第五百六十八話 海上演習
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「雷霆発射準備開始」
「雷霆発射準備!! 各船と連結せよ!」
沖合にて、俺は旗艦アルフォンスに用意された椅子に座っていた。
指示を出すと船長が全船員に指示を出す。
旗艦アルフォンスを中心に、右前、左前、右後ろ、左後ろの順にどんどん随伴船が連結していく。
雷霆の反動を抑えるため、随伴船たちは連結後に錨を落とし、反動にそなえる。
「連結完了! 雷霆への魔力供給も十分です!」
「雷霆発射可能! 総員発射に備えろ!」
船長が俺のほうを見る。
発射の指示は俺が出すことになる。
静かに頷き、俺は告げる。
「――撃て」
「雷霆発射!!」
船長の号令と共に雷霆は――発射されない。
魔力炉は自力で魔力を生み出す装置じゃない。あくまで魔力を溜めている装置だ。一度撃てば、貯めるまで日数がかかる。
それに雷霆の砲身も撃つたびにメンテナンスが必要な代物だ。
演習で一々撃つわけにはいかない。
撃ったという体で動くことになる。
「雷霆、敵艦隊に命中! 被害甚大!」
「連結解除。アルフォンスは前に出る。随伴船は随時、航空戦力を空に上げろ」
「了解! 連結解除! アルフォンスはこれより前に出る!」
随伴艦たちと連結を解除して、アルフォンスは前に出始める。
一方、随伴船からは続々と第六近衛騎士隊が空へ上がり始めている。
だが。
「四番船の離陸が中断しました……」
見てみると、左後方の随伴船でトラブルが起きたようで天隼がいっこうに空へ上がってこない。
それを見て、右後方に位置していた三番船も天隼を空へ上げるのをやめてしまう。
船長が俺の方をチラリとみてくる。
思っていることは一緒だろうな。
「アルフォンスは前に出る。上空の天隼部隊には敵艦隊への攻撃を指示。敵艦隊は雷霆によって乱れている。今のうちに叩くぞ」
「了解いたしました! 全速前進!」
止まってしまった随伴船を尻目にアルフォンスは前に出ていく。
空へ上がって待機していた天隼部隊も意図を理解して、敵艦隊を攻撃するために高度をあげて前に出始めた。
ここまでが一連の流れ。
「いかがいたしますか? 閣下?」
「港へ戻れ。この状態じゃ続けても無駄だ」
「了解いたしました! 港へ引き返す!」
演習は終わりを告げ、アルフォンスと四隻の随伴船は港へ戻るのだった。
■■■
第六近衛騎士隊、天隼部隊が合流したのは昨日のこと。
だが、時間がないため、改装したばかりで名前すらまだ無い随伴船に乗せての演習はすぐに開始された。
不慣れな船上のせいか、天隼たちは落ち着かず、船員たちも天隼たちを船から空へ上げるというやったことのない作業に苦戦していた。
それでももう二日目だ。
慣れてないでは片付けらない。
「何が起きた?」
「はっ! 天隼が言うことを聞かず、空へ上げることができず、遅れてしまいました」
最初にトラブルが起きた四番船。
その船長が港で俺の質問に答える。
「そういう場合の対策は?」
「離陸を嫌がる天隼を一度中に戻し、別の天隼の離陸を準備します」
「やれていたか?」
「指示はしましたが、できていたとは言えないでしょう。船の構造に手を加え、入れ替えがスムーズにいく仕組みが必要です。また、より離陸時に揺れないような工夫が必要かと思います」
「よろしい」
自分たちの失敗を分析し、必要なことがよくわかっている。
天隼は生き物だ。
なるべくストレスなく離陸できるように努めることが随伴船の船長には求められる。
四番船の船長はそのことを理解しているようだ。
だが。
「では問おう。三番船はなぜ離陸をやめた?」
「はっ! 四番船が天隼を上げることができなかったため、最初からやり直しかと思いました。無駄な離陸で天隼の体力を消耗してもいけないかと」
「戦場にやり直しがあるとでも?」
正しい判断ですと言わんばかりの言い方に対して、俺は三番船の船長を睨みつける。
