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第六百四十四話 二人の魔弓使い



 時は少し遡る。

 転送にて飛ばされたジャックは仙国の上空にいた。


「まじかよ……!」


 ノーネームの攻撃によって上半身だけになった悪魔、セイルは笑う。


「共に死ね!」

「てめぇだけ死んでろ!」


 空中でジャックは矢を放ち、上半身だけになったセイルを消滅させる。

 だが、落下は止まらない。

 どうやって落下を食い止めるか。

 ここがどこだかもわからない。

 街の近くだった場合、地面に攻撃して反動で勢いを殺すということはできない。

 かといって、落下は継続中。

 さっさと手を打たなければジャックといえど手遅れになりかねない。

 どうするか。

 そんな風に考えこんでいると、突然、ジャックは何かに引き込まれた。

 気づけば、ジャックは森の中にいた。


「おいおい……どうなってんだ?」

「悪魔との決戦というなら我々も手伝わなければいけまい」


 そう言ってジャックの前に立っていたのは竜人族の長老だった。

 ジャックは誰だ、このジジイといった表情を浮かべたが、助かったことは間違いない。

 だから。


「味方か?」

「そういうことになるな」

「助かった。それで悪いんだが、ここはどこだ?」

「人類の呼び方では仙国の領内だ」

「ちっ……あの野郎」


 王国からなるべく遠くに飛ばしたのだ。

 やってくれた。

 今から向かったとして、間に合うかどうか。

 そんなジャックに対して、竜人族の長老は告げる。


「戦況はどうだ? 冒険者」

「俺が飛ばされるまではそれなりに互角だったが……今はどうなってるかわからん」


 SS級が一人離脱した影響は大きい。

 まともに悪魔へ対抗できる戦力はごくわずかだ。

 連合軍が劣勢に陥ったことは予想できる。

 きっと誰もが必死になって、悪魔と戦っているだろう。

 ジャックの脳裏にミアの姿がよぎる。

 無茶をしてなきゃいいが。

 そんな心配をするジャックに対して、長老は告げる。


「我らは五百年前から隠れ住んでいる」

「ん? 五百年前?」

「我らの戦力では大して役には立つまい。だが、我らの技術は役立とう。この場に定住する前、我らは大陸中の森を渡り歩いた。森はすべて繋がっている」


 そう言って長老はジャックの後ろに出口を作った。

 そこから出ろということを察したジャックは、そちらへ歩いていく。


「冒険者……この大陸のことを任せてもよいだろうか?」

「ふん、そういうのはガラじゃないんだがな。まぁ、任せろ」


 言いながらジャックは手を振る。

 その姿にかつて共に戦った強者たちの姿が重なり、長老は懐かしい思いに駆られた。

 今も昔も。

 悪魔はタイミングが悪い。

 彼らは常に豊作の時代に攻め込んでくる。

 今回もまた、奇跡が起きるかもしれない。

 そんなことを思いながら長老はジャックを見送ったのだった。




■■■




 セイルのミスは仙国にジャックを転送したこと。

 より遠くに転送したせいで、ジャックは帰還の術を得てしまった。

 森を出たジャックは目を疑う。


「まじかよ……」


 そこは王都近くの森だった。

 大陸の端にいたはずが、気づけば反対側だ。

 驚きつつも、ジャックは走り出した。

 向かうは王都。

 今も決戦は行われている。

 急がねば。

 多少の焦りを抱えながらジャックはとにかく急いだ。

 そして、ジャックが戦場にたどり着いた時。

 そこには無数の亡骸が転がっていた。

 いまだに連合軍は健在。迫りくる悪魔に対して、文字通り肉の壁として立ち塞がっている。

 瞬時に戦況を把握したジャックは、前線のSS級冒険者たちに加勢するのではなく、連合軍の援護に回ることを決めた。

 そんなジャックの視界の先、一人の少女が悪魔と戦っていた。

 負傷した者たちが下がる時間を稼いでいるのだ。


「下がれ! 嬢ちゃん! もういい!」

「まだですわ!!」


 ミアはひたすら矢を放ち、悪魔の動きを牽制する。

 傍にいる者の中で、悪魔に対して有効打を与えられる者はいない。

 連合軍の役目は時間稼ぎ。

 ならば、負傷した者よりもミアが優先されるべきだ。

 悪魔を相手に時間稼ぎができるのはミアであり、負傷している者たちが復帰したところでできることは限られている。

 馬鹿なことを。

 そう思いながら、ジャックは走り出した。

 馬鹿すぎる。

 自分の娘とは思えない。

 わかっていても、見捨てられないからミアは負傷した者を下がらせようとしている。

 これほど命が軽い戦場はない。

 それでもその軽い命にこだわっている。

 見捨てるべきだ。

 少なくともジャックならば、そうする。

 今のミアでは一対一では悪魔に勝てない。ならば、ほかの強者と連携することが最上。

 負傷した者を下がらせるために無理をする必要はない。


「まったく……誰に似たんだか……!」


 言いながらジャックは弓を構えた。

 悪魔はミアの攻撃を受けながら、進んできている。

 攻撃を溜めて撃てていたうちは、動きを止められたが、近づいてくるとその溜めができなくなる。

 ミアの攻撃は通じなくなっていた。

 そして悪魔がミアの前にやってきた。


「ええいですわ!!」


 ミアは悪魔の攻撃を避けようとはしない。

 相打ち覚悟で自分の最大火力を放とうとしたのだ。

 だが、ミアの攻撃が放たれる瞬間。

 悪魔の上半身が吹き飛んだ。

 悪魔といえど、ジャックの攻撃を無防備で受ければ致命傷となる。

 それがわかっているから、セイルはジャックを遠くに飛ばした。

 しかし、ジャックは帰ってきた。


「魔弓使いなら足を使え。止まるな」


 残る下半身を消滅させながら、ジャックはミアに告げる。

 唖然としていたミアだったが、すぐに立ち直る。

 そして。


「弓神ですわね!? SS級冒険者の! 魔弓使い!」

「そうだが……」


 いきなりミアがジャックに近づいてきた。

 意外すぎる反応にジャックは戸惑った。

 だが、さらに戸惑う出来事が起きる。


「ファンですわ!!」

「お、おう……」


 どう反応していいかわからず、ジャックは頷くことしかできない。

 しかし、ミアはジャックの反応などお構いなしだった。


「わたくしも魔弓使いですわ! ミアと申しますの!」

「見ればわかる」

「えっ!? そうですの!?」


 変わった子だ。

 ジャックはミアの反応を見ながら苦笑する。

 自分が育てたら、とてもこうはならなかっただろう。

 周りに恵まれたのだろうと、思った。

 決めていたことがある。

 決して娘のことは否定しないと決めていた。

 どれだけ馬鹿だと思っても。

 どれだけ愚かだと思っても。

 今の娘を大事にしようと思っていた。

 だから、ジャックは告げる。


「動けるならついてこい。負傷した者が下がる時間を稼ぐぞ」

「は、はいですわ!!」

「よく見ておけ。真の魔弓使いの戦いってやつをな」


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― 新着の感想 ―
[一言] ミアはマリアンヌ亡命の時の薬の設定も知らないのかな? 頑張れパパ
[良い点] よーしパパ頑張っちゃうぞー
[良い点] 殺伐とした戦場の中でも、こんな神展開。 ほんまに泣かせてくれます。
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