第六百十四話 総司令部
「ウィリアム軍、都市を四つ攻略!」
「アンセム軍、都市を四つ攻略!」
連合軍総司令部。
ルイヴィーユ要塞に設置された司令部にて、俺は二つの伝令を受け取った。
ウィリアムとアンセムは競うようにして都市を落としている。
「仲の良いことで」
「競い合うように仕向けといて、よく言うわね?」
王国の地図を机に広げながら、俺はため息を吐きながら呟く。
それに対して、俺の後ろからエルナが声を発する。
「時間との勝負だからな。張り合ってもらったほうが好都合だった。けれど、ここまで頑張るとは思ってない」
「張り合うわよ。現状、名の知れた指揮官筆頭の三人だもの。三人に加われるのはリーゼロッテ様くらいよ? 実質、最強指揮官決定戦だもの」
「わからんねぇ、武人の考えってのは」
そう言いながら俺は地図上の駒を進める。
赤はウィリアム軍、青はアンセム軍、白がレオナルト軍。
敵軍はすべて黒。
三軍は残る王国の都市を攻略すべく、進軍している。
ウィリアム軍は北、アンセム軍は南。レオナルト軍は両軍の間、中央だ。
しかし。
「レオのペースが上がらないな」
「落とした都市の数は二つ……半分は物足りないわね。帝国代表の自覚あるのかしら?」
「他人のことにまで負けん気を出すな。レオの軍だけは混成軍じゃない。航空戦力として第六近衛騎士隊も与えている。戦力的に劣るどころか、自国の兵だけで構成されているからほかよりも優位だ。何か理由があるんだろう」
「私、理由に心当たりがあるわ」
「ほう?」
聞かせてみろと目線で告げると、エルナは自信満々に告げた。
「レティシアと一緒にいたいから、なかなか軍務に身が入らないのよ!」
「あほらしい。聞いた俺が馬鹿だった」
「なんでよ!? アルは知らないでしょうけど、レオったらレティシアにべったりだったのよ!? レティシアが何度も窘めないと傍を離れないの! きっと今もレティシアを困らせているに違いないわ!!」
事実なら指揮官解任案件だ。
けれど、レオはやらなければいけないことを疎かにする性格ではない。
ましてやレティシアの祖国である王国のための戦だ。
時間をかければ、かけるほど敵は民を偽人兵にしかねない。
各都市には偽人兵はもちろん、守備兵も存在する。
彼らはアンセムが帝国に寝返ったと聞かされている。
そういう誤解を解くのは難しい。
兵士は上からの命令で戦うものだからだ。
上が裏切ったといえば、裏切り者なのだ。
だから、多少なりとも血は流れる。そういう報告も入っている。
けれど、躊躇っている時間はない。
「レオが真面目にやってないなら問題だが……真面目にやって二つしか落ちていないなら、なおのこと問題ではある」
「敵に名のある将軍はもういないはずよ? もちろん王太子の直轄軍は別でしょうけど、有能な者はアンセム王子と一緒にこちら側についたわ」
「いつの時代も人材ってのは埋もれるものさ。王国側は人材面ではボロボロだ。つまり、今まで日の目を見なかった者が出てきた可能性がある」
「アルみたいな存在が王国にもいるって言いたいの?」
「少し違う。俺はサボってただけだからな。出世コースから外れた者や地位に阻まれていた者。そういう者が出てきた可能性があるって話だ」
「サボってたのは認めるのね?」
「なんだよ?」
ジト目でエルナが見てくるから、俺は怪訝そうな表情で返す。
それに対してエルナはため息を吐いた。
「連合軍の快進撃を受けて、軍内でのアルの評判はすごいわよ? もう出涸らし皇子なんて言う人はほとんどいないわ。たまに悪意なくあだ名みたいに使う人がいるから、私がこらしめているけれど」
「暇かよ……」
「私にとっては大事なの! でも、これで皇帝陛下とミツバ様に胸を張れるわ! アルをちゃんとさせますって何度言ったことか……やる気を出してくれたら、これまで苦労することもなかったのに……」
恨めしそうにエルナが見てくる。
苦労を掛けたことは事実なため、言い返したりはしない。
その倍以上の苦労を掛けられた気もするが。
「やりたくてやっているわけじゃない」
「でも、これで力を証明したわ! 誰もアルを侮らないわよ!!」
「侮らないってことは本気で来るってことだ。今まで油断してくれていたのに、次からは本気で来る。俺の強みは計算外だったことだ。レオにばかり注目するから、俺が意識の外に置かれる。その隙を突けた。けれど、これからはできない。勝負所だから俺もその強みを捨てたが……それが吉と出るか凶と出るかはわからない」
「嬉しくないの……?」
少し落ち込んだ様子でエルナが告げる。
なんだか悪いことした気分だが、仕方ない。
なにせ。
「喜んでばかりもいられないって話だ。この王国戦が終われば……エリク兄上と勝負になる。連合軍が結成された時点で王国にはほぼ勝ち目がない。だからこそ、レオは圧倒的功績を手に入れる。そしてレオは皇太子になるだろう。けれど、エリク兄上が何もせずに認めるとは思えない」
所詮、この戦は国外での戦。
俺たちがしているのは帝位争い。
敵は外ではなく、内にいる。
しかも最大、最強の敵が。
あのエリクのことだ。
何の準備もせず、座して待つことはしない。
きっと、どこかで動く。
とはいえ、だ。
動くにしてもすべてが終わった後。
つまり、ここを終わらせないと何も始まらない。
「さて……行くか」
「えっ!? アル!?」
「早くしろ、おいていくぞ?」
「ちょっと!! どこに行くのよ!?」
「前線だ。レオがサボっているなら説教するし、苦戦しているなら相手の顔が見てみたい」
「冗談でしょ!? 総司令が前線に出るなんて!」
「どうせ各将軍が自由に動くんだ。多少、ここを留守にしても構わないさ。ほら、行くぞ」
そう言って俺はエルナを伴って、部屋から出たのだった。
一応、YouTube限定で21時から先行公開をやってます。
推敲もかねて書いた即公開してるので、早く読みたい人はそちらを見てください。
ただし、ネタバレやなろう投稿前の感想は禁止です。
よろしくお願いしますm(__)m