まさか自分が睨みつけられるとは思わなかったんだろう。
三番船の船長が背筋を伸ばす。
「も、申し訳ありません!!」
「これは軍事演習だ。揃えて天隼を空にあげて、拍手をもらうお遊戯会ではない。こちらの指示なく中止などない。敵軍は目の前にあり、旗艦は作戦遂行中。貴官がすべきことは、全力で天隼をあげて、旗艦を援護することだ。本番でも隣の船に問題が出たら止まるのか?」
「い、いえ……申し訳ありません!」
「謝罪は結構だ。ギレスベルガー!!」
傍にいた海務大臣ギレスベルガーを大声で呼びつける。
自分に矛先が向くことはギレスベルガーもわかっていたんだろう。
来たな、とばかりに覚悟を決めて俺の前に立っている。
「はっ! ここに!」
「精鋭の船長を用意しろと命令したはずだが? 演習を独断で中断する船長が精鋭か? だとしたら、俺は大きな思い違いをしていたようだ。帝国海軍を中心に戦略を組むのは諦めなければいけない」
「申し訳ありません、閣下! すべて私の責任です!」
「責任を口にするなら仕事をしろ。別の船長を用意しろ。特殊な随伴船の運用をすぐに熟知し、正しく動ける船長を、だ」
「了解いたしました!」
目の前で外れろと言われた三番船の船長は茫然としている。
そんなことで、という表情だが、そんなこともできないような奴に随伴船は任せておけない。
「理解できないようだから説明してやろう。貴官が乗っている船は失敗作でも欠陥品でもない。帝国内でも貴重な天隼を乗せ、近衛騎士が乗り込む特殊船だ。判断ミスはそれだけで敗北に直結しかねない、そういう船だ。覚悟のない者には任せてはおけない」
理由を説明すると、俺は歩き出す。
目指す先にいるのは第六近衛騎士隊より、改善案を聞いているキューバーだ。
「はい、はい。了解した。なるべくすぐに改善するよ。ああ、開閉口の大型化だが、今、取り組んでいてね」
「キューバー! 船体内部から天隼が飛び出す開閉口が一つでは、離陸に時間がかかりすぎるし、問題が起きたときに機能しなくなる。船の耐久力を落とさず、二つにしろ」
「二つ!? アル殿下!? 四隻もあるのに!?」
「自分で作ったんだ。責任をもって使える物にしろ」
「あ、アル殿下……最近、寝不足で……」
「第六近衛騎士隊もろくに寝ていない。彼らが慣れるのも大事だが、より快適にするのも大事だ。技術大臣なのだから働け」
「……はい……」
俺の要求にキューバーは魂の抜けたような表情で返事をする。
そんな俺を見て、随伴船の船員たちは緊張した様子で直立不動だ。
いつ、自分たちに雷が落ちるかわからないからだな。
「まるで鬼ですな」
「怖いか? 船長」
「私はそうでもありませんな。自分に自信がありますので」
アルフォンスの船長が近づいてきて、小声で話しかけてくる。
気を引き締めるために、俺があえて厳しい態度を取っているのを理解しているんだろう。
臨時元帥ということで、敬われてはいるが、どこか俺を舐めている雰囲気がある。所詮は出涸らし皇子という雰囲気だ。
そんな雰囲気じゃ戦えない。
だからその雰囲気を払拭するために、俺は周りに容赦はしなかった。
容赦する余裕もないというほうが正しいが。
どうにか使い物にならなきゃ出航はできない。
「アルフォンスの船員は精鋭ばかりだ。同じレベルを求めるのは酷か?」
「酷でしょうが、仕方ないでしょう。必要なのですから」
「それもそうだな。どうにか使えるレベルにするぞ」
「間に合いますか?」
「それは弟次第だな」
連合艦隊の動きはレオ率いる十五万の動向で変わってくる。
国境付近で小競り合いしているようじゃ、援護はできない。
とにかく王国軍を押し込んでもらわなきゃこちらの出番はないのだ。
それまで少しの猶予がある。
その間に仕上げるしかないだろう。
「そうだ、船長。そろそろ随伴船の名前をつけなきゃいけない。候補はあるか?」
「私に言われても困りますな。閣下の好きなようにつければいいのでは?」
「じゃあ、ヨハネスとかにするか」
「それは……やめていただきたいですな」