すぎて、想像すらできない。

 アレンはただの駆除人で、大した実力もない。

 言葉で背負えるというのは簡単だが、それで背負えたことにはならない。

 圧倒的に力が不足しているのだ。

 けれど。


「俺は俺に賭けられるものならすべてを賭ける。それが国や大陸に釣り合うとは思ってない。責任なんて取れない。けど、捧げられるすべてをささげる。その覚悟をもって……」


 アレンが決意の言葉を吐こうする。

 だが、言葉は出てこない。

 気づいてしまったから。

 自分がいかにシルバーという人間に頼っているかを。

 その覚悟をもって臨む。だから力を貸してほしい。

 そう言おうとしたのだ。

 なんと自分勝手な。

 自分の身勝手さに思わず笑みが出てくる。

 自分が大切だと思う人を助けるために、誰かの力をあてにする。

 虎の威を借る狐。自分はこれまでそれだった。

 言葉がパトリシアに届かないわけだ。

 根底には常にシルバーの力があった。

 自分は手伝い、その程度の認識だった。それしかできないから。

 けど、これはシルバーの戦いじゃない。

 自分の戦いだ。

 アレンは無言で立ち上がると、剣を背中に背負った。


「どうする気だ?」

「覚悟は決まった。俺はパトリシアを助ける。〝俺が〟助ける」

「ほう? どうやって?」

「方法は決めてない。けど、彼女を犠牲にはさせない。千五百年も封印されていたんだ、弱体化しているかもしれないし、今の結界魔法でも再封印できるかもしれない。色んな人に話して、やれることをやってくる」


 シルバー頼み。

 それをアレンはやめた。

 シルバーには戦う理由がない。

 無条件で戦ってくれるなんて思っているのは、おこがましい。

 救いたいと願うのは自分だ。ならば、動くのも自分であるべきだ。

 そう決めて、アレンはシルバーの横を通り過ぎる。

 すると、仮面の奥でシルバーが笑った感じがした。

 きっとニヤリとほくそ笑んだ。

 予定通りという笑み。

 それが伝わってきた。


「楽観的だな。だが、悪くない決意だ。そういうことなら……ここに世界最強の魔導師がいるが……護衛に任命してみないか?」

「……いいのか? あんたには戦う理由がない」

「今まではなかった。だが、今はある」

「なんだよ、その理由って……」


 困惑するアレンに対して、シルバーは右手を伸ばす。

 そして、少し乱暴にアレンの頭を撫でた。


「この大陸に来た時、俺は一人だった。そんな中、共にいてくれた恩がある。お前は俺の友人だ。だからこそ、俺はお前のために戦おう。彼女はお前が救え。そんなお前を俺が助けてやろう。理由は友だから。それで不足はないだろう?」


 強力な力を持つシルバーなら何とかしてくれる。

 そんな他力本願なスタンスならば、アレンに手を貸す気はなかった。

 けれど、今、アレンは自分でなんとかしようとしている。

 そういうことであれば、話は違ってくる。

 手を貸したいと思った。

 それがシルバーの戦う理由となったのだ。


「さぁ、気を引き締めろ。ここからは討伐の時間だ」


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― 新着の感想 ―
別大陸で勇者アレンをプロデュースしてる感じか これは皇帝継承編の毒悪魔最終決戦で熱い展開も期待できちゃったりするのかな
[一言] 死んでも賭ける、それが博徒!
[一言] まあ、シルバーが少年を無理矢理連れまわした結果、致命的な心の傷を負う訳ですからね。 と言うか、ただの駆除人として死ぬか、生き残っても国民として討ち死ぬだけだった少年を英雄候補まで押し上げち…
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