外伝2 第四話 報告書
アレルガルド王国。
シュランゲ大陸の中央にある中堅国。
幾度か滅亡の危機を乗り越えて、現在に至っている。
そんなアレルガルド王国の城に、俺は賓客として招かれた。
「シルバー殿。宴は好きだろうか?」
「見ている分には好きだが、今は遠慮しておこう。図書室を見せてもらいたい」
「タダ酒とタダ飯が食えるんだから誘いに応じようぜ……」
「じゃあお前がシルバーとして参加してこい。俺は構わない」
「そんな恐ろしいことできるかよ……」
俺の言葉にアレンは震えあがる。
現在、賓客として招かれているが、アレルガルド王国の者は皆、俺のことを恐れている。
宴とはいえ、何が起きるかわからない。
そんな場所で俺のフリをするのは、ごめんらしい。
「そういうことならばすぐに案内しよう」
ウィルフレッドはこちらの意図を察して、すぐに図書室に案内してくれた。
俺は個人として破格の力を持っている。
長居すれば、俺を利用しようとする者もでてくるだろう。
あくまで俺は外からやってきた者だ。この大陸の情勢に関与する気はない。
山賊討伐程度なら大丈夫だが、それ以上のことをしはじめるのはよろしくない。
部外者が大陸の歴史を作っていいわけがない。
ずっといるならまだしも、俺はすぐに帰るのだから。
どんな変化にも責任を取れない。
「ここが城の図書室だ。大抵の書物はここに保管されているといってもいい」
そう言ってウィルフレッドは図書室を開けた。
中にはずらりと書物が並んでおり、奥に行けばいくほど年代が古そうだった。
「これ一人で調べるのかよ……大変だなぁ」
「お前も調べるから二人だ」
「俺も!?」
自分は関係ないという風だったアレンにそう言うと、俺は図書室の右側を指さす。
「お前は右から。俺は左だ」
「人手がいるなら貸し出すが?」
「必要ない。あまり関係ない者と話したくはないのでな」
「了解した。では、頑張ってくれ」
ウィルフレッドは苦笑しながらその場を後にする。
残されたアレンは、膨大な量に絶望しているが、この程度なら問題ない。
「とにかく古そうなものを開け。お前が読めない書物を探せ」
「どういうことだよ……」
「古代魔法文明時代の書物は簡単には読めない」
「自分は読めるといわんばかりの言い方だな」
「読めるぞ。そうじゃなきゃ探さない」
「……あんたにできないことってあるのか?」
「片付けが苦手だな」
「それはそれは。大層な弱点があったな」
呆れながらアレンはため息を吐き、書物探しに移るのだった。
■■■
探し始めて数時間。
量が量のため、なかなか見つからない。
そんな中、アレンが眠そうな声で俺に呼びかけた。
「これは違うのか?」
もう終わらせたい。
そんな雰囲気を感じつつ、俺はアレンが差し出した書物を開く。
そこに書かれていたのは紛れもなく古代魔法文明についてだった。
「意外に役に立つな。これだ」
「それはどうも……寝ていいか?」
「どこにあった?」
「あっちだ」
アレンが案内したのは埃の被ったエリア。
どの書物もとにかく古く、そして痛んでいる。
無造作に積まれているあたり、読めないから放置されていたんだろう。
「よくやった。眠っていいぞ」
「じゃあおやすみ……」
アレンは目を擦りながら図書室を出ていく。
昨日は山賊討伐のあとで、ろくに眠れなかったから、さすがに眠気が限界なんだろう。
やはりお礼が必要だ。
何がいいだろうか。
そんなことを考えつつ、俺は本を読み進める。
「古代魔法文明の先遣隊による報告書か……」
どうやら古代魔法文明はこの大陸を支配しようとして、来たわけじゃないらしい。
転移装置の実験。
それが目的のようだ。
おそらく俺が転移してきたものだろう。
行きと帰りの装置が用意されており、帰りの装置の位置も把握できた。
稼働しているかどうかは疑問だが、とにかくそこに行くべきだろう。
ただし。
「現地の調査は即刻終了、即時撤退?」
報告書の終盤。
気になる言葉が続いていた。
詳細は文字がかすれていてわからない。
ただ、何かイレギュラーなことが起きたようで、先遣隊は撤退したようだ。
第一目標は装置のテスト、第二目標はこの大陸における足掛かりを作るというものだったらしいが、先遣隊はこの大陸は諦めるべき、と考えたようだ。
何かまずいことがあったんだろう。
古代魔法文明の先遣隊ならば、かなり強力な魔導師たちだったはず。
彼らが撤退するようなことなんて、然う然う起きるとは思えないが……。
最後に書かれていたのは報告書を作成した人物の総評だった。
「この大陸を傘下に加える場合、王族の派遣が必須である、か」
古代魔法文明の王族が必要な何か。
それがこの大陸にはある。もしくはあった。
それが原因で先遣隊は撤退した。
ややこしい話になりそうだ。
「これは急いで帰ったほうがよさそうだな」
留まれば面倒事に巻き込まれる。
早く帰ろう。
そう決意して、俺は本を閉じたのだった。