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外伝2 第七話 敵軍潰走


「そのまま走れ!!」


 アレンは避難民の横を通り過ぎると、敵の騎馬隊に突っ込んでいく。

 なるべく自分に引き寄せる気なのだ。

 相手は数十名。

 一人や二人は相手できるだろうが、その数に包囲されたら帰還は無理だ。

 そんなことはアレンとしても百も承知。

 暴れるだけ暴れて、追手の足を止める。

 それだけを考えているんだろう。

 自分の家族が安全だから、今度はほかの家族も守る。

 言うのは簡単だが、行うのは簡単じゃない。


「礼はまだ終わってないからな」


 言いながら俺はアレンの剣に魔力を付与させた。

 死なすには惜しい。

 向こうがどう思っているかはわからないが、この大陸で初めての友人だ。

 友は大切にしなければ。


「うおぉぉぉぉぉ!!!!」


 アレンは雄たけびと共に敵の先頭に向かって大剣を振るう。

 一人を狙った大振り。

 しかし、魔力が付与された大剣は一人に使うには強力すぎた。

 ただの一振り。

 しかし、その一振りで敵の騎馬隊は全員、吹き飛ばされた。

 あまりの威力にアレンが一番驚いている。


「え、ええぇぇぇぇ!!??」


 だが、颯爽と避難民を救助しに行った一人の若者。

 それが敵騎馬隊をあっさり撃退した。

 その事実に王都は沸く。

 状況を見守っていた王都の者たちは大歓声で、帰ってきたアレンを出迎えた。


「よくやった!」

「すごいぞ! 少年!」

「ありがとう! ありがとう!」

「い、いや……俺の力じゃなくて……」


 アレンは何とか説明しようとするが、そんなアレンの下にウィルフレッドがやってきた。


「アレン! なぜここにいる!?」

「お、王子殿下……その……」

「いや、よく来てくれたというべきか! 君が来たということは……彼が参戦してくれるのか?」

「た、たぶん……さっきの一撃もあの人の力ですし」


 アレンはそんなことを言いながら、俺の姿を探す。

 そんなアレンたちを見下ろしながら、俺はフッと微笑む。


「アレンを英雄に据えて撃退することも考えたが……逃げる民を追い立てるような軍に遠慮は無用だろう」


 あくまで俺は直接、手を下さず。

 裏から状況をコントロールするのも考えた。

 しかし、敵はだいぶ野蛮だ。

 一部隊の暴走かもしれないが、条約を破って奇襲して、民に被害を与えている。

 それだけで十分だろう。


「民のために……俺の行動理由にお前たちは抵触したぞ」


 そう言いながら俺は王都の上空でラウエン王国軍の先遣隊を睨みつけた。




■■■




 先遣隊の数はおよそ二万。

 本隊到着までの露払いが主な目的であり、現在は王都に援軍が入れないように包囲しようとしている。

 そんな先遣隊は、空を飛ぶ俺の姿を認めた後、即座に攻撃態勢に入った。

 王都近辺の山賊を討伐した魔導師の情報を掴んでいたからだろう。

 その対応の早さは良いが、早いだけ。

 こちらがなにをしようとしているのか、その点の情報がまったくないというのに、先遣隊は攻撃態勢に入った。


「判断は早ければいいというものじゃないんだがな」


 呟きながら、俺は敵軍から無数の火球が放たれるのを見ていた。

 現代魔法に近しい魔法。

 数は千ほど。

 一斉に放たれた火球は、俺と王都を狙ったものだ。

 そんな火球を俺はすべて魔力弾で撃ち落とした。


「虐殺は好みじゃないから、被害は抑えてやる」


 そんなことを言いながら、俺は猛スピードで敵陣に切り込んだ。

 迎撃でいくつか魔法が放たれたが、それらはすべて俺の周りに張られた結界によって弾かれる。

 そのまま勢い良く、俺は敵本陣へと着地した。


「貴様が大将か?」

「こ、殺せ! 早く殺せ!!」


 敵の大将と思しき男は、椅子に座り、優雅に紅茶を飲んでいた。

 しかし、突如として現れた俺に狼狽え、紅茶をこぼしながら後ずさりする。


「死ねぇぇぇぇ!!」

「向かってくるなら容赦はしない」


 警告を発しながら、俺は右手を振る。

 それだけで斬りかかかってきた兵士は遥か遠くまで吹き飛ばされた。

 命はないだろう。


「迎撃! 迎撃せよ!」


 指揮官を守ろうと兵士たちが数を頼りに、俺のことを迎撃しようとする。


「私の布陣に穴はない! 一人で入ってきたことを後悔しろ!!」

「戦術家気取りか。貴様みたいなやつが一番性質が悪く、味方を殺す」


 まず放たれたのは無数の矢。

 それらを気にすることもなく、俺は一歩一歩、敵の指揮官へと向かっていく。

 矢は結界によって無力化されていると察した兵士たちは、次々に突っ込んでくるが、そのたびに吹き飛ばされていく。

 やがて、兵士たちの足が止まる。

 数で突破できる相手ではないと察してしまったからだ。

 無駄死にとわかってしまえば、兵士は死ねない。


「なにをしている! 突撃しろ!」

「その間に自分は逃げるか?」

「なっ!?」


 敵の指揮官と俺の間には、たしかに兵士たちの壁があった。

 その間に指揮官は体勢を立て直し、後ろに退く用意をしていたのだが。

 いつの間にか俺は指揮官の目の前まで来ていた。

 指揮官は舌打ちをしながら、俺に背を向ける。


「くそっ!!」

「他人を殺そうとしたんだ。殺される覚悟はしておくべきだったな」

「ぐっ……!?」


 逃げようとした指揮官の動きが止まる。

 そしてゆっくりと体が宙に持ち上げられた。

 俺が魔法で作り出した見えない腕が、首を掴んで持ち上げているのだ。

 息ができず、指揮官は足をばたつかせるが、助けはない。

 やがて限界を迎えた指揮官の動きがパタリと止まる。


「敵将はこのシルバーが討ち取った。逃げるならば追わない。逃げないならば死を選んだと判断する。さぁ……どうする?」


 俺が付近の兵士に質問すると、兵士たちは一斉に悲鳴を上げながら逃走していく。

 現場指揮官たちはそれを止めようとするが、一度はじまった流れは止まらない。

 二万の軍勢が崩壊し、兵士たちは我先にと逃げていく。

 彼らとしても敵兵と戦う覚悟はできていても、化け物と戦う覚悟はできていなかったんだろう。

 俺に挑もうとする者は結局、誰もおらず、敵先遣隊はあっけなく潰走していったのだった。


「あとは本隊も逃げてくれれば、無駄な犠牲を出さずに済むんだがな」


 呟きながら俺は宙に吊るされた状態だった敵指揮官を手放し、踵を返して王都へ戻るのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 魔導王の名が更に高まりましたね。
[良い点] てかげん発動中 [一言] 指揮官は内側から膨張→爆発するのかと思った
[気になる点] まさにやりたい放題w まあ先に手出したのは向こうだし……。
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