表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

595/819

第五百七十八話 前線都市陥落

ユーチューブにアリーダのSSをアップしてます。




「ハーニッシュ将軍! 敵都市が降伏しました!」

「ようやくか……」


 三万での包囲。

 小規模な都市にしてはあまりにもしぶとかった。

 昼夜を問わず攻め続けたにも関わらず、一向に士気は下がらなかった。


「難敵でしたな」

「まったくだ……こんな都市がまだ複数残っていると思うと気が遠くなる」

「さすがに、この都市ほどの戦力を抱えている都市は後方にはないかと」

「だといいがな」


 間違いなく最難関は最前線の三つの都市だった。

 それは間違いない。

 残る二つの都市も陥落間近という連絡が入っている。

 ほかの防衛地点からの援軍もあり、小規模都市とは思えないほどの戦力を抱えていたのは事実だ。

 しかし、これほどまでに粘ったのは戦力が豊富だったからじゃない。

 根本的に士気が高かったからだ。


「国を守るためか……」


 侵略者に対して対抗するという理由はわかりやすい。

 国という共同意識があれば、乗っかりやすい理由なのはわかる。

 しかし、そんなことは帝国も承知だった。

 だから王国の聖女を担ぎ上げ、王太子の非道さを説いた。

 王太子につく者は悪なのだ、と。そういう構図を作り上げた。

 王太子が聖女を切り捨てたのは事実。事実ゆえに否定はできない。

 いまだに聖女が帝国内にいたのに、王国軍は帝国に侵攻したのだ。言い逃れなどできない。

 だから各都市の士気は低いと予想していた。それだけ王国にとって聖女の存在は大きいはずだった。


「王国軍総司令、アンセム王子というのはそれほどの人物か……」


 厄介な存在だ。

 聖女の存在を上書きするほどの人物。

 それだけの信望を集めているならば、前線の都市以上に率いる軍は士気が高い。

 それこそ、アンセムのためなら死んでもいいと思っているような者がゴロゴロといるだろう。


「一つ聞きたい」

「なんでしょうか?」

「レオナルト殿下のために死ねるか?」

「? ご命令ならば」

「そういう意味ではない」


 副官の答えにハーニッシュはそう答えて、前に歩き出した。

 都市の門が開いたからだ。

 これからは占領処置に入る。


「覚悟を決めなければいけないか……」


 帝国軍の者は軍人として死ぬことはできる。

 軍人になった以上、命令ならば従うのは当然だ。

 しかし、王国軍は一般の民すら士気が高い。

 きっとアンセムの直轄軍にいる者は、軍人という枠をこえて死んでもいいと思っている。

 それは大きな差だ。

 だが、帝国軍とて負けてはいない。

 少なくともハーニッシュ個人としては、レオのために死んでもいいと思っていた。


「全将兵に徹底させろ! 降伏した者に対して、一切の暴行は許さん! これは総大将、レオナルト殿下からの勅命である! 破れば即刻斬る!」


 甘い処置だ。

 士気をくじくなら恐怖のほうがいい。

 徹底抗戦しても生かされるなら、これからも徹底抗戦してくるだろう。

 そんなことは百も承知で、この命令を出している。

 そういうレオをハーニッシュは好きだった。




■■■




「さすがアンセムといったところだね」


 前線からの報告を聞きながら、レオは呟いた。

 三つの都市は落ちた。

 前線の将軍たちは良く部隊を統制し、混乱も起きていない。

 ただ、共通の問題があった。


「降伏と同時に敵都市は兵糧を完全に燃やしたため、都市の民を養う食料が必要か……」

「そこまで徹底するとは思いませんでしたな」

「まったくだよ」


 セオドアの言葉にレオは頷く。

 これがアンセムの指示なのか、前線の独断なのかはわからない。

 ただ、あまりにも危険な行為だった。

 帝国軍が拒否した場合、三つの都市で餓死者が続出することになる。戦以上に死者が出てしまうだろう。


「殿下の噂を聞き、見捨てないと踏んでの行動でしょうか?」

「どうだろうね。そういう可能性もあるけど……たぶん前線の独断じゃないかな。さすがアンセムっていうのは、そういう行動を取らせるほどに信望を集めているっていう意味だよ」

「そういう意味でしたら、狂信者ですな。籠城中ならいざ知らず、開城したあとも民を巻き込むのは……あまり好ましいとは言えません」


 セオドアは言いながら顔をしかめる。

 帝国軍には膨大な兵糧がある。十五万の帝国軍を養うための兵糧だ。

 しかし、都市を落とす度に民に分け与えていたら、すぐに底をついてしまう。

 だが、見捨てるわけにはいかない。


「ここにきて、聖女様を担ぎ出したことが裏目に出るとは思いませんでした」

「聖女レティシアのために戦う正義の帝国軍だからね。そういう風に喧伝したのに、民を見捨てるわけにはいかない。もちろん、そういう風な喧伝がなくても民は見捨てないけれどね。僕がそういう人間だと知っていて、勝つためにその手段を取ってきたならアンセムは大したものだよ。ただ、戦略という点では失敗だけどね」

「というと?」

「今はいいけれど、この行動は遅効性の毒のようにアンセムの動きを縛ることになる。それに僕らを撃退した後に困るのもアンセムだ。やっぱり、アンセムの指示じゃないと思うな。視野の広いアンセムがそんなことをするとは思えない」

「しかし、前線の独断だったとしても現状、困っているのは我々です」

「そうだね。とりあえず各前線に兵糧を急ぎ運んでほしい。それが最優先だ。その先のことはやることが終わったら考えよう」

「かしこまりました」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これはアムリッツァ
[一言] どことなく銀英伝の帝国領土侵攻作戦を感じる内容でした。 作者さんは銀英伝読んだことあるのかな?
[気になる点] これ兵士が勝手にやったとしても民の方からは反感買いそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