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第六百二十六話 悪魔の一報


「集中力を切らすな!!」


 偽人兵に偽獣兵。

 その二つを相手にしながらも、連合軍は奮戦した。

 そしてほとんどの偽獣兵が討たれ、空を飛ぶ偽人兵も数を減らしてきた。

 連合軍の副将を任されたアンセムは、部下を鼓舞しながら、そろそろ王都攻めに移ることを考えていた。

 王都には不可思議な結界が張られている。

 接近は不可能。

 それならば魔導師による魔法攻撃しかない。

 一発一発は大したことはないにしろ、連合軍に所属している魔導師による総攻撃ならば、それなりの威力が見込める。


「早く出て来い、リュシアン……!!」


 アンセムには焦りがあった。

 生まれ育った王都の中がどうなっているかわからなかったからだ。

 あの結界が外敵を阻むのはわかった。では、内側からは出られるのか?

 あの結界があるから、王都の民は外に出られないのか?

 それとも……。


「そこまでは堕ちていないと願っているぞ……」


 明晰な頭脳を持つアンセムには、王都全滅の可能性が高いことがわかっていた。

 それでも信じきれなかった。

 どれほど愚かでも、ありえない。

 王のお膝元である王都を壊滅させる王など、王ではない。

 アンセムから見たリュシアンは王に拘る男だった。

 王都すら壊滅させて、各地の民をモンスターに変えて。

 それで王を名乗ったところで何になる?

 支配するべき領土のない王など、張りぼてだ。

 リュシアンが拘ったのはあくまで王国の王だ。


「魔導師部隊! 前へ! 歩兵部隊は魔導師部隊を守れ! 王都への攻撃を開始する!」


 アンセムはレオの指示を待たず、一足早く王都への攻撃を決めた。

 もちろん、アンセムが担当する場所が敵からの圧力が薄いから、という指揮官としての妥当な判断が根拠だ。

 そのうちレオも攻撃を開始する。

 その読みがアンセムにはあった。

 だが、同時に王国の王子として早く王都の様子が知りたかった。

 早く王都の結界を破らなければ、という焦りがアンセムにはあったのだ。

 理由はエルナだ。

 結界が壊せない場合、レオはエルナに聖剣を使わせる。その権限がレオにはあった。

 よほどのことがなければ使わないが、王都の結界を突破できないとなればレオは奥の手を使うことになる。

 そうなれば。

 王都の民にも被害が出る。

 王都に守るべき民がいないとして動くことは、アンセムの王子としての矜持が許さなかった。

 この目で確認するまでは決してあきらめない。

 その覚悟がアンセムにはあった。


「奮い立て、王国の勇士たちよ!! 我らの手により、王都の民を解放するぞ!!」


 アンセムは号令をかける。

 士気の高まった王国軍より無数の魔法が放たれた。

 しかし、その魔法はことごとく迎撃された。

 城壁に立つ一人の人物によって。


「マゼラン!!」


 長身だが、ガリガリであり、見るからに貴族という風貌の男。

 年は三十代前半。

 王太子の側近として、王太子の意向で動いていた男。

 グラシアン・ド・マゼラン伯爵がそこにはいた。

 だが、アンセムの記憶が確かならば、マゼランには武芸の心得はない。

 魔法を使うということも聞いたことはない。

 あれほどの数の魔法を迎撃するなど、不可能なはずだ。


「あなたは困った方だ、アンセム王子殿下。あっさり王国を裏切るとは」

「裏切ったのは貴様らのほうだ!! 守るべき民を犠牲にして、何が王だ! 何が国だ!」


 城壁の上から声が届く。

 怒号が飛び交う戦場で声が届くのは、何らかの魔法を使っているから。

 こちらの声も届くだろうと踏んで、アンセムは言い返す。

 それに対してマゼランは笑う。


「それは失礼。我々には〝虫〟と大差ないので」

「虫だと……?」


 アンセムの顔に憎悪が浮かぶ。

 今、マゼランは民を虫と大差ないと言った。

 守るべき民。その民のために兵士たちは命を投げうった。

 彼らだって死にたくはなかった。

 それでも守るべき民のため、自分たちの大切な者のために命を捨てたのだ。

 それを後ろで暢気に見ていただけの者が、虫と表現した。


「貴様は……一体何者だ?」


 前から気に入らないと思っていた。

 けれど、ここまで人間からかけ離れてはいなかった。

 今のマゼランはどこか様子がおかしい。

 まるで〝中身が違う〟ようだ。

 それゆえの質問。

 それに対してマゼランは応じた。


「ある程度、予想がついているのでは? アンセム」

「……悪魔どもめ。必ず討伐してやる」

「無理なことは言うものじゃない。貴様ら人間には不可能だ」


 そう言ってマゼランは右手を軽く振るう。

 すると、真っ黒な巨鳥がマゼランの前に出現する。

 それは一気にアンセムへと向かっていく。

 明らかに普通の鳥ではない。

 危険を感じ、アンセムはそれを避けようとするが、それは叶わない。

 咄嗟に側近たちがアンセムの前に出て、盾となろうとするが、そんなもので防げる攻撃ではなかった。

 しかし、犠牲者は出なかった。

 その鳥が一刀両断されたからだ。


「無事かしら? アンセム王子」

「ああ……助かったぞ。エルナ・フォン・アムスベルグ」

「感謝は不要よ。私は奴らの相手をするために、この場にいるのだから」


 そう言うとエルナはスッと空へ上がる。

 それに合わせて、マゼランも城壁から浮かびあがり、空で二人は対峙する。


「一人で出てくるとはいい度胸ね?」

「出てきたくはなかったが、放っておくと聖剣で結界を破壊しかねないのでな。つまり、私は足止めだ」

「ペラペラと……余裕ね?」

「足止めを命じられて、少々、不愉快でな」


 だから自分たちの情報を話す。

 理解できない感情だ。

 しかし、悪魔とはそういうものなのだろう。

 納得し、エルナは静かに息を吐く。

 そして。


「一人じゃ足止め、つらいんじゃないかしら?」


 一瞬だった。

 マゼランの左腕が宙に舞う。

 エルナの斬撃によるものだ。

 余裕をもって回避したつもりだったが、速すぎて左腕が犠牲になった。

 そのことにマゼランは冷や汗をかきながら告げる。


「そのようだ!」


 同時に王都からさらに二人の男が空へ上がってくる。

 王太子の直轄兵の姿をした彼らは、マゼランと共にエルナを囲む。


「私の名はカラビア。そちらの二人の名を聞いておくか? 今代の勇者よ」

「結構よ。興味ないわ」


 そう言ってエルナは告げた。


「我が声を聴き、降臨せよ! 煌々たる星の剣! 勇者が今、汝を必要としている!!」


 帝国外において聖剣の使用は禁じられている。

 しかし、すでにエルナはその許可を与えられていた。

 相手が悪魔の場合、自分の判断で使ってよし。

 そう言われて、この場に来ていたのだ。

 白い光がエルナの手に掴まれ、銀色の細剣へと変化する。

 勇者と悪魔。

 その対峙と同時に、連合軍、そして冒険者ギルド、大陸全土の各国に情報が走った。


 悪魔現る、と。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ゔ〜〜〜〜 いいとこで終わったぁ! [気になる点] おかわり!! [一言] ご自愛下さい。
[一言] 現実で例えると挑戦半島のゴキブリたちが世界にとっての悪魔みたいなものだなあ
[良い点] 例の悪魔のせいで、味方側の優勢が優勢に思えない、独特の雰囲気が漂っていることです。
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