第六百九話 勝利
YouTubeにて、リナレスとシルバーの出会いSSを書きました。ぜひ見てみてくださいm(__)m
ちなみに19日はコラボ。
負けたらBL小説らしい( ;∀;)
旗艦アルフォンスの甲板上。
空から勢いよく降ってきた女が着地した。
桜色の髪に翠色の瞳。
白いマントを羽織ったその女を見て、アルフォンスの乗員は顔を輝かせた。
「――これ、どういう状況なのかしら? アル」
「さぁな。俺に聞くな、エルナ。よくわからんがレオと王国軍が協力してモンスターと戦ってる。詳しいことを知らんからレオに聞いてくれ」
「あら? そうなの? 王国軍と共闘しているなら、艦隊を攻撃してよかったの?」
「要塞から逃げる船を砲撃してたし、王国内で分裂してるんだろ。詳しい事情はどうでもいい。モンスターと協力してるなら言い訳の余地はないし、やる気満々でこっちに向かって来るのが悪い」
要塞内の王国軍は必死に民を逃がそうとしており、艦隊はその船を砲撃している。
それだけで対立していると察するには十分だ。
正直、王国内の事情に興味はない。
モンスターを使っている側は敵だし、それに敵対したなら味方だ。
さらにモンスターを使っている側は民を狙っていた。
難しい話じゃない。
人類という観点で見た時。
どちらが悪いか、というだけの話だ。
だから。
「一人で来たのか? エルナ」
「そうよ。知らせを聞いて急いで飛んできたの。色々と片付いたあとのようだけど」
「そう言うな。まだモンスターたちが残っている」
「私が片付ければいいのね?」
「そういうことだ」
俺の意図を察したのか、エルナはニッコリと笑う。
それにニヤリと返しつつ、俺は魔導具に手を伸ばす。
「戦場にいる全将兵に告ぐ。帝国軍総司令アルノルトだ」
モンスターは要塞の半ばまで侵入している。
エルナにいちいちそいつらを潰してこいというのは、使い方が間違っている。
大規模な攻撃こそエルナの持ち味。
活かすにはそれなりの工夫がいる。
「これより帝国軍は聖剣によるモンスターの殲滅を行う。上空の竜騎士団は直ちに退避。要塞内の将兵は第二層を放棄。第三層まで撤退。衝撃に備えろ」
俺の声を受け、要塞内では第二層から第三層への撤退が開始された。
モンスターの圧力も弱まっており、続々と兵士たちは第三層へ撤退していく。
「アル! そろそろいい!?」
「まだだ」
探知結界で要塞内の様子を探りつつ、上空の竜騎士団に目を光らせる。
彼らの撤退は陸上部隊の頭上を空けるということだ。
だから、指揮を取るウィリアムは撤退が完璧に終わるまで撤退はしないだろう。
「竜騎士団の動きを見逃すな! まとめて倒せるチャンスは一度だけだぞ! 討ち漏らしたら文句言わずに片付けろよ!」
「うるさいわね! そんなヘマはしないわよ!」
エルナは言い返しつつ、いつでも聖剣を使えるようにするため、集中状態に入った。
要塞内部に侵入したモンスターたちを殲滅するためには、第二層までの城壁を犠牲にする必要がある。
ルイヴィーユ要塞の難攻不落の伝説を支える城壁たちだ。
きっと文句は出るだろうが、それ以外に早々に片付ける手段はない。
それに王国ばかりが不利なわけじゃない。
これからこの要塞は帝国軍の拠点となる。それを帝国自ら破壊するのは、痛手だ。
ただ、いずれ王国に返還される物でもある。
モンスターが出てきた時点で、これは人類のための戦い。帝国は占領した領土を返還することになるだろう。
俺はそんなことを思いつつ、しっかりと船内に保管されていた元帥杖を手に取る。
帝国国外での聖剣使用は制限されている。
召喚者だとしても許可がなくては聖剣の召喚はできない。
帝国が大義なき侵略戦争に聖剣を利用しないための処置であり、他国への配慮。
しかし、許可を出せる者がいれば聖剣を利用することはできる。
本来なら本国に問い合わせるべきだが、今回は特殊な事例だ。
相手がモンスターならば聖剣の使用は問題ない。
人類を守るために存在するのが聖剣だからだ。
「閣下! 竜騎士団の撤退が始まりました!」
「まだだ」
静かに俺は空を見続ける。
撤退する竜騎士団の中で、白い竜騎士が最後まで敵を食い止めている。
その竜騎士は最後に有翼モンスターへ一撃を見舞うと、クルリと反転した。
「モンスターの群体による襲撃。それと連動する王国軍。この状況は〝大陸の危機〟に相当する。よって、帝国軍総司令アルノルト・レークス・アードラーは皇帝、ヨハネス・レークス・アードラーの名代として命じる。勇者よ、その手に聖剣を取れ!」
一瞬の間の後。
エルナは俺のほうを見て、微笑んだ。
「――仰せのままに、殿下」
エルナが一瞬で空へ上がる。
そして右手を高く天に掲げた。
「我が声を聴き、降臨せよ! 煌々たる星の剣! 勇者が今、汝を必要としている!!」
白い光が天より落ちてくる。
それはエルナの手に掴まれ、やがて白い光が薄れて輝く銀色の細剣へと変わっていく。
五百年前、勇者が魔王を討つために使った伝説の聖剣。
名は極光。
流星から作られたと言われるそれは、万物を切り裂き、魔の存在を一切許さない。
「――アードラーの一族として許可する。やれ、エルナ」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
気合の声と共にエルナは聖剣を真っすぐ振るう。
真っ白な光の奔流が空に浮かぶ有翼のモンスターを飲み込み、第二層まで侵入していた獣型のモンスターも飲み込む。
たった一体すら、逃がすことを許さず、光の奔流はすべてを跡形もなく消し去った。
人が近くにいるため、エルナとしても手加減をしたんだろう。
それでもこの威力だ。
なんだか、前よりも威力が上がっているような気すらする。
それでも、その一撃によってモンスター群は壊滅。
「――ご苦労。諸君、我々の勝利だ」
言葉の後。
旗艦アルフォンスから。
海上にいる帝国船から。
空にいる竜騎士団から。
そして要塞から。
大きな歓声が上がったのだった。