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第六百三十二話 集合の仕方


 時間は少し遡る。


 アスモデウスが手を振ると、数人の悪魔が城壁から飛び立つ。

 だが、それをエルナが制した。

 悪魔たちはエルナの迎撃を受け、城壁へと戻る。


「させないわよ!」


 最初に動いた悪魔の狙いは、後方に下がった連合軍。

 行かせるわけにはいかなかった。

 悪魔を複数相手にして、平然としているエルナを見て、悪魔たちの顔つきが変わる。

 勇者の末裔の実力を再認識したのだ。

 だが、敵はエルナだけではなかった。


「乾坤一擲――天を駆け、雨となり大地に還れ! 魔弓奥義……集束拡散光天雨!!」


 ジャックの放った矢が空から降り注ぐ。

 悪魔たちはそれに対して、それぞれ対応を取った。

 アスモデウスは避けるまでもなく防ぎ、周りに控える側近たちも同様だった。

 しかし、全員が防いだわけではない。

 防ぎきれないと察して避ける者もいた。

 それを見て、ジャックは呟く。


「悪魔にも格があるみてぇだな」


 王太子リュシアンの姿をした悪魔は、ジャックから見ても別格だった。

 しかし、今の攻撃を避ける程度の悪魔ならどうにかなる。

 とにかく今は数を減らさなければいけない。

 そうジャックが判断した時。


「放てぇぇぇ!!」


 連合軍から無数の矢と魔法が飛んだ。

 王太子が悪魔に乗っ取られた以上、王都への被害を考える必要はなくなった。

 王都の民が無事であるわけがないからだ。

 ゆえにレオは全軍による遠距離攻撃を敢行した。

 効果があるとは思っていない。

 だが、悪魔といえどこれだけの物量は煩わしいはず。

 連合軍内でもトップクラスの実力者であるレオですら、城壁に立っている悪魔たちに勝てる気がしなかった。

 つまり、連合軍の多くは役に立たないというわけだ。

 それでも何もしないわけにはいかなかった。

 せめて、時間くらいは稼がなければ。

 だが。


「ストラス大公」

「はっ」


 降り注ぐ矢や魔法。

 それらをアスモデウスが防ぐことはしない。

 通じないからだ。

 とはいえ、アスモデウスが不快にならないように側近たちが防御していた。

 そうしていると、側近たちの手が煩わされる。

 だからアスモデウスはストラスに命じた。


「邪魔だ」

「かしこまりました」


 そういうとストラスは影から偽人兵を出現させ、連合軍に突撃させた。

 連合軍は撃退しようとするが、その偽人兵は今までとは一味違った。


「不採用個体も使い様だな」

「はっ。今、出現させたのは惜しくも適合しなかった個体です。ほかの個体よりは優秀です」


 偽人兵や偽獣兵。

 それらは魔奥公団がクリューガーを利用して、性能実験した試験薬をさらに発展させた薬で人や亜人を変貌させたものだ。

 亜人種の成分から薬はできており、人に投与すれば亜人のような特徴を発揮し、亜人に投与すればより獣へと変貌する。

 だが、それはすべて建前。

 すべては悪魔の依代を探すためだった。

 悪魔の依代は生きていても、死んでいても構わない。ただ、悪魔の強さに耐えられる強さが必要なだけだ。

 それを探すのは一苦労だった。

 片っ端から召喚するわけにもいかない。

 召喚にもエネルギーを使うからだ。

 いくら悪魔といえど、乱発は難しい。

 だから厳選が必要だった。

 そのために薬は開発された。

 偽人兵や偽獣兵に変貌した者たちは、不採用個体。

 依代には適さなかった。

 変貌しなかった者だけが悪魔の依代としてふさわしく、そのためだけにストラスは無数の偽人兵たちを生み出した。

 兵力として期待したわけではない。

 意外に兵力として使えたから、兵力として用いただけ。

 廃物利用のようなものだった。

 今、ストラスが連合軍に向かわせたのは、一時は変貌しなかった者たちだ。

 最終的には薬に負けて変貌したが、最初から耐えることができなかった者よりも随分と強い

 しかし。


「あれだけでは苦戦しそうだな」


 アスモデウスは連合軍のことを良く見ていた。

 声を張り、奮戦する男がいた。

 黒い髪の男。


「噂のアードラーか」


 アスモデウスは五百年前の大戦には参加していない。

 方針の不一致で魔王に付き従わなかったからだ。

 だが、頑強に抵抗する帝国の皇族の話は聞いていた。

 ああいう輩はさっさと潰してしまうに限る。


