外伝2 第三話 魔王扱い
一夜明けて。
シュランゲ大陸の中央。
とある王国の王都近くにある廃城。
そこに万を超す兵士が集まっていた。
「魔王討つべし!」
「魔王討つべし!」
「魔王討つべし!」
兵士たちは口々にそう叫び、ゆっくりと城に近づいてくる。
その廃城にて、俺は玉座に腰かけながら呟く。
「どこに魔王がいるというんだか」
「あんただよ! あんたのことだって!」
呆れながらため息を吐くと、アレンがそう言ってきた。
しかし、それは間違いだ。
「俺は山賊を討伐しただけだが?」
「あんな目立つ方法で討伐するからだろ!?」
目立つ方法と言われても、空から魔力弾を放っただけだ。
数千発ほど。
ついでに周りにいたモンスターたちも討伐した。
お礼を言われることはあっても、魔王と呼ばれる筋合いはない。
「物騒な大陸だ。話し合いのターンはないのか?」
「王都を滅ぼせそうな奴が廃城に居座ったら、当然、軍が出てくるに決まってるだろ……どうするんだよぉ……あの数相手じゃ逃げるのも無理だぞ……」
アレンは頭を抱えながら外の軍を見つめる。
装備はそれなり。統制もとれている。
しっかりとした正規軍だ。
王都近辺の脅威に即時対応したのは、良いことだと思うが、せめて使者をよこしてほしいもんだ。
こっちはあくまで善意で動いたというのに。
「山賊は放置していたのに、俺は放置してもらえないか」
「自分が山賊と同じ脅威度だと思ってるのか? あんた……」
「さすがにそこまで謙虚ではないさ」
俺は足を組み、小さな魔力弾を生み出す。
アレンの顔が一気にひきつった。俺が無造作に作り出した魔力弾の威力を知っているからだ。
「こ、攻撃するなよ!? 兵士に罪はないからな!?」
「そこまで馬鹿じゃない。ただ、わざわざ王都の者が訪ねてきたんだ。話がしたいと思ってな」
「軍が出てきたのに……訪ねてきたって……」
俺の言い方にアレンはうんざりとした表情を浮かべ、肩を落とす。
昨日からこの調子だ。
そろそろ察してほしいものだ。
俺とアレンでは常識が違うということを。
俺は作り出した魔力弾を空に放つ。
高速で空に舞い上がった魔力弾は、上空に到達する。
そして、一瞬で爆ぜた。
思わず目を瞑ってしまうような光が発せられ、アレンも兵士たちも目を瞑る。
その瞬間、俺は敵本陣にいる大将と思しき男を城に転移させた。
どうして大将とわかったかというと、一人だけ鎧が違う。さらに紋章の入ったマントを羽織っていた。
その紋章は兵士が掲げる軍旗と同一。
おそらく王家の者だろう。
年は二十代後半。
赤い髪に赤い瞳の青年。
「ようこそ、俺の城へ。まぁ、ただの仮拠点だが」
「貴様が魔王か……!」
青年は剣を抜き放ち、俺に向けてくる。
それに対して俺は玉座に座ったまま問う。
「山賊を討つことがそんなに悪いことかな?」
「山賊を討ったことが悪いのではなく、討ち方が悪いのだ。我が国の領内であれほどの大規模攻撃を予告なくしておいて、自分は無害というつもりか?」
「それは失礼した。大規模攻撃のつもりはなくてな」
「ふん……ぬけぬけと」
青年は俺が嘘をついていると思っているらしい。
だから俺は右手を空に向けた。
「何をする気だ!?」
「いくつか教えておこう。俺は敵対する気はない。できれば話し合いをしたいし、罪のない者を害する気もない。本当に、山賊への攻撃は俺にとっては挨拶程度の攻撃だった」
それだけ言うと、俺は右手に魔力を集中させる。
話し合いには互いに共通の認識が必要だ。
青年は俺が嘘をついていると思っている。わざと威嚇行為をしたと思っているのだ。
その意図は俺にはないとわかってもらうには、これしかない。
≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者・其の銀雷の熱は神威の象徴・其の銀雷の音は神言の鳴響・光天の滅雷・闇天の刃雷・銀雷よ我が手で轟き叫べ・銀天の意思を示さんがために――シルヴァリー・ライトニング≫
右手から銀色の雷光が放たれる。
その威力は当然ながら、山賊に攻撃した魔力弾の比ではない。
あまりの威力に天が割れ、大地が揺れる。
その攻撃を見て、青年は茫然と空を見上げることしかできなかった。
「どうだろうか。俺が嘘を言っていないと納得してくれたか?」
「……そのようだ」
青年は静かに剣を下ろす。
そして。
「無礼は謝罪しよう。王都を脅かす者と思い、軍を発してしまった」
「理解できる行動だ。しかし、無礼であることは間違いじゃない。なので、一つ頼みを聞いて欲しい」
「こちらに断る選択肢はないだろう……その気になれば王都も壊滅させられるのだからな」
「そのようなことをする気はない。千年前の古文書や遺跡を探している。なにか心当たりはないだろうか?」
「千年前の古文書や遺跡……? 古代魔法文明について調べているのか?」
「そんなところだ」
俺の言葉に青年は少し思案する。
だが、長くは続かない。
「あなたを賓客として城に招き、城の図書室を解放しよう。何か見つかるかもしれない」
「感謝する。ということは、あなたは王子かな?」
「知らずにつれてきたのか……私の名はウィルフレッド・アレルガルド。アレルガルド王国の第一王子だ。あなたの名は?」
「シルバー。そう名乗っている」
「なるほど、たしかにあなたにピッタリな名だ」
そう言ってウィルフレッドは苦笑する。
そんな会談の中、俺の横にいたアレンはそっと俺に小声でしゃべりかけてくる。
「なぁ……これで俺はお役目御免ってことでいいか? 王都にいけるみたいだし……」
「もうしばらく一緒に来い。お礼をしたいんでな」
「いや、いいよ。いらない。あんたのお礼とか怖すぎる」
「遠慮するな」
そう言うと、俺は玉座から立ち上がったのだった。