第五百五十三話 魔王討伐
「第二次反攻軍も辛い戦いを強いられた。大陸全土に悪魔たちは散っており、そやつらを倒して回ったからだ」
魔王によって多くの強者がやられた。
それでも第二次反攻軍は悪魔たちをどんどん倒していった。
「勇者はさらに強くなったのか?」
「聖剣は古代魔法時代よりもさらに前からある代物だ。謎の多い剣だったが、勇者はそれを完全に制御することに成功していた」
場所が変わる。
少年から青年へと変わった初代勇者。
その手に握る聖剣は俺の知る物とは別物だった。
最初見た時点で、エルナよりも強いと感じた。だからその時点で、聖剣をコントロールしているのだと思った。
だが、それは間違いだった。
これは確かに次元が違う。
見た目的には変わってないが、聖剣の発する波動は今のほうが比べ物にならないほど強い。
その聖剣を使って、勇者は悪魔たちを屠っていく。
「勇者は強かった。それこそ魔王に匹敵するほどの強さだった。だが、悪魔側も無策ではなかった。人類側の裏切り者たちを使って、戦力を増強したのだ」
さらに場所が変わる。
そこでは黒い肌に変わったダークエルフたちが、反攻軍と戦っていた。
その周りには裏切ったと思しき人間たちもいた。
「長い戦いに多くの者が心を病んだ。生きていられるならば、と悪魔に心を売り渡す者が続出し始めていたのだ」
「悪魔は人類を裏切った者たちを生かし続けるつもりだったのか?」
「それはわからん。魔王にとって、大陸への侵攻も暇つぶしでしかなかっただろうからな。人類を全滅させる気だったのか、それとも奴隷として残すつもりだったのか。どういう未来を抱いていたかはわからん。ただ、魔王は裏切り者たちに力を与えた。戦力にする気だったのは間違いないだろう」
魔王から力を与えられた裏切り者たちは、反攻軍に立ちふさがる。
だが、反攻軍はそんな裏切り者たちも打ち破った。
「第一次反攻軍の時、旗印は騎士皇帝だった。だが、第二次反攻軍の時、旗印は勇者だった。率先して軍を率いて、悪魔を討伐していった」
大陸全土を覆った炎は一気に北へ押し戻され、やがて大陸から炎が消え去った。
そして。
「魔王討つべし。大陸から悪魔を追い出し、反攻軍は島にいる魔王を討ちにいこうという機運が高まっていた。だが、同時に少数ながら現状維持を望む者たちもいた」
「どういうことだ?」
「魔王は第一次反攻軍を撃退したあと、島を動かなかった。だから刺激しなければ平和が保たれるのではないか。そう主張したのだ」
「そんな甘くはないだろう」
「そうだ。だが、第一次反攻軍の生き残りは、魔王の脅威をその目で見ていた。だからそういう考えも理解できた」
また場所が変わる。
そこでは桜色の髪の勇者と、勇者を背負って逃げていた剣士が決闘を行っていた。
「勇者にとって盟友ともいえる剣士が、勇者に決闘を申し込んだ。勝てば聖剣は自分が使うといってな」
「アーヴァイン・ノックスか……」
「二人は親友だった。そしてアーヴァインは死にかけた勇者を見ている。本心がどうであったかはわからないが……死ぬかもしれない戦いに親友を送り出したくはなかったのやもしれん。聖剣を持つ者が魔王と正面から対峙するからだ」
互角の戦いはやがて、勇者の勝利によって幕を閉じた。
涙を流すアーヴァインはそのままどこかへと消えていった。
「アーヴァインの心は魔王を見た時に折れていたのかもしれん。だが、それでもアーヴァインは魔王との決戦直前まで戦い抜いた。心が折れていても、戦い抜くだけの力がアーヴァインにはあったのだ」
「勇者と肩を並べる剣士が離脱して、戦力的には厳しかったんじゃないのか?」
「当初はそう思われた。だが、親友を負かすことで勇者の中でも覚悟が決まっていた。勇者とて人間だ。魔王への畏れがあっただろう。だが、それを克服して立ち向かった」
場所は島へと移る。
巨大な城で勇者と魔王は激しい戦いを繰り広げていた。
完全に互角。
圧倒的と思われた魔王。
その魔王と勇者は互角の戦いを演じていた。
城に攻め込んだ反攻軍も、魔王の周りを固めていた残る悪魔たちをどんどん討ち取っていく。
「ウェパルはどのタイミングで勇者に敗れたんだ?」
「最初だ。城への侵入を阻むために勇者へ挑み、ウェパルは聖剣の攻撃を受けた。それで死んだと思われたが、結局は辛くも生き延びていた」
聖剣を受けても生きているとは。
しぶといにもほどがある。
ただ、魔王との戦いを見るかぎり、勇者はきっと力を温存していたんだろう。
魔王に対して繰り出される一撃と同じモノを受けて、生きていたならそれはまさしく化け物だ。
なにせ魔王ですら避けている。
戦いはずっとつづく。
日が落ちて、やがて暗闇が支配し始めた頃。
決着の時はやってきた。
決着の舞台は空。
両者ともに荒い息を吐いている。
互いに最後の一撃を放つ。
魔王が放った黒い奔流。
それに対して、勇者は渾身の一振りを見舞った。
暗闇が支配していた世界が、黄金の光によって包まれる。
そして空から落ちる流星のように光り輝く奔流が、魔王を呑みこんだ。
その威力はすさまじく。
夜にもかかわらず、昼かと思うほど明るくなり、衝撃で大陸が揺れる。
およそ人間が放っていい攻撃ではない。
奔流が消え去り、また夜に戻った時。
反攻軍は勝利の声をあげていた。
同時に残る悪魔たちは総撤退していた。
「撤退する悪魔たちを我々は追った。魔王の側近たちはほとんど勇者によって討ち取られていたが、その他の悪魔も人類にとっては脅威だったからだ。しかし」
長老はそう言った後にため息を吐いた。
そして。
「空から黒い雨が大陸中に降った。ウェパルのモノだと気づき、我々はすぐに防御したが、それでは遅かった。奴が何かする前に仕留めなければいけなかったのだ。我々が穴にたどり着いた時、すでにウェパルや他の悪魔の姿はなかった。傷つきながら魔界に敗走したのだ」
それは紛れもない勝利。
だが、人類側にも無事な者はいなかった。
ウェパルを追撃する余力は、大陸にはなかった。
そう言った言葉の意味を、生き残った反攻軍を見ればわかる。
長い戦いをようやく勝ち抜いた反攻軍はボロボロだった。
姿だけ見れば、負けたのは反攻軍かと思うほどだ。
文字どおり、死力を尽くして戦ったのだ。
「ウェパル生存は一部の者だけの秘密とされた。大事なのは理解していた。だが、人類にはこれ以上、悲報を受け入れる余裕がなかったのだ」