第六百三話 三国同盟
YouTubeでアルとガイのSSを書きました。
良かったら見てくださいm(__)m
偽人兵に奇襲された帝国軍は、散発的な迎撃を行っていた。
しかし、偽人兵は素早い上に矢が命中した程度では落ちない。
そのため、レオはノワールに跨り、空でできるだけ偽人兵の数を減らしていた。
だが、レオがいくら獅子奮迅の働きをしたところで空を埋め尽くす偽人兵の数は減らない。
急降下し、地上の兵士を襲撃するといった一撃離脱戦法のせいで、帝国兵はどんどんやられている。
「くそっ!」
魔法を使おうにも、相手がどういったモンスターかもわからない。
王国の意図で動いていることは想像できるが、どうしてモンスターを操れるのかが理解できない。
頭に浮かぶのはクリューガー公爵の下で生まれた、人が吸血鬼化した〝悪鬼〟。
だが、あれよりもさらにモンスター化している。
悪鬼はせいぜい異常な人間。
しかし、目の前のモンスターは人間的な要素がほとんどない。たしかに頭部があり、二本の腕と二本の足を持つが、羽が生えており、見た目からも異形だ。
もしも悪鬼と同じ存在だとしても。
聖魔法で元に戻せるのだろうか?
そんな疑念が浮かぶほどには人とはかけ離れている。
「殿下!!」
地上で迎撃に当たっていたセオドアの声で、レオは考え事から現実に引き戻される。
気づけば、近くまで偽人兵が迫っていた。
咄嗟に迎撃しようとする。
だが、偽人兵はレオの前で火球に貫かれた。
そのまま偽人兵は燃えながら落下していく。
レオはまさかと空を見上げる。
空には無数の竜騎士たちが飛んでいた。
「来てくれたのか……!」
「降下! 降下! 降下!! 敵を我々に引きつけろ!」
指示を出しながら、黒い飛竜に跨ったロジャーは竜魔槍を使って、レオの周りの偽人兵を片付ける。
「来てくれて嬉しいよ、ロジャー」
「遅れて申し訳ありません、レオナルト殿下。我らが陛下は都市のほうへ向かいましたので、そのうち挨拶に来るかと」
「竜王自ら来てくれたのかい?」
「我が竜騎士団は陛下が率いてこそ、力を発揮するもので。現状、動かせる竜騎士六千騎。陛下と共に馳せ参じました。空の守りは我らにお任せを」
「頼んだよ!」
どんどん降下してくる竜騎士たちと、偽人兵たちは熾烈な空中戦を演じていた。
それによって帝国軍は空からの攻撃から解放された。
「一時後退! 陣形を立て直せ!」
■■■
シャンタル内。
空から舞い降りたウィリアムによって、アンセムの姉であるフランシーヌは救われた。
とはいえ、ウィリアムとしても状況はよくわかっていなかった。
わかっているのは、王国の王女であるフランシーヌが襲われていたということ。
だからこれからのことを、よく状況を理解している人物に問いかけた。
「これからどうするつもりだ? アンセム王子」
「知れたこと……我らが戦うのは民のため! 王太子は民をモンスターに変えてでも、勝とうとしている! もはやこれまでだ! 王国の兵士として誇りある者は俺に続け!!!! 我らは王太子には従わない!!」
「ちっ!」
アンセムの号令を受けて、リゼットは真っ先にマゼランを狙った。
しかし、それは直轄兵たちによって阻止される。
「退け!」
リゼットは直轄兵たちを突破しようとするが、王太子の直轄兵たちは猛者ばかり。
いくらリゼットでも一人での突破は無理だった。
「逃がすな!」
アンセムは背を向けて去っていくマゼランを見て、そう指示を出す。
しかし。
「アンセム王子! 迎撃のほうが先だ!」
「奴を討たなければあのモンスターたちは止まらん!」
「コントロールしているのはわかるが、討てば止まるか!? 確証は!?」
「ちっ! 全軍! 民を守れ! 迎撃準備!」
マゼランを討てば偽人兵をコントロールする者はいなくなる。
だからこそ、アンセムはマゼランを狙ったが、コントロールを失った偽人兵がどうなるかはわからなかった。
そのため、ウィリアムの言う通り、アンセムは迎撃を選んだ。
