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第六百三十六話 二人の聖剣使い


「我は悪魔の」

「うるさいわよ!」


 アスモデウスの側近たちをSS級冒険者たちが相手をしている間、エルナは複数の悪魔を相手にしていた。

 今も聖剣の一撃で悪魔を吹き飛ばした。

 しかし。


「挨拶中に攻撃するなんて、なんて奴だ……」

「ちっ……!!」


 思わずエルナは舌打ちをする。

 シルバーの一撃を生き残った悪魔たちは、これまでの悪魔とはわけが違う。

 ほかの悪魔の相手もあるため、今の聖剣の一撃は本気ではない。

 けれど、今までの悪魔なら問題なく倒せていたはずだ。

 それを悪魔は防ぐ。

 そのレベルの悪魔が複数。

 一対一なら問題なく勝てる。

 だが、複数となると面倒だ。

 どうにか数を減らそうにも、敵のレベルが高いせいで数を減らせない。


「このっ!」


 次々に悪魔が襲い掛かってくる。

 聖剣を持つ者が一番危険だと悪魔たちはわかっているからだ。

 エルナの援護に入れるSS級冒険者も、側近たちに手を焼いている。

 ここは独力で乗り切るしかない。

 そうエルナが決意を新たにしたとき。

 エルナの背後から迫っていた悪魔が吹き飛ばされた。


「悪魔にも人気とは。我が娘ながら大したものだね。エルナ」

「お父様!?」


 現れたのはエルナの父、テオバルト・フォン・アムスベルグ勇爵だった。

 二人は背を預け、周りに展開する悪魔と対峙する。


「皇帝陛下は大丈夫なのですか?」

「近衛騎士団がなんとかするはずだよ。駄目ならあとで向かう。今は君の手助けの方が大事だ」

「気をつけろ! こいつも勇者だ!」


 悪魔たちは距離を取る。

 エルナとテオバルトの実力はさほど離れていない。

 どちらも聖剣を使えるうえに、圧倒的な地力も併せ持っている。

 そんな二人に悪魔たちは安易に突っ込んだりはしない。

 強いとわかっているから数に頼っているのだ。


「一斉に攻撃しろ!」


 一人の合図で複数の悪魔が一斉に権能を発動する。

 それに対して、エルナとテオバルトは二手に分かれた。

 防ぐこともできたが、とにかく囲みを崩すのが先決だった。

 だが、悪魔たちはエルナの囲みを崩す気はなかった。

 自由にさせるわけにはいかない。

 テオバルトには目もくれず、エルナの動きを止めにかかる。

 しかし、それが間違いだった。

 クスリとテオバルトは笑う。


「あまり娘ばかりに構わないでほしいな。妬けてしまうよ」


 そう言ってテオバルトは手を空に掲げる。

 そして。


「我が声を聴き、降臨せよ! 煌々たる星の剣! 勇者が今、汝を必要としている!!」


 聖剣召喚の口上。

 それを聞き、悪魔たちは後ろを振り返る。

 エルナの手にあったはずの聖剣はテオバルトの手にあった。

 聖剣は勇者としてふさわしい者の手に召喚される。

 では、聖剣を召喚できる者が二人なら?

 もちろん、比較して勇者に近い者に召喚される。

 だが、保持している者が聖剣を手放すことを承認したならば。

 聖剣は別の者の手に渡るのだ。

 必要とする者の手に渡るのが聖剣だからだ。


 エルナを包囲していた悪魔たちは、その初見殺しのような戦術に戦慄し、一斉に散開しようとする。

 だが、テオバルトのほうが早い。


「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 上段から振り下ろされた聖剣から、光の奔流が放たれた。

 それは数人の悪魔を飲み込む。

 人間を依代にしているとはいえ、悪魔の耐久力は人間を超越している。

 しかし、光の奔流に飲み込まれたら耐久力など関係ない。

 消滅させられるだけだ。

 その過剰すぎる攻撃力は、悪魔から見ても理不尽だった。

 ゆえに。


「奴を囲め! 好きに動かすな!」


 本気で攻撃できないようにする。

 それが悪魔側の回答だ。

 それでエルナは苦しめられた。

 たしかに、それは有効だった。

 けれど、すでに囲みは解けてしまった。

 それにそもそも、二人を閉じ込めるのは不可能。

 テオバルトの下に悪魔は殺到する。

 だが、テオバルトの手にあった聖剣はすでになかった。

 悪魔が振り返った時。

 そこには聖剣を手にしたエルナの姿があった。


「鬱陶しいのよ! あんたたち!!」


 言葉と同時にエルナは聖剣を振り下ろす。

 再度、光の奔流が放たれ、悪魔たちを飲み込んだ。

 聖剣のスイッチ。

 その事実に悪魔たちは顔をしかめる。

 対策のしようがないからだ。

 しかし、そんな悪魔たちに指示が入った。


「同胞たちよ!! 狙うべき相手は決まった!! 我らは帝国皇帝を狙う!! その首、余の下へ!」


 アスモデウスの言葉を受けて、エルナとテオバルトの周りにいた悪魔たちは一斉に連合軍側へ飛んでいった。

 連合軍はオリヒメの結界に助けられ、偽人兵と戦っていた。

 だが、そんな連合軍に悪魔たちが襲い掛かる。

 様々な権能が一斉にオリヒメの結界を襲う。

 さすがのオリヒメの結界でも、連合軍全体を覆う広大な結界では、悪魔の権能を防げなかった。

 ガラスが割れたような音と共に結界が砕け散る。

 同時に悪魔たちが連合軍に殺到した。

 そんな悪魔たちの一人、ブネは自らの権能を使って、無数の兵士を召喚した。

 兵士の正体は悪霊。

 それが連合軍に襲い掛かる。

 結界の中で安全に戦えていた連合軍は、結界が破られたこと、そしていきなり無数の悪霊が召喚されたことで、恐慌状態に陥った。

 しかし、そんな連合軍の前線に白いマントを羽織った騎士たちが出撃してきた。


「帝国の……近衛騎士隊長たちだ!!」

「近衛騎士団が前に出てきたぞ!!」


 狙いは皇帝。

 わかっているからこそ、近衛騎士隊長たちは前に出てきた。

 連合軍が敗走したら、それこそ皇帝の身が危うい。

 ここで戦線を維持する必要があった。

 さらに、戦線には冒険者たちも加わる。


「押し返せ!! 皇帝を守るぞ!!」


 クライドたち高ランクの冒険者たちが、戦線に加わる。

 結界の外で、数人がかりで悪魔と対峙していたクライドたちだが、その悪魔たちが皇帝を狙いに向かったため、連合軍の戦線に加わったのだ。

 こうして、精鋭たちが悪魔を抑えるという構図から、皇帝を守りながらの総力戦へと戦況は変化したのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 名乗り途中に攻撃とか、悪役でも中々やらないのにあっさりスルーして攻撃仕掛ける勇者(笑)
[気になる点] ジークとSS冒険者のリナレスの話からいきなりエルナ(聖剣使い)の話になったのに違和感を感じました。 もちろん面白いのですが、私としては残りの3人のSS冒険者の話の次に来ると思ってたし…
[一言] 近衛騎士団は汚名返上できるといいですね
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