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第六百三十八話 協力する悪魔


 エゴールやリナレスが側近たちと互角の戦いをしている中。

 ジャックとノーネームは共闘を余儀なくされていた。


「おい! 合わせろ!」

「そっちが合わせなさい」


 二人は言い争いをしながら、二人の悪魔と戦っていた。

 一人は小柄の少年を依代とした悪魔、バルバトス。

 もう一人は美青年を依代とした悪魔、セイル。

 悪魔にしては珍しく、この二体は協力して行動していた。


「はっはっはっ!! 仲が悪くなってきたね!」

「君たちに勝ち目はないよ」


 無邪気に笑うバルバトスに、冷徹に告げるセイル。

 攻略の糸口はジャックでも見つけられていなかった。

 それほど、二人の権能の合わせ技は凶悪だったのだ。


「ジャック、あなたがあの狩人を黙らせてくれれば、私がどうにかします」

「やれるならやってるっての!」


 言いながらジャックはバルバトスに対して矢を放つ。

 相当本気の矢だ。

 避けるのも迎撃するのも大変だろう。

 だが、バルバトスは同じく矢を放って迎撃した。


「ちっ! プライドが傷つくぜ!」


 同じ弓使い。

 弓に関しては誰にも負けない自信があったのだが、そんなジャックのプライドをバルバトスは砕く。

 ジャックからみても大した腕だった。


「弓神の名が泣きますよ?」

「泣かせとけ! そんな名前は! 来るぞ!」


 ジャックと同等の弓使い。

 それだけでも厄介なのに、バルバトスには権能があった。

 それは〝必中〟。

 バルバトスの攻撃を避けることは不可能。

 迎撃するしかない。

 だが、そこにセイルの権能が加わる。


「次はどこから来るかな?」


 セイルはそう言って、指を振る。

 バルバトスが放った矢が空間に空いた穴に飲み込まれた。

 一瞬の後、ジャックは背後に矢を放った。

 すると、そこにはさきほどバルバトスが放った矢があった。

 セイルの権能は〝転送〟。

 必中の矢が転送されてくる。

 その厄介さから、ジャックとノーネームは共闘せざるをえなかった。

 だが。


「面倒ですね。私が二人を斬ります。どうにか足を止めてください」

「近づいたら逃げるんだから、無理に決まってんだろ! ちょっとは頭を使え!」

「じゃあ、どうしろと?」


 ノーネームが接近すると、二体はさっさと転送で距離を取ってしまう。

 そして大量の矢が降り注ぐ。

 それがさきほどまでのパターンだ。

 何か工夫しなければ勝ち目はない。


「さっさと片付けなければいけないんです。案があるならさっさと出してください」


 言いながらノーネームはチラリと連合軍の方を見た。

 悪魔たちが連合軍を押していた。

 どうにか、その援護に向かいたい。

 その気持ちがノーネームにはあった。


「自分の名前を取り戻させてくれた皇帝を助けたい気持ちはわかるが……今は目の前に集中しろ」

「人のことを言えますか? 気づかないと思ったのですか? チラチラと冒険者のほうばかりを見ていますよね?」


 痛いところを突かれて、ジャックは顔をしかめる。

 なかなか集中しきれてないのはジャックも同じだった。

 だから、ジャックは深く息を吐いた。

 相手は悪魔。

 しかも厄介な組み合わせだ。

 集中し、頭を冴えさせなければ勝ち目はない。


「さっさと終わらせる。手を貸せ、ノーネーム」

「あなたの案の出来具合によります」

「人に考えさせてばかりのくせに、偉そうだな?」

「適材適所というやつです」


 さっさと案を出せと促すノーネームに対して、ジャックは不敵な笑みを浮かべた。

 そして。


「狩りでいこう。お前は猟犬だ」

「……」

「嫌そうだな。顔を見なくてもわかるぞ」


 仮面に隠されているが、どう考えても嫌そうだった。

 だが。


「失敗したら斬りますよ?」

「望むところだ。それじゃあ、俺の指示通り動け」


 


