第五百九十二話 指揮官まみえる
YouTubeでフィーネのSSを書きました。
興味があれば見てみてくださいm(__)m
アンセムがレオを読み違えた理由はこれまでのレオの行動にあった。
レオは戦争が始まった段階から、常に戦略に沿って動いていた。
王国軍を押し込み、北と南からの援軍が決定打を与える。それが帝国軍の基本戦略であり、十五万の大軍を率いていようとレオはあくまで脇役とよべる立ち位置だった。
ゆえに戦略が崩壊しないように立ち回っていた。
ずっと守勢に回っていたのも、王国内部に侵攻したレオの軍が存在していれば、王国はどう足掻いても劣勢を強いられるからだ。
だから援軍が期待できる状況で、自ら攻勢に出るとは思わなかった。負ければそこで戦略が破綻してしまうからだ。
必ず援軍が来ると信じて、レオは常に行動してきた。ゆえにアンセムも援軍は来るのだと思い、行動してきた。
だからこそ、攻め込んでくることはないと思い込んだのだ。
「援軍がブラフか? それとも援軍が期待できるのに、援軍が来る前に決着をつけにきたか?」
どちらにせよ、これまでのレオとは違う選択をしたのは確かだった。
どこまでいっても劣勢なのは王国軍。
レオが勝負を急ぐ理由はない。にもかかわらず、このタイミングで勝負に出た。
予想外。そういうのは簡単だが、そこまで単純な話ではない。
大軍を率いる身でありながら、これまでの方針を急激に変えるのは生半可な覚悟でできることではない。
アンセムが読み違えたのも、守勢に回っているほうがレオにとっては有利だからだ。その有利を捨てるわけがないと思っていた。
ゆえにそこを突かれた。
だが、隙を突くために攻勢に出るのは諸刃の剣。
「勝ちに来たというなら受けて立つまでだ……!」
アンセムがあれこれと策を弄したのは、堅い守備を破るため。相手がその堅い守備を捨てたなら、手間が省けたともいえた。
だが、王国軍は一歩遅れた。虚もつかれている。
士気も数も向こうのほうが上。
盛り返す必要がある。
レオが前線に出て、帝国軍に勢いをもたらしたように。
「リゼット……! 薬を渡せ!」
「殿下!?」
出陣の準備を始めていたリゼットは目を見開く。
既に薬は服用している。
それでも薬を要求するということは、過剰摂取するということだ。
「お忘れですか!? 複数使用すれば体は動くようになりますが……副作用で……前回は死にかけたのですよ!?」
ベッドで寝たきりとなっていたアンセムに対して、王太子は薬をもたらした。
その薬を調べるため、アンセムは複数使用を試していた。
効果は絶大だった。全盛期並みに体が動くようになった。
だが、その後、アンセムは死の淵を彷徨うことになってしまった。それだけ薬が強力ということだ。
「ここで負ければどうせ死ぬ。ミレーヌが姉上の行方を捜しているのだ。ここで勝利をもたらし、次に繋げねば……何のために生きているかわからない……。俺は負けられんのだ!!」
「死んでしまえばすべて終わりです!」
「死にはしない! だから薬を渡せ! 見ろ! 帝国軍の勢いを! 押し返すには俺が前線に立たなければいけない!」
「私がレオナルトを討ちます! そうすれば問題ありません!」
「できぬことを言うな……近衛騎士たちが周りを固めるレオナルトを討つなど……いくらお前でも無理だ。勝機は一つ。俺が前線にて剣を振るう。それで軍として勝てる。勝てば次に繋がる。わかってくれ……」
言葉を発しながらアンセムの息は荒くなる。
思い出すだけで気絶しそうな苦しみを前回は味わった。
もう一度、あの苦しみを味わうのはアンセムとしても御免こうむりたいことだった。しかし、アンセムは自分の恐怖心を押し殺し、薬を要求する。
できることがあるならやるべきだ。
その気持ちを支えるのはベッドの上で味わった無力感。
あの時とは違う。今は動ける。
誰か、自分の代わりに国を救ってくれと願った日々だった。
自分が万全ならばと悔しさで発狂しそうな日々だった。
何かできないかと足掻いた日々だった。
苛まれた無力感が、今の強い気持ちに繋がる。
「レオナルトは勝負に出た! 負けない戦いができるにも関わらず、それでは駄目だと! 勝負に出たのだ! あれに勝つには俺も勝負に出なくては! 長く付き従ってくれたお前なら分かるはずだ! この国を背負う王族として! 軍を率いる司令官として! 一人の男として! 俺は負けられないのだ!」
