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第五百九十七話 海路侵攻




「――そのような経緯で奇襲艦隊は撃破。報告は以上。そのとおりに伝えてほしい」


 そう言って俺は通信を切る。

 旗艦アルフォンスに用意された指揮官室。

 そこには水晶球が鎮座されていた。

 それは冒険者ギルドの遠話室にある水晶と同じモノだ。

 冒険者ギルド秘蔵の技術である〝遠話〟。

 秘蔵にしているのは、この技術が戦争に利用されることを恐れているからだ。

 各国も昔からその技術を欲しているが、冒険者ギルドを敵に回すのは帝国とて無理な話だし、あまりに高度で特殊な技術なため、模倣もできていない。そもそも使っている冒険者ギルドの職員ですら、よくわかってないものだし。

 そんな水晶が旗艦アルフォンスにあるのは、悪魔が関連していた。

 冒険者ギルドはいまだ王国内に悪魔が潜んでいると睨んでおり、騒乱が起きれば悪魔が出てくるとも見ていた。

 そのため、帝国がその騒乱を起こす役目を買って出たわけだが、悪魔が出現したときに報告が遅れれば大陸全体が危機に晒される。

 その時、もっともスムーズに情報を行きわたらせることができるのがこの水晶だ。

 そういう理由で旗艦アルフォンスには、冒険者ギルドから貸し与えられた水晶が鎮座されているのだ。

 陸地で戦うレオたちには、王国内にある支部の利用が許されていた。

 本来なら悪魔が現れたときだけに使うべきだが、前線で命を張るのに対価がないのは割に合わない。そのため、こうやって前線の情報を帝都に送ることだけは許されていた。

 冒険者ギルドとしても帝国に負けられるのは困るし、前線から情報を送るだけなら問題ないという判断だろう。


「さぞや帝都は混乱しているだろうな」


 言いながら俺は指揮官室を出る。

 獅子の顎を突破してくることを予期していた王国軍は、二十隻の艦隊を派遣していた。

 こちらを奇襲する気でいたその艦隊だが、狙って来るだろうとこちらも備えていたので、奇襲はならず。

 逃げられても困るので、包囲してすべて沈めた。

 船をかなり失ったという報告と、敵艦隊を殲滅したという報告。

 こうも短時間にもたらされたら、どちらかが誤報かと疑いたくなる。

 だが、この水晶のおかげでそれはない。

 向こうから話しかけることができていたら、どういうことか説明しろと、父上にどやされていただろう。

 そういった意味では、冒険者ギルドに感謝しなければ。


「あ、閣下。用事は終わりましたか?」


 甲板に戻る途中。

 フィンが俺に声をかけてきた。

 フィンとその愛竜であるノーヴァは、旗艦アルフォンスに乗っている。

 小柄なノーヴァならば、旗艦アルフォンスにも乗せておけるからだ。


「ああ、終わった。甲板の様子はどうだ?」

「まだ興奮冷めやらぬという感じです。船長もあれほど一方的な海戦は見たことがないと驚いていました」

「数の上ではこちらが倍以上。しかも、向こうはこちらがボロボロだと予想していた。さらには奇襲すら看破されていた。一方的にもなるさ」

「そうはいっても、アルバトロ公国の艦隊は帝国船を縄でつないでいたので、ほとんど参戦できませんでした。それであの戦果ですよ? どう考えても閣下の指揮のおかげかと」

「お世辞をいっても何も出ないぞ」


 言いながら、俺は甲板に上がる。

 俺の姿を認めると、乗員たちが全員敬礼した。


「ご苦労。作業に戻ってくれ」

「閣下! アルバトロ公国艦隊より、牽引してきた十五隻の帝国船のうち、五隻はこれ以上の航海は難しいという伝令が来ています」

「五隻の被害は?」

「一隻が大破。四隻が小破。四隻は航海自体、可能ですが、速度が出せるかわからないとのことです」


 これからは一気に要塞へ向かう必要がある。

 速度の出ない船は置いていくしかない。


「事前に想定していたとおりに動く。大破の一隻は放棄。船員は四隻に移り、王国南部の港町へ向かえ。予定通りならレオの放った部隊が確保しているはずだが、万が一に備えて一隻、護衛につける。なるべく戦闘は避けるようにと厳命しろ。敵地だからこそ、無暗に戦闘をすれば命にかかわる」


 南側の海路から侵攻する以上、いざというときに停泊できる場所がなければ安全には航海できない。

 ましてや獅子の顎に突入するだろうことは、開戦前から想定済みだった。

 そのため、近くにある港町を確保するようにレオには伝えていた。もちろん帝都経由だが。

 相手の目はレオの本隊十五万に集中している。港町一つに構ってはいられないだろう。

 予定通りなら問題ないし、万が一、港町が抵抗してきたとしても護衛がいれば確保はできる。


「了解! そのように伝令船を出します! それで、これからどうするんです?」

「要塞へ向かう。王国海軍がこれだけってことはないだろうし、周囲を警戒しながらな」


 王国は連合王国からの侵攻を受けて以来、海軍の強化に力をいれてきた。

 北部艦隊はもちろん、南部艦隊も相当な力を持っている。

 こちらの戦略を読み切っているだろうアンセムが、獅子の顎だけに頼るとは思えんし、まだまだ後ろに控えているだろう。

 迎撃に出てくるのか、要塞の防衛に当たるのか。

 それによってこちらが取る手は変わってくる。ただし、どうであれ近づく必要がある。


「レオナルト殿下は無事、敵を要塞に押し込めているでしょうか?」

「さぁな。それはわからん」

「できないと我々は孤立無援ということになりますが?」


 連合艦隊にとってここは敵地。

 最短距離で帝国に戻るためには、また獅子の顎を通らなければいけない。

 つまり、要塞を落とさないとだいぶピンチということだ。

 とはいえ。


「レオが劣勢なら、海から圧をかける。レオが優勢でも、海から圧をかける。それがこの艦隊の役割だ。俺たちが王国海軍を破って要塞に迫れば、アンセムとて無視はできない。注意を引ければ、レオが劣勢だとしても十分な援護になる。だから心配するな」

「まぁ、閣下がそうおっしゃられるなら信じましょう」

「そうしてくれ。艦隊全体に連絡。出航の準備にかかれ」


 俺の指示を受け、旗艦アルフォンスの上に大きな旗が立てられた。

 数は三本。色も赤、青、黄色と三種。

 この旗の組み合わせによって、事前に決められた作戦行動に素早く動ける。

 連合艦隊は数が多いうえに、海の上ということでとにかく指揮がしづらい。

 手旗で更新しようにも、伝達までに時間がかかりすぎる。

 そのため、最低限の作戦行動を事前に決めておいた。

 単純な命令しか出せないが、素早く出せる。

 それによって王国の奇襲艦隊も素早く包囲することができた。


「単純な海戦なら負ける気はしないが……単純にいかないだろうな」


 小声で呟きながら俺はため息を吐く。

 敵は王国。しかし、同時に背後には悪魔の影がある。

 追い詰めれば追い詰めるほど。

 影は表に出てくるものだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 感想でなくて申し訳ない。「おっしゃられる」ですが、「仰る」(敬語)+「られる」(尊敬の意を表す助動詞)という二重敬語でthe Emperorなどにしか日本語では用いません。皇帝様に使うのは一…
[一言] アルさんはシルバーとして遠話を使ったことがあるから慣れっこ! ヨハネスたちは知らないだろうけどね。当然。
[気になる点] 本章は突発的な記載が多いような? [一言] アルの活躍に期待。エルナは合流しないのかなぁ。
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