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第六百四十八話 結界発動



「あら、やだ。ちょっとキモイわね」

「しかし、デカくなったなら好都合じゃ」


 真の姿を現したアスモデウスに対して、真っ先に動いたのはエゴールとリナレスだった。

 元々、前線で大量の悪魔を引き受けていた二人からすれば、一人に集約されたのはまさしく好都合。

 二人は一気にアスモデウスに接近する。

 巨体ならば小回りが利かないだろうという判断だ。

 しかし。


「気をつけろ。人間を依代としていた時ならいざ知らず、この形態では手加減はできんぞ」


 そう言うとアスモデウスは素早く右腕を振った。

 上半身は人間体とはいえ、その大きさは人間の比ではない。

 接近していたエゴールとリナレスはその右腕によって弾かれる。

 二人は大きく吹き飛ばされ、王都の建物の中へ突っ込んでいく。


「……好都合って言葉を取り消す気になったかしら? エゴール翁」

「そうじゃな。数が多いほうがマシじゃった」


 二人は瓦礫の山から出てくる。

 まだまだ元気な様子だったが、二人ともあちこちから血を流していた。

 それだけでアスモデウスが厄介な相手だということがわかる。

 アスモデウスはそのまま、二人に右手を向ける。

 何かを放つつもりだった。

 だから、エゴールとリナレスは身構える。

 だが、それは阻止された。


「ちゃんと合わせなさいよ! ノーネーム!」

「こっちのセリフです」


 巨体となったアスモデウス。

 それを好都合と捉えたのはエゴールとリナレスだけではなかった。

 アスモデウスの正面。

 ノーネームとエルナ。二人の剣士が剣を構えていた。

 かたや魔剣、かたや聖剣。

 互いに魔力を高め、強力な一撃を放つ準備をしていた。


「冥神よ、我が声を聴け――汝は冥府の宝剣・影を纏いてすべてを滅する・汝の主が今、冥滅を望む!」

「星の聖剣よ! その力を解放せよ……我が敵を打ち滅ぼすために!!」


 二人の声が戦場に響く。

 同時に魔剣・冥神には黒き影が、聖剣・極光には黄金の光が。

 それぞれ集まっていく。

 互いに全力。

 しかし、聖剣と比べると冥神はやはり見劣りする。

 そのことに苦笑しながら、ノーネームは力を振り絞る。

 剣が及ばないならば、行使者の力量で埋めるまで。

 限界をさらに超え、魔力を振り絞る。

 そして。


「冥影集斬!!」

「光天集斬!!」


 影と光。

 強烈な奔流がアスモデウスへ向かう。

 さきほどエルナが放った一撃と遜色ない攻撃。

 しかもそこに、ノーネームの一撃まで加わっている。

 そんな二つの奔流。

 それをアスモデウスは前面に結界を張ることで防いだ。

 結界は五重。

 その四つまでは破壊できたが、結局、アスモデウスには届かない。

 完璧に防がれた。

 そのことにエルナとノーネームは愕然とするが、アスモデウスはそれを鼻で笑う。


「先ほど効いたからといって、今回も効くとでも思ったか? 配下を吸収するからにはそれなりの理由がある。総合的な防御力はもちろん、破壊力でも全悪魔を合わせたより、今の余のほうが上だ」


 そう言ってアスモデウスは両手を前に向ける。

 両手には膨大なエネルギーが溜まっていく。

 それを見て、エルナは叫んだ。


「陛下!!」




■■■




 ジークと皇国の宮廷魔法師団が到着した時。

 アスモデウスがちょうど、真の姿を現したときだった。

 とんでもない事態に一同、呆気に取られるが、それでもジークは自分のやるべきことを果たすため、戦場を駆けた。


「おいおい、どこだ!?」


 ジークは連合軍の兵士たちを足場にしながら、目当ての人物を探す。

 そして、戦場の後方。

 そこでジークは見つけた。


「仙姫の嬢ちゃん! 見つけたぜ!」

「おお! ジーク! また愛らしい姿に戻ったな! うむ! そっちのほうが妾は好みだぞ!」


 そこにいたのはオリヒメだった。

 連合軍全体に張った結界が破られたあと、オリヒメは皇帝の前に強力な結界を張っていた。

 最後の砦となるためだ。


「戻ったって言うな! それはそうとして、これ返すぜ! 助かった!」


 そう言ってジークは聖符をオリヒメに差し出す。

 それに対して、オリヒメは微笑む。


「いらぬ」

「はあ!? なんでだよ!? あれはいくらなんでもやばいぞ!?」


 そう言ってジークは後ろを振り返る。

 かなり距離が離れているのに、それでも見ているだけ心臓を掴まれているような威圧感を発するアスモデウス。

 見ているだけで息が詰まる。

 ジークでそうなのだ。

 ほかの連合軍の兵士は、直視したら恐ろしくて心がくじけてしまうだろう。


「聖符は強力だが、妾が使うものではない」

「使うものではないって……使えんなら使えよ!」

「ほかの者に渡すがよい。妾では宝の持ち腐れだ」

「仙姫が宝の持ち腐れって……SS級冒険者に渡せばいいってのか?」

「任せる。ただ、妾ではないことは確かだ。妾は防ぐことしかできぬ。脅威を防いだところで、根本的な解決にはならぬ。今、人類に必要なのは盾ではなく剣なのだ。戦力になる者に渡すがよい」


 そういうとオリヒメは前へ歩き始めた。

 ジークを追ってきた宮廷魔法師団も、そんなオリヒメを見て、その後に続く。


「何をする気なのか察しはつきます。微力ながら我らも助力しましょう。仙姫殿」

「おお! 宮廷魔法師団か。たしかにそなたたちなら力になるだろうな。妾の結界を研究しておったのじゃろ?」

「もちろん。我々の普段の任務はあなたの結界の研究ですから」

「勤勉だな!」

「我が皇国としては、あなたの結界を破ることが悲願ですので。ただ、我々にできたことはせいぜい、模倣ぐらいでした」

「模倣か……十分だ。力を貸してもらうぞ!」

「喜んで。儀式結界陣形!」


 宮廷魔法師団は儀式魔法の準備に入った。

 仙姫の結界を研究し続けた末に開発した結界魔法。

 百人の宮廷魔導師で発動させる、仙姫の模倣。


「儀式結界魔法!! 仙威結界!!」


 連合軍の前面に巨大な三角形の結界が出来上がる。

 それが三層。

 さらにオリヒメは円形の結界を展開させる。

 その数は五層。


「その膨大な力、一個体には過ぎたるもの。維持するだけでも消耗するはず。無限ということはありえぬ。妾たちと消耗戦に付き合ってもらうぞ!!」


 オリヒメの言葉と同時に、アスモデウスの攻撃が放たれたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 聖剣に劣ってるの見て苦笑か、ノーネームも変わったな そういえばなんで吸血鬼の血混じってるんだろう 亜人商会の会長元気かな
[一言] 配下を吸収しての巨大化は古から伝統の負けフラグ。
[一言] 結界が保てるかはまだ分からないけど、最終的にはオリヒメ達の結界が破られ、危機に陥った時。 シルバーが左手をポケットに突っ込み、右手の指でパチンっと鳴らす。アスモデウスの背中に悪寒が走る。強力…
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