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外伝2 第十六話 森の国


 森の国・ヴァルド。

 巨大な森の中に建国されたその国は、木によって構成された不思議な国だった。

 その中にあって、一際巨大な木の屋敷。

 王の住まう館にて、俺たちは待たされていた。


「王は現在、館を離れている。戻り次第、謁見の段取りをつけるため、しばし待たれよ」


 サディアスにそう言われ、俺たちはすべてが木で構成された館を眺めて、暇をつぶしていた。


「へぇ~、全部、木で出来てるんだなぁ。どうやって作ってるんだろ?」

「エルフの製法だろうな。魔法も関わってくる。人間には完璧な再現は無理だ」


 大きな木の館なら人間にも作れるが、エルフのこの館は人工的に手を加えた違和感がない。

 まるで木の中にいるような感覚になる。

 それくらい自然なのだ。


「あんたでも無理か?」

「無理だな」

「なんだよ、そこは俺ならできる、じゃないのか?」

「俺にもできないことはあるからな」


 俺が無理なことを認めたことが意外だったのか、そんなことをアレンが言ってきた。

 俺をなんだと思っているのやら。

 大抵のことはできるが、俺にもできないことは多くある。

 そんなことを思っていると、部屋の扉がノックされた。

 王が帰還したか、と身構えたが、来客は少し違った。


「失礼します」


 入ってきたのはエルフの少女だった。

 長い金髪の髪に紫色の瞳。華奢で、可憐という言葉が良く似合う。

 真っ白な服に身を包んだ少女は、基本的に美しいエルフの中でもさらに美しいと思える少女だった。

 少女は俺とアレンを少し見つめると、フッと微笑み、優雅に一礼した。


「お客様にご挨拶を。エルフの巫女、パトリシアと申します」

「パトリシア!? なぜここに来た!?」

「私はやることがありませんので。せめてお客様の話し相手になれればと思い、ここに来たんです。駄目でしょうか? お兄様」

「お兄様!?」


 パトリシアの言葉にアレンが声をあげた。

 ムキムキという言葉が似あうサディアスと、華奢という言葉が似あうパトリシア。

 兄と妹という関係が信じられないんだろう。

 とはいえ、兄妹と言われれば、頷ける程度には似ている。


「駄目ではないが……いいのか?」

「はい。私がしたいんです」

「そうか……そういうことなら……」


 なぜだかサディアスは歯切れが悪い。

 もう少し明快な男と思っていたが。

 妹相手には甘いのか、もしくは違う理由があるのか。

 どうにも妙だ。


「シルバー様とアレン様。私が話し相手でも構いませんでしょうか?」

「俺は誰でも構わない」

「お、俺も文句ない、です!」


 様子がおかしい奴がもう一人。

 見れば、顔が少し赤い。

 どうやらパトリシアの美しさに見惚れてしまったらしい。


「ありがとうございます。よろしければ王がお戻りになるまでの間、この森をご案内したいのですが、いかがでしょうか?」

「よ、喜んで!」

「では、二人で行ってきてくれ」


 食い気味で返事をしたアレンに対して、俺はそう答えた。

 予想外の答えにアレンが目を見開く。

 そして。


「おい! ちょっと待て! ついてこいって!」

「森の国に興味はない。サディアス、館にある本を読みたいが、構わないか?」

「駄目といって暴れられてもかなわんからな。許可しよう」

「というわけだ。俺の友人の相手をお願いしよう」

「はい。かしこまりました」


 嫌な顔をすることもなく、パトリシアはニコリと笑った。

 純粋に良い子なのだろう。

 だが、アレンは大慌てだ。


「待って、待ってくれ! 俺、自信ない! 喋れない!」

「向こうが接待役だ。喋ってくれるから聞いていろ」

「そういう問題じゃない! 二人は無理だって! 俺! あんな美人と喋ったことない!」

「良かったな。良い経験だ」

「頼むって! 後ろを歩くだけでいいから!」

「仕方ない。アドバイスをしてやろう。いいか、女性と出かける時は自分を飾るな。背伸びをするのが一番よくない」

「そんなこと聞いてない! ついてきてって言ってるんだって! 言葉が通じないのか!?」

「俺はやることがある。お前は彼女と仲良くなっておけ。王と会談するときに味方が多いほうがいい。だから頑張れ」


 別に味方なんて必要ない。

 だが、アレンの背を押すために適当な理由をつけた。

 そしてアレンはパトリシアに連れられて、部屋を出ていった。

 ただ、手と足が同じタイミングで前に出ている。

 緊張しすぎで転びそうだ。

 そんな様子に苦笑していると、サディアスが部屋の周りを固めていた護衛たちに目配せする。

 護衛は頷き、その場を離れる。

 見えていた護衛は三人。さらに見えないように潜んでいた護衛が三人。

 パトリシアの護衛に移った。


「ずいぶんと過保護なことだな」

「大事な妹なのでな」

「本当に妹だから守っているのか?」


 俺の問いに対して、サディアスが少し固まる。

 だが。


「……もちろん妹だからだ」

「だといいがな」


 そんなサディアスに案内されて、俺は館の図書室に入る。

 やることはアレルガルド王国と同じ。

 古代魔法文明の書物を探す。そこに何か書かれているかもしれない。

 封印されている〝長きもの〟。

 それに関する情報がほしい。

 できれば結界に関する情報も。

 エルフたちは千五百年間も結界を守ってきたわけだが、大地の魔力を使ったとしてもそれほどの長きにわたって結界を維持するのは簡単じゃない。

 俺が思いつかないほどの結界術式が使われているか、もしくは。


「定期的に力を継ぎ足しているか、だな」


 小声でそう呟き、俺はため息を吐く。

 想像通りなら非常にまずい。

 エルフたちは多大な犠牲を払って、結界を維持しているということになる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 古代文明の魔導士たちが封印するしかなかった化け物とか流石にシルバーでも殺しきれないかね?
[一言] ……結界の巫女かぁ
[一言] まあそういうことなんだろうな.......
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