第五百八十九話 開戦初日
ユーチューブにて、エゴールのSSを書きました。
気になる方は見てみてくださいm(__)m
平原にて始まったアンセム対レオの決戦は、互角だった。
双方ともに最初の一手は騎馬隊の突撃。
数は五千。
中央の平原でこそ一番活きる騎馬隊突撃。
勢いよく平原中央にて激突したため、即座に乱戦となった。
「歩兵大隊用意。前進開始」
そんな乱戦を見て、アンセムは即座に第二陣の投入を決めた。
待機していた一万の歩兵たちが前進を開始する。
それに対して、レオも即座に歩兵たちを前進させることで対処した。
第一陣の騎馬隊は乱戦を解き、後方よりやってきた歩兵たちと共に第二突撃を開始する。
それもまた互角。
その様子を見ながらレオは呟く。
「魔導師団が健在ならだいぶ楽だったんだろうな……」
それは誰にも聞こえない独り言。
すべてはあの時から動いていた。
アンセムは危険となりそうなモノは先に排除して、この戦にのぞんでいる。
この膠着状態。
魔導師の集中運用により、圧倒的な戦果を残していた魔導師団が手元にいれば、切り札となりえた。だが、その危険性を認知していたアンセムによって、魔導師団は早々に退場させられた。
魔導師がいないわけではないが、あのレベルの魔導師たちを部隊として再編制するのは、いくら帝国でも無理だった。
魔導師団だけではない。
南からの援軍は本来の規模ではない。
公国海軍が万全なら南から連合艦隊が独力で要塞を突破することだって、不可能ではなかった。
しかし、妨害工作でそれはできなくなった。
先に先にとアンセムは動いている。
単独で帝国とその同盟国を相手取るだけのことはある。
「殿下、敵本陣に動きがあります。おそらく左右の森に部隊を展開するのかと」
「僕らも展開する。左右に一万ずつ送るんだ」
指示を出しつつ、レオは思わず苦笑した。
先手を打ったはずなのに、気づけば常に後手だ。
対応策は間違ってないが、先手を取れていない。
それが負けだとは思わない。指揮能力に差があるのはわかっていた。
一万の優位があれど、せいぜい互角。
それでもレオがアンセムの誘いに乗ったのは、互角なうちに決戦ができるなら上々と踏んだからだ。
アンセムは王太子の介入を受けた。
つまり、無理やりにでも攻勢に出てくることが予想できた。
その攻勢によって互角以下の状況で決戦にのぞまなければいけない可能性も考えられた。
ならば兵数の有利が確保できている状態でのぞむしかない。
そう思っての行動だった。
だが。
「まるで兄さんと戦っている気分だよ」
「アルノルト殿下は盤上遊戯が得意でしたな」
「そうだよ。とにかく強いんだ、兄さんは」
昔からレオの遊び相手はアルだった。
どれだけ戦術書を読み込んでも、盤上遊戯でアルに勝ち越せたことはない。
成長するたびにその差は広がっていった。
そこからレオは学んだ。
世の中には勝てない相手がいるのだと。
そして勝てない相手に勝ちに行くと必ず手痛いしっぺ返しを食らう。
だから。
「セオドア。後方に君の部下を回しておいてほしい。アンセムが兄さん級なら、事前に伏せていた奇襲部隊が来ると思う」
「かしこまりました」
セオドアはレオの言葉を疑わない。
提案ではなく、命令だったからだ。
命令を受けたら従うまでのこと。ここは戦場だ。
しかもその命令は妥当だった。
セオドアは近衛騎士の中で、最も防御に優れた騎士だ。その部隊も要人警護から防衛戦まで、とにかく守ることを得意としている。
そんなセオドアから見ても、レオは守ることを得意としていた。
勝てないまでも、負けない。
そんな戦い方が出来ていた。
だが、それはレオが弱いからではない。
大抵の将よりレオは強かった。
それはこれまでの戦果が物語っている。攻めに出ようと思えば出れるだけの実力がある。
その実力がありながら、レオが最も輝くのは相手のほうが格上である時。
劣勢こそ、レオが最も得意とする盤面だった。
「後方より敵部隊! 近衛騎士隊の活躍で、大きな被害もなく撃退!」
報告を聞き、セオドアは一つ頷く。
そして。
「アルノルト様級の相手ですな」
「そうだね。まぁ、わかっていたことさ。たしかにアンセムは強い。けれど、僕からすればむしろやりやすい。慣れているからね。人の裏をかくことが大好きな人間の相手は」
そう言ってレオは笑う。
その後、開戦初日は大きな動きもなく、両軍ともに兵を退くことになったのだった。