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第六百五話 帝国軍総司令




「ホーリー・グリッター!!」


 二発目のホーリー・グリッター。

 かなり無理しての二発目。

 一発目ほどの威力はないが、それでも相当数のモンスターが消滅した。

 しかし、敵の進撃は止まらない。


「キリがない……!」

「レオナルト! 三層目の予備戦力を投入し、兵士を休ませるべきだ!」

「わかりました! 右の兵力入れ替えを僕が!」

「左は俺がやる!」


 壁の上。

 互いに剣を持って戦っていたアンセムとレオは、一瞬だけ背中合わせになり、これからのことを短く話し合った。

 敵には話し合いもなければ、判断もない。

 ただ前進してくるのみ。

 矢が何本刺さろうが、腕や足が吹き飛ぼうが気にしない。ただひたすら前に突っ込んでくる。

 そこに策などない。

 人間とモンスター。明確に存在する力の差を利用したごり押し。

 シンプルゆえに付け入る隙もない。

 相手が少数ならこちらは数の利を活かすこともできるが、相手は群体。数の利は通じない。

 普通の兵士が五人ほどでようやく一体とやりあえる状況だ。

 それが断続的に壁を登ってくる。

 こちらは疲弊するのに、向こうは疲弊しない。


「第三層の予備兵力を投入し、兵士を休ませる! 疲労の濃い小隊から後方に下がり、予備兵力と交代だ!」


 指示を出しながら、レオは偽獣兵の首を斬り落とす。

 空を見れば、竜騎士団が奮闘している。

 数で劣るにもかかわらず、なんとか抑えてくれている。

 だが、それもどこまで持つか。

 そんなことを思っていた時。


「報告!! 海より艦隊が!!」


 期待をもってレオは海側を振り返った。

 だが、そこに展開していたのは数十隻の王国軍艦隊だった。

 その砲門はしっかりと要塞の港へ向けられていた。


「まずい……!」


 レオが呟いた瞬間。

 王国軍の艦隊から砲撃が始まった。

 避難船を避けるような配慮はない。

 最悪なタイミングでの挟撃。

 帝国軍がやろうとしていたことを、やられている。

 レオは壁の上を走り、反対側にいるだろうアンセムの下へ走った。


「アンセム王子! アンセム王子!」

「ここだ!」


 偽獣兵を周りの兵士と協力して討ち取っていたアンセムは、レオの声を聞き、手を挙げる。

 しかし。


「来てくれたところ悪いが、あれはどうすることもできないぞ!」

「どうにかなりませんか!?」

「無茶を言うな! 海軍の多くは俺が倒れたあとに編制された! あの艦隊にいる船長は王太子の息がかかっている者ばかりだ!」


 言いながらアンセムは盛大に舌打ちをした。

 兵士としての矜持を説くのも無駄。そんな矜持があるなら、避難船に砲撃などするはずがない。

 モンスターに襲われているこちらの状況もわかっているはず。

 すべて承知で砲撃しているのだ。

 寝返らせるのは不可能。

 交渉する時間もない。


「――竜騎士団を避難船の護衛に回せ」

「そんなことをすれば、こちらは上からも攻撃されますよ!?」

「だが、時間は稼げる。お前も空を飛べるはず。竜騎士団と共に護衛に回り、離脱しろ」

「ここまで来て逃げろと?」

「もはやここまでだ。こちらには艦隊をどうにかする戦力がない。一方的に撃たれては、そのうち限界が来る。数多の帝国軍兵士には申し訳ないが……お前を逃がすのが最優先だ」

「お断りします」

「意地を張っている場合か!? 見ろ! 敵にはまだ奥に控えている偽人兵がいる! 一万はいる! あれが動き出したら逃げることもできん! 逃げろ! そして王国の悪辣さを訴えろ! 冒険者ギルドさえ動かせたら我らの勝ちだ!」


 アンセムはそういうと、レオの傍にいたセオドアに目を向ける。


「近衛騎士団ならこのまずさがわかっているはずだ。レオナルトを連れて撤退しろ」

「僕は退かない」

「レオナルト!」

「意地を張っているわけじゃありません。勝機がある以上、僕は退かないだけです」

「勝機はない!」

「あります。僕の兄は来ると言ったら必ず来る。連合艦隊さえ到着すれば、いくらでも勝機はあります」

「姿の見えない連合艦隊を信じて死ぬつもりか!? どれほど信頼しているかしらんが、お前は皇太子最有力の存在だ! お前の命は何物にも勝るはずだ!」

「……僕の命が重いのはわかってる。けれど、僕が兄さんに置く信頼はそれに勝る。僕の兄、アルノルトは僕の命を賭けるに足る価値がある。兄が来るなら、僕は退かない。それに……皇太子を目指す者がここで逃げ出すわけにはいかない。王国は明らかに異常だ。それには悪魔が関わっている。帝国を、アードラーを継ぐ者としてこの異変の最前線から逃げるわけにはいかない」


 レオはそう言い切り、剣を強く握る。

 どれだけ迷惑と言われても構わない。

 退くのだって戦略だ。

 しかし、退けないときもある。

 レオにとっては今がそうだった。

 誰にも見えない勝ち筋でも。

 レオには見えていたからだ。

 そんなレオの様子を見て、アンセムは説得を諦めた。


「勝手にしろ。死ぬ気だというなら構わん。一緒に死んでやろう」

「諦めるなんてらしくないですよ? アンセム王子」

「諦めたんじゃない。現状を把握しているだけだ。俺は現実主義でな」

「現実主義な人は、こんなところで戦っていませんよ」


 レオは笑いながら告げる。

 短い付き合いだが、アンセムのことがわかるようになってきた。

 口では理想を嫌うが、自分は理想主義。

 口では打算を口にするが、打算がすべてではない。

 素直じゃない人だ、とレオは笑う。

 同時に死なせるべきではないとも思った。

 これから王国が復興するには必要な人材。

 ここで死なせるわけにはいかない。

 だからこそ、すぐに援軍が必要だった。

 壁も死守しなければいけない。

 避難船も死守しなければいけない。

 手が足りない。

 だから。


「結構、僕は待ったと思うんだけどなぁ」


 そうレオが呟いた時。

 海上から一筋の閃光が伸びてきた。

 それは後方に控える一万の偽人兵に命中すると、大爆発を起こして多くの偽人兵を葬った。

 そして。


『こちらは帝国軍総司令、帝国元帥アルノルト・レークス・アードラーだ』



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回はレオのいまいちな点ばかりが目につく感じでした。決断できずにどっちつかずの決定下したり、人がいいのはいいけど大局的な判断ができなかったり、帝国軍兵士に多数の損害を出したり。それで負…
[良い点] ヒューッ!
[良い点] アルかっこ良すぎる。次の更新楽しみです!
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