第五百五十四話 勇爵家誕生
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魔王を筆頭とした悪魔との戦争は終わった。
大陸全土が戦火に包まれ、人類側は多大な犠牲を払った末に辛くも勝利を収めた。
だが、悪魔側が残した置き土産は大きなものだった。
「勇者によって穴が閉じられた後。騎士皇帝は我ら竜人族に、ウェパルの権能について調査するよう依頼してきた。その代わり、帝国は我らのために安住の地を探す手伝いをしてくれた」
「安住の地探し?」
「皇子といえど、人の本質くらい理解しているはずだ。外敵がいなくなれば、内側で争い始める。それが人類だ」
また場所は変わる。
悪魔との戦争で大陸全土の国々は疲弊した。
亡国となった国も多くあり、大陸の勢力図は悪魔との戦争前から一変していた。
「悪魔にも対抗した帝国だが、国力を総動員して悪魔との戦争に挑んでいた。大陸全土が戦火に包まれたとはいえ、被害が小さい国もあった。そういう国は今が好機とばかりに領土拡大を推し進めた。それを止めさせるほどの力は、大戦を戦い抜いた帝国にはなかったのだ」
大戦中、大陸のリーダーとなった帝国。
人材も物資も帝国に集中していた。上手くいけば、帝国を中心とした統一国家が完成していただろう。
だが、そんな余力を残して勝てるほど甘い相手ではなかった。
帝国は本当にギリギリまで力を振り絞ってしまった。
結果、大国は存在しなくなり、抑止力もなくなった。
大陸は群雄割拠の戦国時代に突入したのだ。
「帝国ですら領土を守るだけで精一杯だった。新たな国が台頭し、多くの戦争が各地で巻き起こった。その中で、悪魔との戦争中には封印されていた亜人への差別もぶり返し始めていた。そういう迫害から逃れるため、多くの亜人がそれぞれの国を興した。だが、我らはそういうわけにはいかなかった」
「ウェパルの権能か……」
「そうだ。いずれ我らに届くかもしれん病毒。これをなんとかせねば、我らは安心して外の世界には出られない。皇帝からの依頼がなくても研究しただろう。そして皇帝は秘密裏に船を手配し、我らを極東の地に運んだ。できるだけ、戦火から遠ざけるために」
場所が変わる。
そこは大陸中央部。今は帝国の領土となっている場所。
大陸中央は誰もが欲しがる戦略的要所だ。ここを押さえておけば、大陸制覇の道が見えてくる。
そこを得るために、多くの国が中央へ進出してきた。そして大陸中央は激戦地へと様変わりした。
勢力図が日に日に変わっていく。
しかし、中央に巻き起こった大炎はパタリと止んだ。
「何が起きた……?」
「歴史的な出来事だ。きっと歴代の皇帝の中でも、騎士皇帝は三指に入る偉業をやってのけた」
中央で戦争がどんどん無くなっていった。
そしてその余波で大陸中から戦争がなくなっていく。
それは一時の出来事だったかもしれない。
それでも大陸から戦争がなくなった。
また場所が変わる。
そこでは皇帝の横に勇者が立っていた。
「穴を閉じたあと、勇者は旅に出ていた。別れ際、聖剣をどうするべきか考えると話していた。大きすぎる力は争いを呼ぶ。魔王を倒した勇者は魔王以上の脅威だ。それを理解していたのだろう。もしかしたら失踪した親友を探していたのかもしれん。とにかく勇者は旅に出た。それも数年な」
「そして……皇帝の下へやってきた」
そこからは帝国に住む者なら誰もが知っている。
帝国に勇者を留めたいと皇帝は願ったが、勇者は公爵も侯爵も伯爵の地位もいらないと言った。
そんな勇者に皇帝は一計を案じて、大陸唯一の爵位を与えることで帝国に留まらせた。
その爵位の名は〝勇爵家〟。
「一度目の旅を終えて、勇者は我らの下へまずやってきた。内容は聖剣を預かってほしいというものだった。とてもではないが、守り切れないと固辞したが、勇者は残念そうだった。そしてとても疲れているように見えた。そして勇者は自らの命を断てば、病毒の権能は止まるかと相談してきた」
「死ぬ気だったのか……」
「成長する毒。狙いは明らかだった。ゆえに勇者は目標を無くそうとしたのだ。だが、そんなことは我らにはわからなかった。だから、危険な賭けだと説明して、皇帝と話すように勧めた。当時、皇帝は勇者の行方を捜していたからだ」
「そして騎士皇帝は勇者を思いとどまらせることに成功したのか……」
「毒が消える保証などどこにもない。消えない可能性の方が高いとすら言える。ならば、未来に託そうと決めたのだろう。そして自らの血筋を残した。聖剣の担い手兼守り手として。それは大陸全土の国からすれば大事件だった。勇者が帝国の貴族になるということは、皇帝の臣下になるということだからだ」
「だから戦争は止まったのか。聖剣を恐れて」
勇者は魔王を倒した。
世界最強の実力者だ。それが皇帝の一存で動くとなれば、どこの国も帝国の近くで戦争を起こそうとは思わないだろう。
平和を保つため、という大義名分を掲げて勇者を送り込まれてはたまったもんじゃないからだ。
「とはいえ、勇者は存命中に聖剣を振るうことはなかった。帝国で過ごした余生の間、その力を聖剣の封印に傾けたのだ。そして勇者の死と共に誰も破れない強力な封印が出来上がった」
聖剣の在りかはどこにも記されていない。
初代勇爵の墓にあるとか、帝都の地下にあるとか言われているが、竜人族の隠れ方を見るに、普通の隠し方ではないだろう。
「だが、将来、悪魔の再侵攻も予想された。だから勇者は聖剣を召喚する方法を残した。誰でもいいわけではない。判別するのは勇者の残留思念。勇者が認めた者しか聖剣は召喚できん。もちろん扱えるだけの力があるという前提だが」
「封印したところを見ると、初代勇爵でも破壊できなかったのか……」
「試みたそうだが、無理だったらしい。勇者は恐れていた。自分が現れたように、人類にはときたま規格外が現れる。その者が聖剣をもしも手に入れたとして、正しく使うかは誰もわからない」
その危惧はわかる。
実際、ときたま召喚されるだけの聖剣ですら大陸のパワーバランスを破壊している。
「勇者亡き後、各国はまた戦い始めた。だが、勇者の稼いだ時間は帝国が国力を回復させるには十分だった。元々、悪魔に対抗した国だ。次々に大陸中央に進出してきた新興国を飲み込んでいった。そして帝国が大陸中央に君臨したため、他の国は大陸中央への進出を諦めなければいけなかった。もちろん、帝国自体も恐ろしかっただろうが、その頃には勇者の子孫が聖剣を召喚し始めていた。そのおかげで大陸の戦乱期は収束し始めた」
場所はまた空へ変わる。
大陸の勢力図は徐々に動いていき、俺が良く知る形へと変化していく。
「そして今に至る。これが五百年前の顛末だ。当時の人類ですら、死力を尽くさねば悪魔には勝てなかった。いや、結局ウェパルの病毒を防げなかった以上、勝ちではないか……」
「強敵であることはわかった。すでに初代勇爵がいない今、かなり厳しい戦いだということも。だが……相手にも魔王はいない。それに人材という点では今も負けてはいない。魔王がいないなら……今の大陸の戦力でもどうにかなる」