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第六百五十三話 ゆけ


【――冥墜】


 アスモデウスの攻撃。

 空から無数の隕石が降ってくる。

 もちろんただの隕石じゃない。

 拳大の隕石から、二メートルを超える隕石もある。

 そんな大小さまざまな隕石が、魔力を帯びて高速で降ってくる。

 受け止めるのはかなり危険だ。キリがない。軌道を変えるか、避けるかするのが一番だろう。


「一か所に集まれ!!」


 ジャックが近くで生き残っている者たちに声をかける。

 散らばっていては、守りづらいからだろう。

 空から降ってくる隕石をどうにか迎撃しながら、自然と俺たちは近くに集まっていた。

 守るのはエルナとノーネーム、そして俺とジャック。

 ほかにもミアをはじめとした実力者が迎撃をしているが、一つの軌道を逸らすのに全力を出す必要がある。

 彼らだけではとても捌き切れる量じゃない。


「くっ!!」


 銀属性の魔法で一帯の隕石を消滅させるが、隕石はさらに空から降ってくる。

 キリがない。

 チラリと父上の方を見れば、近衛騎士団と勇爵が奮闘していた。

 だが、ジリ貧でもある。


「あわわですわ!?」

「落ち着いて対処しろ!」


 迫りくる隕石のどれに狙いを定めようかと迷っているミアに対して、ジャックがすべて迎撃しながら告げる。

 難しい話だ。

 この物量での攻撃に対して、冷静に対処しろというのは酷というものだろう。

 だが、防ぎきればチャンスでもある。

 一点集中の攻撃は防がれる可能性がある。だから、アスモデウスは全体攻撃に切り替えた。

 人間は脆い。わざわざ高威力の攻撃で消滅させなくても、弱い攻撃を当てるだけで行動不能となる。

 ただ、これほどの規模で攻撃すれば消耗も免れない。いくらアスモデウスでも、だ。

 ここを防げば。

 反撃のチャンスが舞い込んでくる。

 リナレスとエゴールはそのチャンスを待っていた。そして、それを俺たちに託した。

 諦めず、そのチャンスに賭けるしかない。

 そんな中、悲痛な叫びが響いた。


「お父様ぁぁぁぁぁ!!!!????」


 エルナの叫びを聞き、父上の方を見る。

 聖剣で迎撃していた勇爵が地面に落ちていく。

 エルナはそちらに気を取られ、茫然としている。

 エルナをカバーしなければ。

 そう思った時、エルナの傍でノーネームが隕石を一掃して時間を稼ぐ。


「しっかりしなさい!! エルナ!!」

「お父様が……」

「あなたのお父上が何のために時間を稼いでいると思っているのですか!? 勝つためです!! しっかりしなさい!! あなたがしっかりしなければ勝てるものも勝てません!!」

「……」


 ノーネームの言葉を聞き、エルナは弱弱しく頷く。

 だが、まだ本調子ではない。

 ショックは大きい。

 覚悟はしていても、実の父が倒れれば平静ではいられない。いくら勇者であっても。

 いつもなら何か言うところだが、俺も他人事じゃない。

 次は俺の父親の番だ。

 勇爵が落ちたことで、近衛騎士団の負担は増した。

 きっと防ぎきれない。

 いずれ来る悲報に対して、俺は心を冷まして対処しようとする。

 なるべく考えないように。

 大事なのは勝つこと。

 そのために今、目の前のことに集中しようと考える。

 そんな俺の持ち場である隕石が一気に消失した。

 ジャックがすべて迎撃したのだ。

 そして。


「馬鹿野郎!! 行け!」

「ジャック……」

「皇帝がやられたら終わりだ! ここは俺達に任せて行け!」


 葛藤が俺を襲う。

 この大事な局面で実の父親を助けにいくというエゴが許されるのだろうか?

 いくら皇帝の存在がこの戦場のキーマンであったとしても、俺は皇帝として助けることはできない。助けにいくのは父親だ。

 エルナは行かなかった。

 それなのに俺は行くのか?

