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第五百八十五話 王太子の意向

昨日の配信にて、ゴードンとウィリアムのSSを書きました(`・ω・´)ゞ

今日の配信では、冒険者から見たシルバーというSSを書きました(ノ´∀`*)


気になる方見てみてくださいm(__)m

ちなみに明日は21時初コラボですヽ(・∀・)ノ




 一万の別動隊で帝国軍三万を撃破。 

 そう内外に喧伝した結果、各地の都市で離反するべきという声が収まった。

 帝国軍優勢という状況から、互角の状況まで持ち直したといえた。

 元々、不利な戦いの中での互角。

 それを成し得たのはアンセムの類まれな指揮能力があればこそだった。

 だが、それはアンセムにさらなる試練を与えることになった。


「グラシアン・ド・マゼラン伯爵。我が麗しき兄君の腰巾着が、こんな小汚い前線に何のようだ?」


 王国軍の本陣。

 そこでアンセムは一人の男を出迎えていた。

 長身だが、ガリガリであり、見るからに貴族という風貌の男。

 年は三十代前半。

 王太子の側近の一人であり、アンセムにとっては顔も見たくない相手の一人だった。


「アンセム殿下。王太子殿下は戦勝を祝うために私を派遣したのです。あまり邪険に扱わないでほしいですな」

「戦勝祝いは帝国軍を撃退してから受け取る。帰るがいい」

「歓迎されていないようで、残念です。ですが、今は戦時中。私のようなものが前線で歓迎されないのもわかります。ですから、王太子殿下からのお言葉をお伝えします。あまり時間を掛けるな、との仰せです」

「相手は大軍だ。時間を掛けねば勝てん」

「そこはアンセム殿下の智謀でどうにかしていただきたい。一万で三万を打ち破れるのですから、十万で十五万も打ち破れるのでは?」

「ふざけたことを言うな。そんな簡単だと思うなら代わってみるか?」

「構いませんよ。ただ、殿下が困るのでは? 王太子殿下はアンセム殿下の姉君をどう使おうか悩んでおいででした。殿下はそれを阻止したいのでは?」


 マゼランの言葉にアンセムは険しい表情を浮かべる。

 今すぐ、目の前の男を殺せたらどんなに気分がいいだろうか。

 そう考えないわけではないが、すぐに最愛の姉の顔がよぎって、その馬鹿げた考えを消し去る。


「……」

「王国は大変な時期です。姉君はどこかの国との同盟に利用されるかもしれませんし、もしかしたら臣下を引き留めるために使われるかもしれない。私にもそういう話がありましたので、光栄です、と答えておきました」


 ニヤリと笑うマゼランに対して、アンセムは静かに告げる。


「――前線のことには口を出さないという条件で、総司令を引き受けた。勝ちたいなら俺のやり方に任せてもらおう」

「ええ、任せますとも。ただ、王太子殿下の意向を伝えただけです。私も仕事なのです。そう怒らないでください」


 そう言いながらマゼランは恭しく頭を下げる。

 そして。


「では、吉報をお待ちしております。アンセム総司令」


 そう言ってマゼランは本陣を去っていった。

 マゼランが立ち去ってから、しばらくの間、アンセムは黙ったままだった。


「殿下……」

「……まだ平気だ。利用するという脅しのうちは、姉上の命は保証されている。それまでに救い出せばいい」

「はい。そのとおりです。まだ希望はあります」


 副官のリゼットはそういうと、アンセムの体を支えてそっと椅子に座らせた。 

 そろそろ薬の時間だからだ。


「姉上さえ奴らの手になければ……こんな薬で飼い慣らされることもなかっただろうにな」

「ですが、効果のある薬なのも確かです」

「それもそうだな……ミレーヌが姉上の居場所を探っている。ギリギリの勝負ではあるが、戦況が拮抗すれば王太子は必ず姉上を利用して、俺を動かそうとする。今回のような言葉の脅しではなく、な。その時が唯一のチャンスだ。姉上を取り戻せれば……わかっているな?」

