第五百五十二話 反攻軍
出涸らし皇子の第九巻が四月一日に発売となります(´・ω・`)/~~
そろそろ前売りしている書店もあるかもしれません。
是非手にとって見てくださいm(__)m
場所が切り替わる。
眼下では軍が進軍していた。
だが、その軍は異様だった。
装備や服装はバラバラだし、人種もバラバラ。
人間もいれば亜人もいる。
「運が良かったのだ」
「勇者が現れたことか?」
「それもある。だが、悪魔との戦争は勇者だけでは勝てなかった。五百年前、大陸は時代に恵まれていた」
また場所が変わる。
巨大な光の剣が空を切り裂き、悪魔たちを消滅させていた。
初代勇者は唯一、聖剣を完全に使いこなせたという。
その再来と言われるエルナの聖剣を見ている俺だが、それには同意せざるをえなかった。
光り輝く星の剣を手にした桜色の髪の少年は、間違いなくエルナより強い。
だが、驚くべきはそこじゃない。
そんな勇者と肩を並べる強者たちが戦場には並んでいた。
「大陸の歴史でもこれほどの傑物に恵まれた時代はないだろう。それほど、当時の大陸は人材に恵まれていた。そして、多くの国が悪魔に対して抵抗できない中、帝国だけが果敢な抵抗をしてみせた。それによって帝国は、大陸中の国から反抗の旗印と認識された。おかげで、人類はアードラーの下に一致団結する形ができた。国家間の争いも、種族同士の争いも、悪魔という強大な敵の前では消え去った。帝国は大陸中の戦力をまとめあげ、反攻軍を結成。彼らが存分に戦える体制を作り上げたのだ」
場所が変わり、前線の駐屯地。
そこには大量の武具が前線に運び込まれ、絶え間なく兵糧が補給されていた。
後方から続々と名をあげようとする強者たちが戦線に加わり、悪魔にはない物量という武器で反抗していく。
だが、物量だけでは悪魔には勝てない。
決め手になるのは一握りの傑物たち。
彼らが無駄な消耗をしないように、大陸中から集まった戦士たちが道を作っていく。
自らの命を犠牲にしながら。
「悪魔の襲来は最悪だった。だが、襲来したタイミングは最高だった。奇跡的に跳ね返せる戦力を大陸は有していたのだ」
「その中にあなたもいたのか?」
「無論だ。あの少年の傍でしっかりと戦った。もちろん竜人族も、ほかの亜人たちもな。楽な戦いなどなかった」
場所がまた変わる。
多くの躯が転がっていた。
その中にはさきほど見た強者たちの姿もあった。
勇者と肩を並べられるほどの強者でも、やられていく。
たしかに楽ではないだろう。
「幾度も死を覚悟した。だから後世には運が良かったと書かれている。勝ったのは奇跡だ。もちろん、当時の者たちが必死に足掻いた結果ではあるがな」
また場所が変わる。
そこは何かを発掘している場所だった。
かなりの人が動員されていた。
「帝国は悪魔との戦いを心得ていた。悪魔に対して、多くの人類は戦力外となる。だから前線は強者たちに任せ、他の者はとにかく強者たちの支援に回った。その一環として、古代魔法時代の遺物の発掘があった」
「なるほど。城の宝物庫に古代魔法時代の遺物が多いのはそういう経緯か」
「使われた遺物もあれば、使われなかった遺物もある。騎士皇帝からすれば、第二の聖剣を見つけたいという気持ちだったのだろうな。結局、聖剣に匹敵する物はなかったが、それでも強力な装備の数々は悪魔との戦いにおいて、大きな助けとなった」
場所がさらに変わる。
また空の上だ。
大陸を包んでいた火は徐々に北へ押し込まれ始めていた。
悪魔にやられるだけだった大陸側が戦場を好転させたのだ。
「こうやって人類は逆転していったのか」
「馬鹿を言うな。この程度で逆転できるほど甘い相手ではない」
長老がそう言った瞬間。
大陸全土が炎に包まれた。
帝国があるはずの大陸中央すら炎に包まれている。
「何があった……?」
「悪魔との戦争は二度あった。一度目は反攻軍が結成され、一時的に悪魔を大陸から追い出した。だが、第一次反攻軍は一瞬で敗走することになる」
「魔王か……」
「そうだ。人類の希望と思われた勇者ですら、魔王には敵わなかった。魔王が前線に出てきたことで、反攻軍は半壊した。瀕死の勇者を逃がすために、魔王に挑んだからだ」
場所が変わる。
血だらけの初代勇者を背負い、一人の剣士が必死に逃げていた。
後を追う悪魔たちに戦士たちが挑んでいく。
そこから少し離れた戦場の奥。
つまらなそうな表情を浮かべた魔王が、群がる戦士たちを埃のように払っていた。
「どうやって……」
「ん?」
「どうやってこいつに勝った?」
「諦めなかったのだ、人類は。勇者が傷を癒やし、さらに強くなって帰ってくるまで人類は耐えた。それに悪魔の悪癖が発揮されていたのだ」
「悪癖?」
「傲慢なのだ、奴らは。激しい抵抗にあっても、勇者という規格外を見ても。奴らは悪魔である自分たちが負けるとは思っていなかった。魔王直々の出陣でどうにか戦況を持ち直したものの、悪魔側の被害も甚大だった。だから、魔王軍の頭脳であった大参謀ダンタリオンは撤退を進言した。島に防衛用の戦力を残し、魔界に戻って一度立て直しを図るべきと言った。そして魔王によって粛清された。自らの力に絶対の自信を持つ魔王にとって、撤退などありえない提案だった。実際、それだけの力はあった」
「だろうな。あれほど強いなら傲慢にもなる。勝てるイメージが全く湧かないぞ」
「誰もがそうだった。しかし、魔王は残党掃討には出てこなかった。他の悪魔が再攻勢に出て、大陸は戦火に包まれたが、参謀のいない奴らは力押しだった。おかげで我らは時間を稼ぐことができた」
さきほどのつまらなそうな表情を思い出す。
魔王が本気ならとうの昔に人類は滅んでいたんだろう。
だが、魔王にとっては退屈しのぎでしかなかったのかもしれない。
勇者を敗走させて、魔王は飽きたんだろう。
だから他の者に任せたし、一時撤退などという意見を口にした参謀を粛清した。
「勇者が再度立ち上がるまで、二年かかった。人類はそれまで耐えた。膨大な犠牲を出しながら、な。そして第二次反攻軍が結成されたのだ」