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第五百八十話 重い腰

ユーチューブ気になる方は、ツイッターにURLが張ってあるので見てみてくださいm(__)m



「報告!! 早馬で王国内での動きが伝わってまいりました! 王国軍の前線都市は陥落! さらに陥落後、王国兵が都市内の兵糧を燃やしたため、帝国軍は民に兵糧の供給を開始! 兵糧不足が心配されましたが、聖女レティシア様が王国北部の都市を調略し、そのまま北部から兵糧が届けられました!!」


 情報が多い。

 伝令の報告を聞きながら、俺はため息を吐く。

 そのまま伝令を下がらせ、俺は机に広げた地図を見る。


「どう見る? セバス」

「私に聞くのは適切ではないかと」


 そう言って音もなく背後にセバスが現れる。

 公国内で叔父上の補佐に回っていたセバスだが、艦隊が合流したことで俺の下へ戻ってきた。

 だが、軍事的な話に対してセバスは答えない。


「お前の意見を聞いているんだが?」

「専門外ですな」

「役に立たない執事だな」

「執事ですので。戦争について聞きたいなら軍人に聞くべきかと」


 その軍人たちがあてにならないから聞いているんだが。

 俺の言いたいことは伝わっているだろうに、セバスは何も言わない。

 自分で考えろってことだろう。


「少しは楽をしてもいいだろうに……」

「自分に注目を集めると決めたのでは?」

「小言はよせ。わかった、ちゃんとやればいいんだろう。まったく……」


 困った執事だ。

 本来、主を助けるのが執事だというのに、主を働かせるなんて。


「……アンセムの基本戦略は帝国軍を王国の内部に引き込むこと。俺たちが海軍を用意しているのは承知しているからこそ、内地で決着をつける気だろう」

「自慢の要塞に籠らないのは二正面作戦になるからですかな?」

「そうだ。片方だけならいくらでも防げるだろうが、二方向から大軍勢で囲まれれば、いくらルイヴィーユ要塞でも落ちる。それがわかっているから、帝国は要塞に押し込もうとしたわけだが……アンセムはそれを理解して、要塞に籠らない選択をした。強力な防衛網を敷き、時間をかけてレオの本隊を削り、勝てるタイミングで決戦を仕掛ける。それがアンセムの戦略だ。しかし……ほころびが生じたな」

「民の兵糧まで燃やしたのは悪手でしたな」

「悪手というか……おそらく現場の判断だろう。敵に渡すぐらいなら。そんな考えなんだろう。多少、賢い奴が前線にいたんだろうな。王国軍の基本戦略は兵糧攻めだと理解して、ならば兵糧を渡していけない。命令は出てないが、それが最善だと思っての行動。そんなところだろう」

「それは賢いといってよいのですかな?」

「馬鹿は基本戦略を理解できない。ただ、ときには馬鹿より多少賢い程度のやつのほうが厄介だ。自分が物事を見えていると考えて、勝手に動くからな。アンセムとしても頭を抱えているだろうな。兵糧を渡さないという判断自体はよくあることだ。しかし、今は違う。アンセムが敷いた防衛網は都市を根幹としている。民が協力してくれないと成り立たない。だから前線の都市に求められるのは、民に被害が出ない程度の抵抗。それをいくつもの都市で続けることで、帝国軍を疲弊させるのが狙いだ。けれど、ラインを超えてしまった」


 地図の上。

 そこに置かれている三つの拠点。

 俺は帝国の駒をその拠点に置く。

 それ自体は想定内。いずれ落ちるのはわかっていた。

 ただ、思った以上に帝国に対して追い風が吹いた。


「今頃、王国では都市の離反が起き始めているだろうな」

「何もかも犠牲にできるのは軍人だけですからな。民からすれば、それを自分たちに求められても困る。そういう話ですな」

「そういうことだ。やりすぎればついていけないと思われてしまう。アンセムとしてもまさか、そんなことを部下がするとは思わなかったんだろうな。民すら切り捨てて、徹底的にやるなら最初からやっている。侵攻してくることはわかっているんだからな。やろうと思えば、前線の食糧を根こそぎ集めることもできたはずだ。レティシアを担ぎ上げている時点で、帝国は民を見捨てられない。民に食料を分け与えていけば、そのうち帝国軍は干上がる」

「焦土作戦ですな。有効と言われながらもやらないのは……」

「その後が大変だからだ。統治も難しくなるし、帝国がその前線地帯を上手く越えてきたら勝ち目がない。それに性格的にもアンセムは使わないだろうな。そこまで徹底するということは、勝ち目が薄いというようなものだ」


 プライドの高さはちらほらと垣間見えた。

 自分に絶対的な自信も持っているだろう。

 そのアンセムが焦土作戦を取るとは思えない。だから今回のは現場の判断。あまりにも中途半端すぎるし、戦略を切り替えたにしては他のアクションがないのも不自然だ。

 アンセムにとっては手痛いことだろうな。

 せっかく順調だった戦略が崩れ始めた。

 まぁ、何でも思い通りにいくことはないだろう。なにせ戦争だ。


「そろそろ出番か……」

「重い腰を上げるときが来ましたな」

「そうだな。今すぐというわけじゃないが、そろそろ報告を待っていたら出遅れかねない状況にはなってきた」


 王国内の情報はなるべく早くこちらに伝わるようにしてあるが、それでも数日のラグが出てしまう。

 艦隊の移動には時間がかかる。先読みで動かなければ、レオが要塞に敵を押し込んだときに海上から援護できない。


「……セバス。頼みがある」

「なんなりと」

「……俺が出発したあと、帝都に戻って母上の傍にいてほしい。今はフィーネが傍にいてくれるが……お前も一緒にいてやってくれ」

「アルノルト様がそれでよいというなら」

「構わない。お前が傍にいると……俺のやりたいことができないからな」


 言いたいことを察したのか、セバスは深々と頭を下げたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ようやく均衡が崩れましたか。 今回の戦争でのアルの勝利条件は ノーマル:要塞戦で王国軍を撃破しレオが王国首都への進軍路を確保する。 ハード:アルが被暗殺を装って表舞台から身を隠す。 …
[一言] 他の読者達が賢すぎる…暗殺とか微塵も思い付かんかった…
[一言] いつもだったら暗躍の時間だ、になるとこですね それにしても戦争の小競り合いそのものは巻きでいくという作者様のご判断ナイスです
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