■■■




「左だ!」


 前衛はノーネーム。後衛はジャック。

 その状態で二人は攻勢に出た。

 ジャックの指示を聞き、ノーネームが一気に突っ込む。

 そこにはセイルとバルバトスがいた。

 しかし、二人は馬鹿にしたように笑いを浮かべながら、さっさと転送で逃げていく。

 さきほどからそればかり。

 さらに、土産とばかりに矢がノーネームを襲う。

 一本を剣で弾き、もう一本は裏拳で弾き飛ばす。

 ビリビリと手がしびれるのを感じながら、ノーネームはジャックを睨む。

 だが。


「右から突っ込め!」

「簡単に言ってくれますね!」


 ノーネームは仕方なく、ジャックに言われたとおりに突っ込む。

 とはいえ、起きる事象はさきほどと変わらない。

 突っ込むノーネームに対して、転送で逃げる二人。

 そして矢がノーネームを襲う。

 それを弾きながら、ノーネームは苛立ちを募らせていた。

 それでも耐える。

 一度任せた以上、最後まで任せる。

 これも何か意味があることなのだろうと思い、ノーネームは次の指示を待つ。

 だが、その間にジャックはあらぬ方向に矢を放っていた。

 その行動に思わず、叫びそうになるが、何とか堪える。


「ジャック、私は真面目にやっているんですが……?」

「俺だって真面目だ。次は上から攻撃だ!」


 心の中で葛藤しながらも、ノーネームは指示に従う。

 その様子を二体の悪魔は笑う。

 自分は何をしているのだろうかと思うが……それでもノーネームは自分の役目と割り切り、ジャックの指示に従い続けた。

 どれだけ笑われようと、執拗に悪魔たちを追い続けた。

 そして。


「馬鹿の相手は疲れるなぁ」

「そう言うな、バルバトス。付き合ってやれ」


 軽口をたたく二人を見て、ジャックはニヤリと笑った。

 ようやく望む場所に出現したからだ。


「魔弓奥義……魔天光矢ノ檻」


 ジャックがあらぬ方向に放っていた矢。

 それらはすべてその場に現れた時のために放った矢だった。

 本来、矢は放ったら終わりだ。

 弓使いにコントロールはできない。

 けれど、先ほどジャックが放った矢は違う。 

 地面に刺さっていた矢はいきなり空に浮かび、さらに上空で止まっていた矢が降下してくる。

 出来上がったのは矢の檻。

 四方八方、すべてが矢だ。

 逃げ場はない。

 だからセイルは転送で逃げることを考えた。

 しかし、ジャックの放った矢がそれを許さない。

 檻以外にもジャックは矢を放っていた。

 それは正確にセイルを狙っていた。

 避けざるをえない。

 だから避けた。

 そのせいで、セイルとバルバトスの間に距離ができてしまった。


「組んで戦う悪魔なんて珍しいと思ったが……大して強くない権能を補うためなら納得だ」


 常にセイルとバルバトスは同時に転送で逃げていた。

 そのたびにバルバトスはセイルに触れていた。

 だからジャックは一つの仮説を立てた。

 セイルの転送は何でも転送できるが、一度に複数は無理なのではないか、と。

 だから別々に転送できない。

 逃げる瞬間。

 分断できればそれを証明できる。

 そして、セイルの焦った顔がジャックの仮説が正しいことを証明していた。

 矢の檻はもう完成している。

 もはや転送以外の逃げ道はない。


「自分でなんとかしろ! バルバトス!」


 そう言ってセイルは自分だけ転送で別の場所に移った。

 矢の檻の中に残されたのはバルバトスだけ。


「ちっ! 勝手なことを!!」


 バルバトスは文句を言いながら、神技を見せた。

 自分を囲む矢に対して、同じ数の矢を放ったのだ。

 必中の権能により、そのすべてが当たる。


「ざまぁみろ! これで打つ手はなくなったぞ!」

「そっくりそのままお返しするぜ」


 勝ち誇るバルバトスに対して、ジャックは告げる。

 そんなバルバトスの懐。

 そこにノーネームが潜り込んでいた。


「やっと捕まえました」

「まっ……!?」

「待ちません。冥神よ、我が声を聴け――汝は冥府の宝剣・影を纏いてすべてを滅する・汝の主が今、冥滅を望む!」


 黒い影が冥神を包み込む。


「冥影集斬!!」


 黒い影の奔流が放たれ、バルバトスを飲み込んだのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 共闘よきよき。 [一言] 近接バトルものでよくあるけど、やっと懐に飛び込んだのに、長ったらしい技名や武器解放? の口上言うのってテンポ悪いと思う。
[一言] セイルの転送って、シルバーの転移魔法に劣ってる。ジャックが一度に複数のものを転送出来ないとわかったのも、シルバーの転移魔法を知ってるからかな?
[気になる点] そういえばS級賞金首のサムとディーンを差し向けたのってアスモデウスでいいの?それとも大公? 些細な事かもしれないけど伏線は回収されるのかな
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