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第五百九十六話 緊急重臣会議




 帝都ヴィルト。

 帝国の中核である帝剣城では帝国の主要人物が出席する重臣会議が開かれていた。

 集まった理由は、帝国海軍の現状が知らされたからだ。


「やはりアルノルト殿下に元帥は荷が重かったのだ!」

「海軍損失は計り知れません!」

「レオナルト殿下も苦戦中という報告が入っている。今からでも指揮官を交代するべきでは!?」


 十五万の大軍を率いていながら、敵を要塞に押し込むことができないレオと、多くの船を失ったアル。

 どちらも批難の的だった。

 それを黙って聞いていたヨハネスは、自分の横にひかえるエリクに目をやる。


「エリク、お前から何か言うことはないのか?」


 軍務卿であるエリクはいつでも意見を言える立場だった。

 そしてレオとアルを批難しているのは、エリクを支持する者ばかり。

 指揮官の交代などという馬鹿な提案をするのも、交代するならエリクになるからだ。


「私からは何も」

「大臣たちは納得していないようだが? 軍務卿として問題ないと判断するなら、大臣たちを納得させよ」

「陛下! 陛下は問題ないとお考えなのですか!? 海軍は大損害です! しかもまだ敵と一戦も交えていないのに、です!」

「では、どうすればよかったと?」

「損害を最小限に抑えるべきだったと……!」

「どうやって抑える?」

「それは……迂回ルートを通るべきでした。獅子の顎が困難なルートなのは周知の事実なのですから!」

「迂回ルートでは間に合わん。大艦隊を揃えたのに間に合わないとあっては、さぞや笑われるだろうな」

「それではもっと早く出撃するべきだったのです! 全権はアルノルト殿下にあったのです! これはアルノルト殿下の失態です!」

「連合艦隊は大艦隊ゆえに兵糧の問題を抱えている。早く出撃すれば、王国の海で孤立無援となりかねん。出撃するタイミングとして、ワシは間違っていたとは思わん。エリク、お前はどう思う?」


 大臣の発言にヨハネスは返答していたが、埒が明かないため、エリクに質問した。

 それに対してエリクは表情を変えずに告げた。


「出撃のタイミングについては問題なかったかと」

「では、何が問題だった?」

「獅子の顎は気象が不安定な特殊な場所です。どうしてそんな風になっているのかも解明されていない。そんな場所に帝国艦隊が突入したのが問題です。私なら両公国艦隊だけを突入させます」

「そうなると王国艦隊とは両公国艦隊だけで当たることになるが?」

「精鋭でならすアルバトロ艦隊がいれば勝てるでしょう。我が帝国海軍の被害も抑えられ、両公国艦隊の力も削げます。帝国が南で力を持つには、そうしたほうが良かったかと」

「さすがエリク殿下! 先のことも考えておられる! その策ならば帝国海軍は無傷で勝利を得られます! 万が一、両公国艦隊が負けたとしても、無傷の帝国海軍が傷ついた王国艦隊を撃滅! 時間はかかるかもしれませんが、最上の策です!」


 絶賛の嵐。

 それを聞き、ヨハネスはため息を吐いた。

 そして。


「たわけ共が。そのようなことをすれば、両公国艦隊を使い捨てにしたと捉えられる。せっかく良好な関係を築いたというのに、それを崩してどうする? かつての失敗を忘れたか? アルバトロ公国を小国と侮り、無視したがために王国との戦争は泥沼化した。だからこそ、今回はアルバトロ公国との関係を改善して臨んでいるのだ。エリクの策はたしかに有益やもしれんが……人の感情を無視しすぎている。だからお前には現場の指揮官は任せられんのだ。人は感情で動く生き物だ。それに要塞を挟撃するという戦略も崩れかねん。大事な部分を他国に任せるわけにはいかん」


 迂回ルートを通れば、到着が遅れる。

 そうなれば王国艦隊の相手も、要塞を挟撃する役目も両公国艦隊に委ねることになる。

 万が一にでも、両公国のどちらか、もしくは両方が裏切れば帝国軍は絶体絶命となる。レオの軍も、アルの軍も、だ。

 結局、突入以外に選択肢はない。

 被害を出してから文句を言うのは誰でもできる。


「文句があるか? エリク」

「いえ、両公国に配慮するという方針ならば問題はありません。損害も……勝てればお釣りが来ます」

「そのとおり。勝てれば問題ない」

「陛下! 感情の話をするならば、嵐の中で命を落とした兵士はどうなるのです!? 敵と戦うわけでもなく、多くの兵士が……!」

「レオナルトの軍も数万の損害を出している。要塞に到着する間に、な。王国軍と戦って死ぬのも、自然の脅威で死ぬのも一緒だ。勝つために必要な犠牲ならば容認するしかない。兵士とて帝国の民だ。死んでほしくはない。だが、その死に引きずられるのは傲慢だ。死んでほしくないなら戦争などしなければいい。兵士に死んで来いと命じておきながら、死んでほしくなかったと嘆くのか? 我らは命じた側だ。嘆く権利などない。報いる方法はただ一つ。無駄ではなかったと証明することだけ。方針は変わらん。現場のことはレオナルトとアルノルトに任せる。これは……皇帝の決定だ。文句は言わせん」


 まだ何か言おうとした大臣たちを、ヨハネスは睨むことで黙らせる。

 大臣たちは困ったようにエリクを見るが、エリクは何も言わない。

 すでにエリクは意見を発した。軍務卿としての役割は果たしたのだ。


「下がれ」


 ヨハネスがそう命じると、エリクや大臣たちは一礼して玉座の間を出ていく。

 それを見送り、ヨハネスは深く息を吐く。

 そして。


「やってくれたな……アルノルトめ」

「損害なくして獅子の顎は突破できません。しかし、アルノルト殿下らしくもありません。損害はなるべく抑えようとする方だと思っていましたが……」

「今回は損害を出そうと、気にせず勝ちにいくということだろう。それに……これで良くも悪くも大勢の目がアルノルトのほうに向いた。この後、鮮やかに勝ちでもすれば……多くの者がアルノルトへの評価を改めるだろう」

「殿下は滅多に本気にならない。その殿下が本気で勝ちにいけば、どうなるのか。それを見せつけることになりますからな。アルノルト殿下への警戒はより増すでしょうな。ただし……」

「勝てれば、な。王国艦隊とて弱くはない。エリクはアルバトロの艦隊がいれば負けないといったが、それは敵の規模が想定内の場合だ。獅子の顎にあぐらをかき、何もしていないとは思えん。それなりに厄介な相手だ。上手くいくといいのだが……」


 そう呟いたヨハネスの下に新たな知らせが届いた。

 待ち伏せをしていた王国の奇襲艦隊と連合艦隊が交戦。

 連合艦隊は損失を出さず、短時間で二十隻の王国船を沈めて、要塞に向かっているという知らせだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 言ってるそばから結果出しやがった エリクの無能ムーブも計算されてる感が半端ない 何を狙ってるのか
[一言] エリクは軍務卿だっつーのに大臣たちを制御できてないし ろくに意見も言わないし、訊いてみればヒトの感情は抜けてるし 組織のトップより補佐が合ってる感じですねぇ。 上にいる誰かの指示で動くポジシ…
[気になる点] 遠距離通信は冒険者ギルドが独占してたはずだし、これまでの連絡も時間差がある表現されてたから、通信は違うだろうし。 天隼部隊の一部が情報部隊になってたとしても……王国の上空を隠密に飛ぶと…
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