だが、それだけでは終わらなかった。
「運び込まれた薬はすべて壊せ! リゼット! この場の指揮を任せる! 迎撃しつつ、民を連れて都市を出ろ!」
「都市を捨てるのですか!?」
「ここにいれば、やがてマゼランが戻ってくる! ここでは民を守り切れん! 要塞まで退くぞ!」
「しかし……帝国軍が……」
「任せておけ」
アンセムはそういうと馬に跨る。
病み上がりの体には辛い作業だったが、それでも歯を食いしばる。
「竜王ウィリアム! 姉を助けてくれたことには感謝しよう! ついでだ! もう一つ仕事をしろ!」
「随分と高圧的な弟君ですな」
「も、申し訳ありません……アンセム! もう少し柔らかく言えないの?」
「十分柔らかく言ってますよ。それで!? 仕事するのか? しないのか?」
「面白い。承った」
「では、レオナルトの場所まで護衛してもらおう。奴に話がある」
「大将自らとは剛毅なものだ。だが、嫌いではない」
そう言ってウィリアムは連れてきた配下の竜騎士と共に、アンセムを護衛する陣形を取った。
それを確認し、アンセムは馬を全力で駆けさせた。
都市を抜け、真っすぐ帝国軍へと向かって行く。
周りにいるのはウィリアムであり、王国兵はいない。
そのままアンセムはよく通る声で帝国軍に告げた。
「王国軍総司令、アンセムがレオナルトに会いに来た! 道を開けよ!」
敵軍の総大将が単騎で自分たちに向かって来る。
その光景に帝国兵たちはギョッとした表情を浮かべるが、とにかく迎撃しようと動く。
しかし。
「アンセム王子に手出しは無用! 身の安全はこの竜王ウィリアムが保証した! 顔を立ててもらうぞ! 帝国軍!」
なぜか援軍に来たはずの連合王国の竜王がアンセムを護衛している。
帝国兵はとにかく混乱するしかなかった。
その間にもアンセムは帝国軍の中を疾走する。
そして。
「久々だな、レオナルト」
「お久しぶりです。アンセム王子」
帝国軍の真ん中でアンセムとレオナルトは再びまみえた。
事態は急を要する。
二人ともよくわかっていたため、すぐに話は始まった。
「王太子が民をモンスターに変えた。シャンタルの民も狙われている。我らは民を守るため、要塞へと向かう。協力してほしい」
「対価は?」
「俺がいなければ兵士はついてこないだろう。だからすぐに首は差し出せないが、王太子を討ったあとは好きにしろ。お前にならすべて任せられる」
命をやる。
その言葉は疑いようのないものだった。
わざわざ敵陣に一人でやってくるような男だ。言葉を違えることはしないだろう。
帝国軍にとってもすべて終わったあと、アンセムの命を奪えるならそれに越したことはない。
王太子を追い落としたあと、目障りなのはアンセムだからだ。
しかし、レオはそれを笑って受け流した。
「僕は十五万の総大将ではあるけれど、あくまで現場の将軍にすぎない。そういう判断はできかねる。聞いておいて申し訳ないが、対価は後日話し合ってほしい。そろそろ我が軍の全軍総司令もいらっしゃるからね」
「ふん……命で済ませてほしかったが……そう簡単にはいかないか」
「そういうことだね。提案は了承した。我が軍も要塞まで移動する。要塞側が抵抗する可能性は?」
「ない。要塞は忠実な将軍たちに任せてある。敵はまだ兵力を抱えている。要塞で迎え撃つことになるだろう」
「要塞からなら民を海から避難させられる。どうにか時間さえ稼げば冒険者ギルドが動き出すはず……たしかに最善策だ」
「理解を得られて幸いだ。では、帝国軍の半数を民の護衛に回してほしい。こちらも半数は民の護衛に回す。残りは奴らの相手だ。ウィリアム、証人になれ」
「竜王として証人を引き受けた。突発的なことだが、三国同盟ということでよろしいかな?」
ウィリアムが告げる。
それに対して、アンセムとレオナルトは頷く。
周りの兵士たちにとっては理解の追いつかない話ではあったが、激戦を繰り広げたアンセムの軍とレオナルトの軍は、ここに手を組むことになったのだった。