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第五百七十二話 都市包囲




「粘り強いですな」

「そうだな」


 先鋒部隊三万を引き連れたハーニッシュは小規模都市を包囲していた。

 後方にはレオナルト率いる本隊六万。

 帝国軍はさらに二つの都市を、三万ずつの分隊で攻めている。

 三手に分かれて都市を攻略しているのは、出陣してきた王国軍十万が後方で待機しているため、そこまでの都市を急ぎ攻略する必要があるからだ。

 本隊であるレオナルトの部隊は、その王国軍十万に備えるために動向を見守っている。

 そのため、それぞれの部隊を率いる将軍の手腕が問われる状況だった。

 都市の攻略に時間を掛け過ぎれば、敵の本隊に時間を与えることになる。なるべく手早い攻略が必要になるが、帝国軍が都市の攻略に向かった時点で、都市側の防備は完璧だった。

 帝国軍の侵攻ルートが分かった時点で、攻略対象外の都市から駐屯兵が迅速に移動してきていたのだ。

 想定していたより都市に籠る兵が多い。

 攻略には時間がかかる。

 ハーニッシュは敵の動きに感服していた。

 よほど徹底して訓練してなければ、ここまでスムーズな兵力の移動はできない。


「本隊に伝令を出しますか? 兵が移動した以上、他の都市は手薄なはず。本隊が動けば、他の都市は容易く落とせるかと」

「やめておけ。無能を晒すことになるぞ」

「と、いうと?」


 自分の副官の言葉にハーニッシュはため息を吐く。

 副官の言葉どおり、兵力を移動した以上、他の都市は手薄だろう。

 だが、それは餌だ。


「ここで我々が駐屯兵を釘付けにして、手薄な場所を本隊が攻略したとしよう。そこを敵本隊が狙いに来る。手薄な都市は餌だ。食いつけば敵の逆襲が待っている」

「なるほど。では、一度包囲を解き、我々が動きますか? 本隊さえ動かないなら」

「今度は我々と本隊の距離が開きすぎる。ここの都市の兵力と合わせて、敵本隊がこちらの本隊に攻撃を仕掛けてきかねん。それに一度でも退けば、敵は帝国軍を追い返したと喧伝するだろう。士気を上げさせるだけだ。ただでさえ、国を守るためという気持ちを全面に出してきている厄介な敵を、これ以上厄介にさせるわけにはいかん」


 説明しながらハーニッシュは目を瞑る。

 この状況の厄介なところは、解決策がないことだった。

 敵の粘り強い防衛に、こちらは付き合うしかない。

 兵糧にはまだまだ余裕はある。だが、限りがあるのも事実。十五万を維持するだけで減っていくからだ。

 どう転んでも敵の思う壺。

 それがわかっていても、攻めかかった以上、地道に都市を攻略していくしかない。

 

「厄介な敵に厄介な状況だ」

「こういうときに奇策が刺さるものですが、レオナルト殿下は奇策を用いるでしょうか?」

「これほど綿密に防衛策を練ってくる相手に生半可な奇策は通じん。もっとも有効なのが正攻法だ。レオナルト殿下もそれはわかっておられるだろう」

「しかし、北部での決戦の際には、北部諸侯の軍を裏に回り込ませておりましたが……」

「勘違いするな。あれはアルノルト殿下が勝手にやったことだ。敵の目に映らず、北部諸侯をまとめあげ、敵軍の裏に回り込んだ。伝令の類は一切ない。当然、来るだろうと思っていたレオナルト殿下も大概だが、ごくわずかな情報で、遠方にいるレオナルト殿下に合わせたアルノルト殿下がどうかしているだけの話だ。あんなことはお二人にしかできんし、元々、アルノルト殿下が敵の計算になかったからこそ、成功した挟撃だ。敵軍は我々十五万の動きをしっかり把握しているし、公国におられるアルノルト殿下のことも視野にいれている。警戒されている状態では、裏に回り込むなど不可能だ」

「では……このまま包囲しかないということですか……」

「そういうことだ。だが、悲観するほどでもない。都市を落としていけば、敵軍には近づく。こちらを損耗させることが狙いだろうが、それでも五万の兵力差を覆すことは不可能だ。それに向こうにだって時間制限はある」

「向こうにも時間制限が?」


 副官の言葉にハーニッシュは頷く。


「これは攻撃前にレオナルト殿下が仰っていたことだが、十万の兵力を抱えながらいつまでも後方に待機していれば、やがて王太子の疑念を招く、と。戦場の問題ではなく、政治的問題で、敵はいずれ動くとレオナルト殿下はお考えだ。実際、敵将の第三王子は王太子と険悪な仲らしい。第三王子に毒を盛ったのは王太子という話も聞く。そんな男がいつまでも才能豊かな弟に兵力を預けておくわけはない」


 敵にも付け入る隙はある。

 だが、それは不確かな隙だ。思った以上に王太子が我慢強ければ、帝国は苦戦を強いられる。

 この状況を打破するためには、敵の意表をつくしかない。

 相手は十五万の帝国軍に対して、万全の体勢で待ち受けている。

 備えは完璧。崩すは至難。

 だが、一方向に強い壁も、別の方向からの衝撃には弱い。

 無理だとわかっていても、何か奇策を期待してしまうのは、北部で鮮やかな挟撃を目にしてしまっているから。


「いかんなぁ……アードラーの方々はこれだから困る」


 ついつい何かしてくれるのではと期待してしまうが、本来なら皇族へ期待するなど軍人としては恥ずべきこと。

 彼らを御輿として、実力を発揮するのは軍人だからだ。


「全軍に通達。いくつかの班にわけて、昼夜を問わず攻め続けろ。時間はかかっても構わん。敵が疲弊するまでこちらは包囲を続けるだけだ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] アードラーが期待されるのとアルが褒められるの同じくらいに嬉しい
[良い点] ついつい期待してしまうアードラーの血族。 こういう期待感を持てる国家元首って羨ましい限りですね。 [一言] 出涸らしの評判強すぎる。 まぁこれのおかげで余程近くでアルノルトに見えた人以外は…
[一言] ここは溜めるパートと分かっていつつも、先が読みたくてもどかしい…
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