アンセムはそう告げながら手を差し出す。
そんなアンセムをリゼットは泣きそうな顔で見つめた。
気持ちは痛いほどわかる。わかってしまう。
ベッドから動けないアンセムをリゼットはずっと見ていたからだ。
だが、この選択はアンセムの命を奪うかもしれない。
だからリゼットは迷った。
国よりも、アンセムのほうが大切だからだ。
それでもリゼットは薬を取り出した。
わかっていたからだ。
アンセムという男は負けることを嫌う。
公国の時とは違う。ここでは全力を出せる。
それでも負けたとなれば、プライドが許さない。
だから。
「どうか……ご無事で」
「安心しろ。俺は死なん」
そう言ってアンセムはリゼットから受け取った薬を口に含んだのだった。
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レオが全軍による総攻撃をしたのは、勘に近いものだった。
徐々に鋭さが増すアンセムの手を、レオは読んでいても防ぎきれないことが増えていた。
現場の兵士たちの能力によって救われることが多くなり、危機感が募っていた。
だからこそ、敵が攻め込んでくるタイミングでこちらも攻めるという手を思いついた。
もちろん勝算はあった。
一万で三万を破った名将アンセム。それを相手にして、見事な防衛を帝国軍は見せていた。
あのアンセムが攻めあぐねている。
そう兵士には映り、士気は高かった。
互角に渡り合っているという認識をしていたのだ。
そんな兵士たちなら王国軍を相手に互角以上に渡り合える。
そういう目算があった。
また、アンセムも帝国軍が攻めに転じるとは予想できないと踏んでいた。
なにせ、レオとて馬鹿な選択だと思っていたからだ。
それでもレオは決断した。
わかっていた。守っているだけじゃ勝てない。
いつ来るかわからない援軍に頼るだけでも勝てない。
いつだってそうだった。
戦というのは運が絡む。
それでも最終的に勝ちが転がり込んでくるのは、勝つことを諦めない者のところだ。
これまでの経験でレオは知っていた。
どんな状況でも、アルは最終的に勝つにはどうしたらいいか考えていた。だから目の前の戦いで負けても、最終的には勝っている。
性格の問題なのだろう。
レオは負けないように戦い、アルは勝つために戦う。
勝てないならそもそも戦わない。それがアルだった。
そんな勝ちへの執着。自分には真似できないとは思っていた。
負けないように戦うのだって悪くはない。勝ちに固執していれば、とうの昔にレオはアンセムに負けていた。
けれど、負けないように戦うのには限界がある。
どこかで攻めなきゃいけない。これは負けないためにも必要だった。
アンセムと戦っていると、レオはアルを思い出す。
常に負け続けたレオになってしまうのだ。
どうにか善戦を。そんな意識が自分の中に芽生えてしまう。
だから。
「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
レオはそんな自分を乗り越えた。
支えたのは皇帝になるという強い意志。
人には向き不向きがある。
それでも。
ここ一番で勝ちを拾えないならば玉座は勝ち取れない。
いつまでも勝たせてもらっているようでは、誰も認めてくれない。
勝ちは自分の手でもぎ取らなければ。
他者に頼るのは大切だが、他者に頼りすぎてはいけない。
頼り、頼られてこそ人なのだから。
自分も頼られる存在にならなければ。
「続け!! 敵本陣に切り込む!!」
空に上がったレオを王国軍の鷲獅子騎士が迎撃しようとするが、それを一瞬で斬り伏せ、レオは急速降下して地上の王国軍を蹴散らす。
その姿を見て、帝国軍の士気はさらに上がる。
しかし。
そんな帝国軍の歓声を飲み込むほどの声が王国軍の中で上がった。
その歓声が徐々に近づいて来る。
同時にレオは剣を強く握った。
直感が告げていた。
恐るべき敵が来たのだ、と。
騎馬隊がレオのほうへと突っ込んでくる。
その先頭。
見るからに目立つ黄金の鎧に身を包んだ男が、付き従う騎士たちを置き去りにしてレオへ斬りかかってきた。
鋭い一撃。
これまで戦ってきた強者たちにも引けを取らない。
「ここで決着をつけさせてもらうぞ! レオナルト!」
「こっちの台詞だ! アンセム王子!!」