「何人か、あの男の首を持ってくるがよい」


 アスモデウスの言葉を受けて、三人の悪魔が城壁から飛び立った。

 エルナとジャックがそれを阻止しようとするが、ほかの悪魔に阻まれる。

 とにかく二人だけで食い止められる数ではなかった。

 矢と魔法はたえず放たれている。

 悪魔たちは空から接近し、その攻撃を回避しながらレオに狙いを定めた。


「その首……もらったぁぁぁぁ!!」


 三人の同時攻撃。

 三種類の攻撃がレオに向かう。

 気づいた時には遅かった。

 通常より強力な偽人兵の相手をしていたレオは、完全に回避のタイミングを逃していた。

 咄嗟に受けようとするが、攻撃が強力すぎる。

 まずい。

 そうレオが思った時。

 結界が出現した。

 レオと悪魔たちを遮るように一枚の壁が生み出され、それは悪魔たちの攻撃を傷一つなく受けきった。


「それで全力か? 手加減は不要であるぞ? 妾の結界は特注品ゆえ、な」


 言葉と同時に今度は巨大な結界が連合軍全体を覆っていく。

 その結界に偽人兵も弾かれる。

 外敵の侵入を許さないセーフゾーンがそこに出来上がった。


「仙姫オリヒメ。ただいま参上である!!」


 連合軍の空。

 結界を張り、空に立ちながらオリヒメは告げた。

 それに対して、三人の悪魔たちは標的を変えた。

 結界の主を排除しようとしたのだ。

 しかし、それは叶わない。

 黒い光の奔流が三人のうち、二人を飲み込んだからだ。


「なんだ!?」

「あまり一人で先行されると困ります。仙姫様」

「うむ! すまぬ! ノーネーム!」


 皇国を転移で発ったオリヒメたちは、王都近くに転移することに成功した。

 そこからオリヒメは一人で王都に向かってしまったのだ。

 結界で道を作り、好きなように走っていけるオリヒメは速い。

 ついてこれたのはノーネームだけだった。

 呆れたようにため息を吐きつつ、ノーネームは残る一人を始末しようと冥神を構える。

 だが。


「おや? ノーネームの獲物じゃったか?」


 最後の一人。

 その背後に立っていたドワーフの老人、エゴールが告げる。

 冥神を構えていたノーネームは苦笑しながら、そのドワーフの老人の隣に立った。

 すでに最後の一人は眼中にはない。


「いえ、エゴール翁に差し上げましょう」

「悪いのぉ」


 言葉の後、悪魔が細切れになった。

 すでに斬ったあとゆえ、二人は相手にしなかったのだ。


「ずいぶんと悠長な到着だな? ジジイにノーネーム」

「立地の問題です。皇国の転移を褒めてほしいくらいですね」

「そうじゃ。儂なんか走ってきたんじゃぞ!」


 エゴールの言葉を聞き、ジャックは微妙な表情を浮かべる。

 しかし、悪魔の攻撃は続く。

 やられた三人に舌打ちをしつつ、一人の悪魔が城壁を飛び立った。


「使えない奴らだ! 私が相手をしてやろう!!」


 そう言って城壁を飛び立った悪魔は攻撃を仕掛けようとするが。

 それもやはり、叶わない。

 王都には川から水を引く巨大な水路がある。

 その水路が爆ぜた。

 そして。


「仲間に使えないなんて……美意識に欠けるわね」


 一撃。

 炸裂した突きにより、その悪魔は彼方まで吹き飛ばされた。

 そして水路から現れたリナレスは、エゴールたちの傍に降り立った。


「お待たせしたかしら?」

「待つには待ったが……なんで水路から来てんだ?」

「泳いできたからよ。海から」


 ジャックは頭痛を感じて、頭を抑える。

 そして。


「ノーネーム。俺は皇国の魔法技術の進歩を褒めるべきか? それともこの脳筋どもと大差ないことを貶すべきか?」

「比較というのは同じ土俵ですべきです。特例を持ち出して、貶めるのはいかがなものでしょうね?」


 それもそうか、とジャックが納得し、呆れていると、空から轟音と共に帆船が飛んできた。

 それを見て、ジャックは頬を引きつらせる。


「どいつもこいつも普通の方法で来れねぇのか?」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 悪魔の依代は生きていても、死んでいても構わない。 ということは…?
[一言] あれ?シルバーの魔法は??
[一言] ジャックが頭が痛くなるのがよく分かりますwwまともな方法で来てほしいw
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