「はい。全軍にて王都に侵攻して、玉座を奪います」

「そうだ……。あの欲物どもの駒になるのも姉上を取り戻すまでのこと。姉上さえ取り戻せればそれも終わりだ。父上を玉座に戻し、レティシアを介して帝国と休戦まで持ち込めれば、時間が稼げる」

「そのために……目の前の帝国軍には負けるわけにいきませんね」

「そういう点では相手がレオナルトでよかった。手強いがゆえに膠着状態になる。わざわざ膠着状態を作る必要もない。ただ、気を抜けんがな」


 奇襲を受けた帝国軍は一時集結して、再編成を行っている。

 焦って動くようなことはしてこない。

 失敗を取り返そうと、無暗に動くようなら手痛い反撃を食らわせようと思っていたが、被害を最小限に抑える方法をレオナルトは知っている。

 戦場において、これほど厄介な相手はいない。

 こちらがどれだけ動こうと取り乱さない。しかし、閉じこもっているわけでもない。

 着々と勝利の道を歩んでいる。

 一歩ずつ前に進むことの大切さをよくわかっているのだ。


「俺は自分が才能に恵まれた人間だと自覚している」

「はい。殿下ほど王者の才に恵まれた方はいません」

「そうだ。自惚れでなく、俺は人の上に立つために生まれてきた。そんな俺だが……勝てないかもしれないと思った者が一人いた。帝国のヴィルヘルムだ。だからヴィルヘルムに負けぬように精進した。おかげで才に溺れることはなかった。今の俺があるのはヴィルヘルムという天才が隣国にいたからだろう。だが……今、勝てぬかもしれないと思う者が帝国に現れた」

「レオナルトはそこまでですか?」

「レオナルト単体では負けん。アルノルトが相手でも互角に持ち込めるだろう。だが、あの二人は二人揃ってこそ真価を発揮する。双黒の皇子とはよく言ったものだ。状況を動かすことに長けたアルノルトと、状況に流されないレオナルト。二人同時に相手したら、間違いなく負ける」

「二対一では当然です。そこまで悲観なさらなくても……」

「俺は二対一でも負けぬだけの自信があった。誰が相手でも、だ。そうでなければヴィルヘルムとは渡り合えん。そんな俺の予想はそう外れん。あの二人が組めば……ヴィルヘルムを超える。皇帝でもなければ、皇太子でもない。今こそが二人が一番自由に動ける時だ。今は……戦うべきではない」


 アンセムは自信家だ。

 それは自他ともに認めるところである。

 そんなアンセムの言葉にリゼットは驚いていた。 

 直接対決にまだ突入してはいない。二人とそれぞれ対峙したとはいえ、同時ではない。

 しかし、すでにアンセムは負けを認めている。

 だからこそ、戦いは避けるべきだと判断したのだ。

 それは長く仕えたリゼットでも見たことないアンセムの姿だった。


「殿下……」

「レオナルトが皇帝になれば、二人同時に出てくることは少なくなるだろう。そうなるまで帝国とはことを構えるべきではない。それが俺の結論だ」


 だからこそ。

 姉を救い出し、父を玉座に戻さねば。

 それが自分のためであり、王国のためである。

 そう決意してアンセムはこれからの戦略を考え始めた。

 だが。

 アンセムの予想通りには事は進まなかった。

 アンセムの下に王太子からの手紙が届いたからだ。

 内容は簡潔だった。

 姉の命が惜しいなら攻勢に出ろ、というものだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アルとしてはこのままなら勝てるなぁ、という状況は困るよね 帝国不利の状態でないと悪魔をおびき出せない 下手に状況動かして負けすぎるわけにもいかないし難しい局面ですね
[気になる点] アンセムが気の毒過ぎる
[一言] 「アル…助けて…」 「当たり前だ!(ドン!)」
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