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外伝2 第十三話 誤魔化し


 アルノルトが遺跡の調査中に行方不明となってから四日が過ぎた。

 宰相として休暇中のアルノルトだが、わざわざ訪ねてくる貴族もいた。


「宰相閣下はお休み中でしょうか?」

「はい、アル様はゆっくりなさっています」


 用意された館。

 そこで一人の男性貴族が応対を受けていた。

 近場の貴族の一人で、宰相が休暇と聞いて挨拶に来たのだ。

 しかし、会うことは叶わない。

 対応に出てきたのはフィーネだった。


「ご挨拶だけでもと思ったのですが……」

「休暇中ですので。訪ねて来られたことはしっかりとお伝えします」


 フィーネにそう言われては、引き下がらざるをえない。

 渋々ながら貴族の男性は腰を上げた。

 顔くらい見せてもらえると思ったが、それすらかなわない。

 不満はあるが、不満を表に出すわけにはいかない。

 今回、わざわざ訪ねてきたのは覚えを良くしてもらうため。

 悪い印象を与えるわけにはいかない。

 目の前にいるのは帝国の蒼鴎姫。

 正式に発表されたわけではないが、宰相アルノルトの傍に仕える愛人と言われている。

 真偽はわからないが、強い影響力を持つ女性なのは間違いない。


「フィーネ様。アルノルト様がお呼びです」

「わかりました。では、失礼いたします」

「はっ……宰相閣下によろしくお伝えください」


 男性貴族は頭を下げて、その場をあとにする。

 その帰り際。


「屋敷で絶世の美女とよろしくやっているとは……良いご身分だな」


 呟きながら、男性貴族は去っていく。

 休暇を満喫しているため、会ってもくれない。

 ただ、藩国の貴族に厳しいアルノルトだ。

 会ってくれなかったとしても不自然ではなかった。


「お帰りになりましたか?」

「はい。不満そうでしたが」

「いつもならアル様の評判に気を遣うところですけど……今回は仕方ないですね」

「元々、手厳しいという評価を受けていますから、さほど違和感はないかと」


 セバスの言葉にフィーネは静かに頷く。

 今のところ、誤魔化しはきいている。

 しかし、当初の予定である一週間の休暇。

 この期限を超えたら、どこまで誤魔化せるかはわからない。

 最悪、王であるトラウゴットには事情を説明する必要が出てくる。

 もちろん、アルノルトがシルバーであるという部分は誤魔化して説明する必要があるが。


「アル様、ご無事だとよいのですが……」

「無事か無事じゃないかで言えば、無事でしょうな。災難に巻き込まれている可能性は大いにありますが」

「ですね……。とにかくお帰りを待つとしましょう」

「すぐに帰ってこないということは、すぐに帰れない状況ということです。焦っても仕方ないので、気長に待つとしましょう」


 セバスの落ち着きにフィーネは感心する。

 さすが長年、アルノルトの傍に仕えてきただけのことはある。

 狼狽えるでも、心配するでもなく、ただ帰りを待っている。

 残された側ができることは、不在を悟らせないことだけ。

 それをよく理解しているのだ。


「アル様、お腹を空かしていないでしょうか?」

「問題ないでしょう。面倒くさがりなだけで、やらなければいけない場合はやるタイプですので」




■■■




「食料を置いてさっさと失せろ」

「ひぃぃぃぃ!! 申し訳ありませんでした!」


 エルフの国に向かう途中。

 俺たちは野盗に遭遇していた。

 とはいえ、野盗程度に苦戦するわけもなく、返り討ちにして食料を逆に奪っていた。


「どっちが野盗かわかんねぇな……」

「命を助けてやるんだ。食料くらいはいただく。どうせ、他人から奪ったものだろうしな。近くに村があるなら、そこに寄付するんだが……」

「国境付近は治安が悪くなりがちだから、村は少ない。あいつらのターゲットは旅の商人とかだと思う」


 アレンの言葉を聞いて、俺は一つ頷く。

 となると、奪った食料は俺たちが使うことになる。

 しかし、元々、あまり食糧には困っていない。

 ウィルフレッドが用意した馬車には十分な食料が積んでいるからだ。


「ふむ、そうなると食料より命を奪うべきだったか?」

「物騒なこと言うなよ……」


 あえて命を奪わなかったのは、彼らが命までは取らないというスタンスだったからだ。

 彼らにとって旅人は収入源。

 殺してしまえば、そこでおしまいだが、生かしておけばまた来るかもしれない。

 だから、彼らは殺す気がなく、武器も脅しだった。

 それがわかっているから、食料を奪って逃がした。

 改心の余地があるからだ。


「さて、進むとするか。あまり時間もかけてられないからな」

「いいのかよ? ゆっくり進んでいてほしいって言ってたぞ、鬼姫様は」


 レイナは俺との一騎打ちのあと、軍を率いて自国に引き返した。

 将軍として出陣した以上、戻らねば他国を無暗に刺激してしまう。

 その後、俺についてくる気のようだった。

 俺としては俺が去った後にアレンの師になれ、という意味だったんだが、レイナはすぐに、という意味で捉えたらしい。

 どっちでも構わないため、俺は好きにしろと言った。

 だが。


「待つ義理はない。こっちは先を急ぐんでな。それに彼女を連れて行ったら、エルフたちが警戒するだろう」

「……いや、別に変わらないと思うぞ、対応は」

「ほう? なぜそんなことが言える?」

「無自覚だから教えるけど、ヤバい奴が家に来た時の対応は一人でも二人でも変わらない。最大限の警戒に決まってる」


 アレンがそう呟いた瞬間。

 俺たちが乗る馬車が結界に取り込まれた。


「……ほらな?」

「失礼な奴らだ」


 先ほどまでのどかな風景が広がっていたのに、結界に取り込まれてから濃い霧のようなもので周りは見えない。

 しかし、気配はある。

 周りには数十人ほど。

 厳戒態勢だ。


「これがエルフ流の挨拶か」

「頼むから揉め事にしないでくれよ? 俺は死ぬまで恨まれたくない」

「努力しよう」


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― 新着の感想 ―
[一言] 特大の爆弾に付随する小爆弾はあまり気にされないわな
[良い点] どっかの種族を思いださせるお出迎えw [一言] 竜人族ぅ……。
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