第六百四十三話 サポート役
聖剣を第三段階まで解放したエルナと、フォース状態の俺。
およそ考えられる限り、最強のタッグ。
そんな俺たちを前にしてもアスモデウスは余裕だった。
「なるほど。多少は楽しめそうだ」
そう言ってアスモデウスは空に上がっていく。
俺たちもそれに続いて空へ上がった。
俺たちが戦うにはあそこは狭すぎる。
かなり上空まで来て、アスモデウスは止まる。
そして。
「ここなら問題あるまい。勢い余って配下を巻き込んではかなわんのでな」
「大した自信だな」
「自信ではなく、理解だ。自分の力への、な」
そう言ってアスモデウスはゆっくりと腕を俺たちに向けた。
そのまま黒い波動が放たれた。
まずいと判断し、俺は結界ではなく銀滅魔法による相殺を試みた。
≪シルヴァリー・ライトニング≫
銀雷が黒い波動と激突し、激しい押し合いが発生した。
しかし、それは少しの間だけ。
シルヴァリー・ライトニングのほうが押し負け始めた。
俺とエルナはその間にその波動から逃れる。
完全にシルヴァリー・ライトニングは飲み込まれ、黒い波動は遠くまで飛んでいく。
「余の権能について説明していなかったな。余の権能は〝破壊〟。余の放つ攻撃はすべて一撃必殺だと認識するといい」
でたらめな権能もあったもんだ。
今の波動は〝破壊の波動〟といったところか。
簡単な攻撃でも、フォース状態の銀滅魔法を上回る。
超攻撃型だ。
となると、やることはひとつ。
特に合図もなく、俺とエルナは同時にアスモデウスに突撃した。
権能が攻撃に特化しているということは、攻撃の隙を与えなければいい。
なにせ、こっちも攻撃には自信がある。
わざわざ奴の権能が活きる状況で戦う必要はない。
防戦一方にさせてやろう。
「行け、勇者」
「指図しないで!」
六つの銀色の魔力弾を俺は放ち、アスモデウスの動きを牽制する。
エルナはその間にアスモデウスに接近し、聖剣を振り下ろした。
さきほどのように片手で受け止めようとしたアスモデウスは、すぐにそれが悪手だと気づいた。
そして、破壊の権能によって聖剣を受け止める。
さきほどの俺と同じ。
剣を盾で受けるのではなく、剣を剣で受け止めた。
しかし、そこは聖剣の第三解放。
アスモデウスはさっさと張り合うのをやめて、エルナの攻撃を受け流した。
さきほどのアスモデウスの攻撃のように、聖剣の斬撃は遠くまで飛んでいく。
それを見て、アスモデウスは笑う。
「勇者のほうは多少やるな?」
「舐められてるわよ?」
「言わせておけ」
俺は無数の魔力弾を生み出す。
聖剣を持つエルナと組む以上、俺はサポート役だ。
エルナ以上の攻撃力を無理して出そうとするより、エルナの攻撃力を活かすほうが得策といえる。
それはエルナもわかっているんだろう。
何も言わず、前へ出た。
それに合わせて、俺は無数の魔力弾を動かす。
目的は攻撃じゃない。
アスモデウスの動きを制限すること。
とはいえ、銀滅特性を付与されている魔力弾だ。
アスモデウスといえど無視するわけにはいかない。
はずなのだが。
「ちょっと!?」
アスモデウスは魔力弾をそのまま食らいながら、エルナを迎え撃つ。
確かに当たっている。
しかし、意にも介さず、エルナと接近戦をし始めた。
エルナが本気で聖剣を使えないように、破壊の権能を宿した拳で動きを制限する。
鋭い攻撃によって、エルナは大振りができない。
その隙を作るべきなのは俺の役目だが、俺の攻撃がまったくもって効いていない。
エルナから無言の圧力を感じる。
働け、という圧力だ。
それに対して、俺はため息を吐く。
「どいつもこいつも……」
「ちっ! こいつ、意外に接近戦もやるわよ!?」
エルナが一旦距離を取った。
エルナが下がるということは、アスモデウスは接近戦でも超一流。
俺のサポートがなければしんどいと思っての行動だろう。
だから、エルナは俺の方を睨む。
なにかしろ、ということだろう。
そんな俺を見て、アスモデウスは笑う。
「その程度か?」
魔力弾を受けながら、アスモデウスは告げる。
雨か何かだと思っているんだろう。
防ぐ素振りすら見せない。
だが、突然。
これまで効いていなかった魔力弾の一つが、アスモデウスを大きく吹き飛ばした。
とはいえ、傷を負わせるほどじゃない。
だが、体勢は崩れた。
そんなアスモデウスに対して、俺は仮面ごしにニヤリと笑う。
「どうした? 自慢の防御はその程度か?」
魔力弾には強弱をつけていた。
今は力を込めた魔力弾。
威力に差はあるが、見た目は変わらない。
こいつなら防御もせず受け止めるだろうと思って、忍び込ませていた。
だが。
「ちょっと!? 不意打ちできるならさっきやりなさいよ!?」
「すまんな。あんなにあっさり下がるとは思わなくてな」
「言ったわねぇ……それならこれから下がらないでやるわよ! 援護しなさいよ!」
「こっちはやれることをやるだけだ。援護を信用するかどうかはそちらに任せよう」
エルナは俺の物言いに怒るが、それだけだ。
噛みついては来ない。
俺の攻撃が効かないから、援護に期待できない。
そうなるとまずい、という判断の下、エルナは下がった。
しかし、実際は俺にも援護の術があった。
エルナがシルバーとしての俺を信用さえすれば、成立していたコンビプレイだ。
「くっくっくっ……小賢しいな」
吹き飛ばされたアスモデウスはそう言って笑う。
アスモデウスからすれば体勢を崩されただけ。
傷すらついていないのだ。余裕が崩れるわけがない。
今のはただの不意打ち。
文字通り、小賢しい一手だ。
しかし、だ。
「悪いが、俺は賢いんだよ」
そう言って俺は魔力弾を動かす。
すると、アスモデウスの真下に魔法陣が浮かんだ。
魔力弾で描いた魔法陣だ。
≪シルヴァリー・ジャッジメント≫
銀色の閃光が空へ打ちあがり、その閃光がアスモデウスを飲み込んだ。
相手は強い。
常に先手を取らねば。
それはエルナの役割ではない。
俺の役割だ。




