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外伝2 第十四話 押し通る


「え、エルフの方々! 俺たちは敵対する気はないんだ! 信じてくれ!」

「それで信じてくれるなら、こういう対応はしてこないぞ」

「そういうこと言うなって!」


 アレンはなんとかエルフの敵対姿勢を解こうとするが、言葉でどうこうできるものではないだろう。

 向こうは完全に警戒態勢。

 こちらが何かすると思っているのだ。


「えっと……とりあえず馬車を降りる!」


 宣言してアレンは馬車を降りようとする。

 だが、そんなアレンの真横に矢が飛んできて、刺さった。

 そして霧の向こうから男の声がした。


「動くな!」

「は、はい……」


 動くことすら駄目だと悟り、アレンは大人しく座りなおす。

 相手はこちらを見えているが、こちらは相手を見えないようだ。


「我らの国に何のようだ? 銀仮面の魔導師」

「ずいぶんな歓迎だな。エルフはもう少し紳士的だと記憶していたんだがな」

「質問にだけ答えろ」


 また矢が飛んでくる。

 今度は俺に向かって。

 ギリギリ、俺に当たらない精度で真横に突き刺さる。

 なかなか腕がよい。


「……貴国の領内に古代魔法文明の施設がある。それを探しに来た」

「そんな話は聞いたことがない」

「アレルガルド王国にて見つけた古文書に書いてあった。調査の許可を貰いたい」

「……本当に調査だけで終わるのか? 問題を起こさないとなぜ言える?」

「どうしてそこまで疑う?」

「貴様がやったことを知らないとでも? ラウエン王国の大軍を脅し、鬼姫に完勝した魔導師。気ままな旅人気分で、我が国に入れると思わないでもらおう。軍より強い魔導師を素直に入れるわけがない」

「日頃の行いって大切だな……」

「すべて善意の行いだ。俺の優しさをわかってほしいものだな」


 肩を竦めて答えると、なぜかエルフたちの警戒がより強まった。

 どうやら余裕の態度が気に入らなかったらしい。


「敵対よりも協調を取るべきだと思うが?」

「脅しのつもりか?」

「そういうつもりはない。貴国に害ある行動をとるつもりはない」

「信用はできん」

「では、どうしたら信用する?」

「引き返せ。我らが受け入れてもいいと思えば、こちらから招待しよう」

「エルフの時間感覚で待っていたら、老いて死んでしまう。それに俺は急いでいる」

「では、我らが譲らなければどうする?」


 答えはわかっているんだろう。

 そしてそういう奴だから、俺を入れるわけにはいかないと思っている。

 なるほどなるほど。

 まったくもって向こうは正しい。


「不本意だが、押し通る」

「では……交渉は決裂だな」


 言葉と共に周囲のエルフたちが一斉に何かの準備に入った。

 おそらく何らかの儀式。

 俺に個人で対抗するのは無理だとわかっているから、何かするつもりのようだ。


「努力!? 努力はどこにいった!?」

「努力はした。残念だ」

「譲歩しろ! 譲歩を! 自分の意見を貫き通すなって!」

「悪いが、俺は面倒くさがり屋でな」

「普通は揉め事のほうが面倒なんだけどな!」


 アレンは俺の隣で騒ぐ。

 そんな中、俺たちの馬車の下に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 見たことないものだが、やろうとしていることは大体察しはつく。

 攻撃は防がれる。それくらいはわかるはずだ。

 ならば、やるのは俺の無力化。

 弱体化、もしくは。


「封印か」

「おいおい……まずくないか?」

「別にまずくはない」

「どうしてそう言い切れる?」

「こういうのはバランスが大切だからだ」


 数十人で行う儀式魔法。

 繊細な魔力コントロールと連携が必要となる。

 だからこそ、儀式魔法というのは敵の前で行うべきじゃない。

 邪魔をされた場合、失敗に終わるからだ。

 それでも俺の前でそれをしているのは、それしか手がないからだろう。

 

「手荒なことはしたくない。だから……諦めろ」


 そう言って俺は魔力を放出する。

 巨大な魔力の発現により、エルフたちの儀式魔法に邪魔が入った。

 必死に儀式魔法を成立させようとするが、今のエルフたちにとっては酷な話だ。

 さらに俺はどんどん魔力を大きくしていき、最後に指を弾く。

 それによって俺たちを閉じ込めていた結界が崩壊した。

 同時に、エルフたちの儀式魔法も失敗し、馬車の下にあった魔法陣が消え去っていく。


「ごきげんよう、エルフの諸君」


 周囲には数十人のエルフ。

 ほぼ全員、結界が壊されたことに動揺している。

 そんな中で、毅然と俺に向かって弓を引くエルフがいた。

 長い金髪に紫色の瞳。

 エルフ特有の長い耳。

 細身な者が多いエルフの中では、かなり大柄で筋肉質だ。


「勇敢だな。名は?」

「我が名はサディアス。エルフの英雄の子孫にして、現戦士長だ!」


 名乗りと同時に矢が放たれる。

 それは魔力を伴った攻撃。

 真っすぐ俺に向かってくる。

 その攻撃を俺は指ではじきながら、告げた。


「では、サディアス。覚えておけ、世の中には敵に回さないほうがいい奴というのが存在する。例えば……俺みたいな何をするかわからない魔導師だな」


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― 新着の感想 ―
[一言] 横暴もいいところである。
[一言] 何するか分からん圧倒的な武力が大して友好的でもない態度で入国しようとしたらそりゃこういう態度とるわw
[一言] 自分で言うのか……
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