第六百三十三話 五人のSS級冒険者
アナクレトの帆船。
冒険者ギルド秘蔵の空飛ぶ帆船は、そう呼ばれている。
アナクレトが発見し、封印した帆船だからそう呼ばれている。
そのアナクレトの帆船はいくつもの魔導砲を装備しており、空を舞う偽人兵たちをそれで打ち落としていく。
そのまま、ゆっくりと高度を下げる。
そして。
「行くぞ! 続け!!」
ギルド長であるクライドを先頭にして、高ランクの冒険者たちが続々と帆船を降りた。
それを見ていたジャックは告げる。
「おい! ギルド長!」
「遅れてすまんな! そう怒るな!」
「遅れたことに怒ってんじゃねぇ!!」
ジャックはチラリと降りてきた冒険者たちに混じる少女を見る。
どうして、ここに。
そう思いつつも、理解はできた。
藩国として派遣できる戦力は少女、ミアだけだ。
だから。
「どうした?」
「なんでもねぇよ! 引退したおっさんは下がってろ!」
そう言ってジャックは一歩前に出た。
それを見ていたアスモデウスは表情を変えずに告げる。
「これで勢ぞろいか? 人類側の戦力は」
「あいにく、まだ来てない奴がいるんだ。待ってくれるか?」
「待ってほしいなら待ってやろう。たとえ何が来ようと我々の有利は揺るがない。もとより余一人でも貴様らの相手はできる。それに加え、余の配下はまだまだいる。貴様らに我々悪魔と戦える精鋭がどれほどいる? 五百年前のような奇跡は決して起こらない」
そうアスモデウスは断言した。
ジャックはそれを聞き、舌打ちをする。
実際、王太子の姿をした悪魔、アスモデウスの力はジャックから見ても未知数だった。
しかも、勝てるかどうか怪しいと思う悪魔は、アスモデウスだけではない。
傍に控える悪魔たちも強力だ。
今、動いているのは悪魔にとっては雑兵。
しかし、人類側はそれに対して精鋭たちを当てる必要がある。
頭数が足りない。
数は人類の方が多い。しかし、戦力に数えることができる者は少ない。
それをアスモデウスは指摘しているのだ。
悪魔の数は百を超える。
しかし、確実に対抗可能な人類側の戦力は数えられるほど。
「舐めてくれるわねぇ……」
ふつふつとエルナが闘志を燃やす。
それに周りも同調する。
「五百年前も人類側の戦力を過小評価して負けたというのに、学ばない生き物ですね。悪魔は」
「仕方あるまい。自分たちは完璧と思っておるでな。変わらんよ、それは」
「やだやだ。今の自分に満足するなんて、信じられないわ」
ノーネーム、エゴール、リナレスがそれぞれうんざりした様子で話すが、アスモデウスは気にした様子もない。
それどころか余裕の笑みすら浮かべている。
「強がりはよせ。貴様らは確かに強いが……貴様らだけでは戦況は変わらん。奇跡は起こらん、諦めよ」
余裕を含んだアスモデウスの言葉に誰もが言い返そうとした時。
声が飛んできた。
「奇跡は起こすものだ。五百年前も起きたのではない……起こしたのだ。奇跡は常に必然だ。その第一条件は諦めないこと。ゆえに……我々が諦めることを諦めよ」
巨大な転移門。
それが連合軍の中央にできた。
そこから黒い長剣を持った皇帝ヨハネスが現れた。
そのあとには白いマントを羽織った近衛騎士隊長たちが続く。
「帝国皇帝と近衛騎士隊長たち……」
呟いたのは大公ストラス。
大陸の勢力を正確に把握しているストラスにとって、それはある種、もっとも脅威となる存在の出現だった。
「お気をつけください。アードラーの一族は不可思議な道具をいくつも持っています」
「たとえそうだとして。所詮は悪あがきだ」
アスモデウスには絶対の自信があった。
最終的に自分一人いれば事足りる。
その自信があるから何があっても動じない。
「勇者の末裔が一人から二人になったところで、どうだというのだ? 五百年前、魔王を倒した勇者はもはやいない」
皇帝と共にやってきた勇爵を見ながら、アスモデウスは笑う。
五百年前のことは幾度も聞いた。
負けるはずのない戦いだった。
しかし、勇者という誤算のせいで敗北した。
魔王に対抗できる存在がいたから、悪魔は負けたのだ。
だが、ざっとみてもアスモデウスの脅威となりそうなのは現在、聖剣を持っている当代の勇者のみ。
それですら負けはないと断言できる。
過信ではない。
これは余裕なのだ。
だが。
突然、その余裕が崩れる事態が起きた。
「アスモデウス様!!」
空が銀色に輝いた。
そして無数の魔導具が降ってきた。
銀色の光を纏って。
悪魔たちはそれを防ごうとするが、魔導具は悪魔の防御に触れた瞬間、銀光を放ちながら爆発する。
一瞬で、悪魔たちがいた王都の城壁が消し飛んだ。
爆発は絶えず続く。
無数に降り注ぐ銀色の魔導具たちは、まるで流星のように降り注ぎ、爆発して、銀色の光をまき散らしていく。
そしてそれが止んだ時。
二十人以上の悪魔が姿を消していた。
そんな悪魔たちに空から降りてきた銀色の魔導師は告げる。
「どうした? 自慢の戦力が減ってしまったようだが?」
アスモデウスには傷一つない。
しかし、戦力はたしかに一撃で大きく削られた。
その一撃を見て、アスモデウスはフッと笑った。
「我が名は……アスモデウス。名を名乗る栄誉を授けよう」
その問いかけに対して、銀色の魔導師は答えた。
「ならば、その栄誉に与ろう。ただ、俺だけではいささか荷が重い。ここは我々五人の名を聞いておけ」
銀色の魔導師の言葉に応じて、五人が一歩前に出た。
「冒険者ギルド王国支部所属SS級冒険者――ジャック」
「冒険者ギルド皇国支部所属SS級冒険者――ノーネーム」
「冒険者ギルド本部所属SS級冒険者――リナレス」
「冒険者ギルド本部所属SS級冒険者――エゴール」
最後の名乗り。
アスモデウスには銀色の魔導師が仮面の向こうでどんな顔をしているか、想像がついた。
ニヤリと笑っているのだろう。
不敵な笑みだ。
「冒険者ギルド帝都支部所属SS級冒険者――シルバー」
名乗りのあと。
五人が口をそろえた。
「「「「「貴様らを討伐しにきた」」」」」