 けれど。


「行って! お師匠様!」

「クロエ……」

「お師匠様、行きたそうだから。行って!!」


 クロエが再度、ダークネス・フォースを発動させて、俺の持ち場を担当する。

 クロエとてギリギリだ。

 魔力が回復しても、体力までは戻らない。

 連戦に次ぐ連戦で、いっぱいいっぱいのはず。

 それでもクロエは俺に行けという。

 その声に押されて、俺は一気に父上の下へ向かった。

 迂闊に転移はできない。この攻撃の中では安全な場所がない。

 転移した先で隕石と衝突しかねない。

 だから、とにかく急いで向かう。

 そんな俺の視線の先、セオドアが隕石に貫かれた。

 大きな隕石なら防ぐこともできるが、拳大の隕石はどうしても防ぎきれず、撃ち漏らす。

 即死するほどの攻撃ではない。

 けれど、人間に致命的なダメージを与えるには十分。

 それでもセオドアは踏みとどまった。近衛騎士として、皇帝を守ろうとしている。

 ただ、それも長くは持たない。

 セオドアも落ちる。

 まだ父上とは距離がある。

 傍にいるのはアリーダのみ。

 間に合わない。

 そう思ったから転移門を作った。

 咄嗟に作ったその転移門。

 父上は入らない。

 フッと笑い、皇剣を転移門に放り投げた。

 そして俺の方を見る。

 どこに繋がっているのか察しているんだろう。

 もう自分の役目は終わりだと言わんばかりの笑み。

 皇帝としてのヨハネスはそこにはいない。

 そこにいるのは。


「ゆけ、アルノルト……!」


 俺の父親としてのヨハネスだった。

 言葉の後、隕石が父上の右腕に当たり、さらに腹部を貫通する。

 その光景に一瞬、頭が真っ白になる。

 アリーダが何とか迫りくる隕石を防いでいるし、残る近衛騎士たちも集まって、どうにか父上を保護している。

 けれど、重傷。

 助かるかはわからない。もう死んでいるかもしれない。

 今すぐにでも向かいたい。

 だけど、体は動かない。

 頭ではこんなにも駆け付けたいと思っているのに。

 体はそちらには動かない。

 父上の言葉が俺を縛る。

 本心から父上を心配しているのに。

 それでも、という心の声のほうが大きい。

 受け継いだ想いがある。

 告げられた言葉がある。

 託された願いがある。

 〝ゆけ、アルノルト〟。

 言葉が繰り返される。

 その言葉に突き動かされて、俺は一気に加速していた。

 隕石による攻撃が終わる。

 被害は甚大。

 そんな惨状を見て、アスモデウスは笑う。


「いい様だな。皇帝」


 言葉と同時に俺の中の何かが切れる。

 一気に加速しながら、俺は右手を突き出す。


≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者・蒼天に満ちし神銀・緑地に散らばる真銀・其の銀は時に雷のごとく迸り・其の銀は時に闇夜を照らす光となる≫


 アスモデウスは父上にトドメを刺すために、最後の攻撃準備に入っている。

 させまいと、俺は俺の聖剣を仕立て上げる。


≪皇貴なる天銀・無垢なる白銀・真銀よ我が手に集え・かの敵を銀滅せんがために――≫


 右手に銀の魔力が集まっていく。

 やがてそれは剣へと変化する。

 その輝きはこれまで見たどの銀よりも高貴な輝きを放っていた。


≪シルヴァリー・エンド・セイバー≫


 銀の終滅剣。

 その聖剣を掴んだ時。

 戦場全体に父上の声が響いた。


『はぁはぁ……馬鹿め……ワシのような老いぼれを倒すために本気になりおって……ワシを倒すと決めたとき……貴様の敗けは決まっていた……はぁはぁ……人は意志を、想いを、願いを……受け継ぐ生き物だ……貴様ら悪魔はそれをわかっておらぬ……! ワシがやられても、次代を担い、受け継ぐ者たちがいる……!! ごほっ……短い命の中で、我々は次代に多くを託す……完璧ではないからこそ……人は受け継ぐ……〝繋がり〟……それこそ人類の力と知れ!! 見よ!! 貴様を討つ帝国の子らを……!!』


 両手で終滅剣を構え、攻撃体勢に入っているアスモデウスへ突っ込む。

 そんな俺の左右から同じように突っ込む者たちがいた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何週目か分からんけど、最新話でようやくここの本当の意味が分かって泣きそう
[気になる点] アルとエレナが惹かれあっているのって実は病気の効果だったりします?次の獲物というか。配合させて毒を仕込む。的な
[一言] ヤバい。感動しました。
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