第六百二十二話 総攻撃
総勢二十万。
連合軍が王国の王都を取り囲んでいた。
そして現場にはウィリアム、アンセム、レオナルトの三将軍。
総司令アルノルトは、大将をレオナルト、副将をウィリアム、アンセムという通達を出した。
そして。
「全軍攻撃開始!!」
大将であるレオナルトの号令で二十万の軍による王都攻略が始まった。
王都はなぜか霧に包まれており、中の様子はわからない。
貴重な航空戦力を突入させるより、全軍で攻撃するべきとして、レオナルトは攻城部隊を王都へ進軍させた。
しかし。
「王都の城門が開きました!!」
「攻城部隊を下げろ! 攻撃中止!!」
何かある。
そう察したレオナルトは攻城兵器を伴った部隊を下げようとするが、敵のほうが早かった。
「王都より多数の偽獣兵!! 突っ込んできます!!」
「迎撃用意! 各航空戦力も空で待機!」
四足歩行の偽獣兵はその名のとおり、獣のように連合軍へ突っ込んでくる。
攻城部隊はその名のとおり、防衛拠点を攻める部隊だ。
足も遅い。
ゆえに撤退が間に合わず、いくつかが犠牲となる。
だが、連合軍もやられっぱなしではない。
「騎馬隊、出撃! 攻城部隊の撤退を援護するんだ!」
待機していた騎馬隊が続々と出撃して、偽獣兵へ向かっていく。
敵の反撃はもちろん予想していた。
しかし、思った以上に数が多い。
「数が多いですな。三万はおります……」
「偽人兵と同じ作り方なら……」
レオは言いかけて、口をつぐんだ。
偽人兵と偽獣兵。
偽人兵の材料となるのは人間だ。
では、偽獣兵は?
その答えの予想はついていた。
「嫌な予感が的中してしまいましたね。ウェンディ嬢」
「間に合わず、残念です……」
レオの傍にいたのはエルフの長老の孫娘、ウェンディだった。
その周りにはエルフの戦士たちもいる。
エルフの里があるのは王国と領土を接する大森林。
これまで、王国からの圧力を受けていたエルフの里は王国派と反王国派で二分されていた。
しかし、王国は突如として方針を転換。
小国の連合体であるレチュサ同盟に圧力をかけたのだ。
それによって、王国はレチュサ同盟を半ば属国化して、軍拡に成功した。
おかげで、エルフの里は反王国派が実権を握ることになり、この連合軍にも戦士団が派遣された。
その代表がウェンディだ。
そしてウェンディがもたらした情報から、レオナルトはある予想を立てていた。
「もっと我々が早く情報を掴んでいれば……犠牲を減らすことができたのでしょうが……」
「悔やんでも仕方ありません」
ウェンディがもたらした情報は、レチュサ同盟で大規模な亜人狩りが行われているということだった。
レチュサ同盟は小国の集まり。人間の国もあれば、亜人の国もある。
そこで亜人が狙われていたのだ。王国軍主導で。
もちろん人間も狙われていたが、その数は亜人のほうが圧倒的だった。
エルフの里がその情報を掴むことができたのは、それから逃れた者たちがエルフの里に逃げ込んできたからだ。
彼らを保護したエルフの里は、戦士団と共にウェンディを派遣した。情報をレオナルトにもたらすためだ。
攫われた亜人たちがどうなったか?
その答えは出なかった。どの都市にもいなかったからだ。
けれど、偽人兵の材料が人間ならば、似たような偽獣兵の材料は……亜人だろうと予想できた。
一体、どれほどの命が犠牲になったのか?
アンセムの話では、薬の成功率はだいたい十人に一人。
多少、薬の成功率が上がっていてもたかが知れているだろう。あそこに三万の偽獣兵がいるということは、最低でも三十万人が犠牲になったということだ。
もちろん、これまで戦った偽獣兵はもっといる。
その数はさらに膨らむだろう。
さらに、それは偽獣兵だけだ。
「王都より偽人兵! その数、およそ二万!!」
「……航空戦力は地上部隊と連携して対処しろ。航空戦力の指揮はウィリアム将軍に任せる」
都市に配備された偽人兵の数とは比べ物にならない。
囮作戦を用いても、そう簡単にはいかないだろう。
淡々と指示を出しながら、レオは血が出るほど唇をかみしめた。
王太子は自国民だけでなく、他国の民まで犠牲にして、非人道的な疑似モンスターを生み出している。
勝つためなのはわかる。
たしかに偽人兵も偽獣兵も強力だ。
二十万の軍勢でも、苦戦させられている。
しかし、だ。
そうであっても。
「人の命を……なんだと思っているんだ……!?」
あまりにも道を外れた行為だ。
ゆえに連合軍が結成された。
レティシアやアンセムから王太子リュシアンの話は聞いている。
猜疑心が強い性格ではあるが、愚かではない。
しかし、偽人兵や偽獣兵を使うのは愚かすぎる。
人間が使う手ではない。
だから、レオナルトは確信した。
「出て来い……悪魔め」
人を人とも思わないのは、人ではないから。
虫か何かと大差ないから、平気で犠牲にできるし、支配する気もないから国がボロボロになっても気にしない。
現在、王国を主導しているのは人間ではない。
間違いなく悪魔だとレオナルトは確信した。
だが、敵の狙いはわからない。
この連合軍の戦力を削ぐことが目的なのか、それ以外の目的があるのか。
悪魔は強力だ。
軍隊相手でも一体で対抗できる。
そんな悪魔たちが偽人兵や偽獣兵を戦力として求めたのか?
自分たちが一個軍団に匹敵する存在である以上、兵力を求めるとは思えない。
答えは出ない。
だが、戦わなければいけない。
「犠牲になった人たちのためにも……確実に討伐するんだ! 一匹たりとも逃すな! これ以上、犠牲は出させないために僕らはここにいる! すべてをここで終わらせるぞ!!」
そう言ってレオは黒い鷲獅子に乗ると、自ら剣を抜いて戦闘に加わったのだった。