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断章 憑依召喚

出涸らし皇子を書いて欲しいってめちゃくちゃDM来たから今回だけ特別です( *´艸`)


サービス!!


ちなみに現在、新作連載中('ω')ノ

ちゃんと新作も応援してくださいねm(__)m



 それは公国への旅路の途中。

 休憩のために立ち寄った都市の宿で眠りについていたはずの俺は、気づけば何もない真っ白な空間に立っていた。


「ここは……?」


 どこかの精神世界だろうなと思いつつ、主らしき者がいない。

 しばらく待っていると、突然、俺の眼の前に小さな少年が姿を現した。

 金髪の少年だ。

 その目は黒よりの青。

 着ているのは帝国の皇族の服。オドオドして、俺の顔をまともには見れないようだ。

 だが、そんな皇族に見覚えはない。


「俺を召喚したのか?」

「……は、はい……申し訳ありません……」


 何を使ったのかは想像がつく。

 古代魔法に属する一つ。〝憑依召喚〟だ。

 特殊な魔導具による補助で、自分以外の誰かを自分へ憑依させる。

 だが、誰でもいいわけではない。

 相性が良くなきゃいけない。

 さらには使えるのは子供だけだ。自我が確立した大人では憑依する魂を受け入れられない。

 しかも使えるのは人生で一度だけ。それだけ負担の大きい魔法だ。

 ただ、古代魔法の中では適性に左右されない。

 膨大な魔力と召喚する魂との相性が良ければ、それだけで成功する。

 結局は体を貸すだけだからな。


「なぜ俺を召喚した?」

「……僕の知る中で……一番強い人なので……」

「そりゃあ光栄だな」


 肩を竦めながら俺はため息を吐いた。

 俺が強いと知っている。

 つまり、この子は現代の皇族じゃない。

 今より先の時代を生きる皇族だ。

 過去に生きる者を憑依させるなんて聞いたことないが、アードラーの血筋が成せる技か。

 本来ならば、召喚者の人生内の者くらいが対象のはずだ。

 死んでしまった近親者が一般的だ。

 俺がもしもこの子と関係あり、死んでいたならば死ぬ直前の俺が召喚されるはず。

 そう考えると今回は特例中の特例だな。

 きっと、この場を立ち去れば俺はこのことを覚えていないだろう。


「あの……僕の召喚に応じていただけますか……?」

「危険な魔法だ。どうして使えるのかは聞かない。君が何者かも聞かない。ただ、一つだけ質問しよう。なぜ俺の力が必要なんだ?」

「……兄が……戦っています……助ける力が僕にはなくて……」

「だから人に頼るのか?」

「……はい。頼ります」


 少年は初めて真っすぐ俺を見つめた。

 その目は確かにアードラーの者だった。

 一度だけとか言ったら断わろうと思ったが、この子はよくわかっている。

 今は助けてもらうときだと。

 何が何でも頼らねばならないときだと。

 甘えて俺を召喚したわけじゃない。

 切り札として、自分ができる最善として俺を召喚したのだ。


「よく覚えておけ。理不尽はいつだって突然襲ってくる。お前はこれで切り札を失う。次の切り札はちゃんと用意しておくんだぞ?」

「はい!」

「いい子だ」


 軽く頭を撫でると、俺は少年の横を通り過ぎていく。

 バトンタッチの時間だからだ。


「さて……懐かしい顔がいるな」


 目の前には巨大な亀。

 その周りを騎士たちが馬に乗って走り回っている。

 どうにか亀の気を引こうとしているようだ。

 俺は都市の外壁に立っていた。

 状況はわかっている。

 どうにかこの都市に寄せ付けないようにしているのだ。

 声を張り上げるのは癖のある金髪の青年。


「騎士たちよ! かつてほどの脅威ではない! 魔法も多少は効く! 民が逃げる時間だけでいい! ここで稼ぐぞ!」


 剣を掲げながら、青年は馬の上で騎士たちを鼓舞し続ける。

 後ろを見ると、着々と民の避難は進んでいるようだ。


「殿下! 殿下もお逃げください!」

「馬鹿を言うな! 俺がここにいればこそ、近衛騎士たちも必死に向かってくる! 帝都からの援軍を急かせる意味でも俺は退かん!」

「ですが!」

「くどい! ここで死ぬならそれまでだ! 俺には巨大な魔力も剣技もないが、信念だけはある! 俺は皇帝になる! それなのに騎士と民を見捨て、俺だけ逃げて何になる!? ここにいれば多少の役には立つ! 居させろ!」


 自分がこの場にいれば、救援は早まる。

 騎士たちも奮闘する。

 それがわかっているから、状況を変えられなくてもこの場に居続けている。

 最悪な状況を少しでも遅らせるために。

 英雄ではない。そんな力は彼にはない。

 だが。


「助けたいと思う何かはあるな」


 言いながら、俺は右手を巨大な亀、霊亀へと向ける。

 そこで気づいた。

 何かしっくりこないと思ったら、俺の姿はアルノルトのままだった。

 それではいけない。


「やっぱり何事も形からだな」


 そう言って俺は自分の服をシルバーの物へ変化させた。 

 仮面は手元にないから幻術だ。

 だが、気分はシルバーそのものだ。

 そのまま俺は霊亀に改めて右手を向ける。


≪我は天意を代行する者・我は天と地の法を知る者・断罪の時来たれり・咎人は震え罪無き者は歓喜せよ・我が言の葉は神の言の葉・我が一撃は神の一撃・この手に集まるは天焦がす劫火・天焔よ咎人を灰燼と化せ――エクスキューション・プロミネンス≫


 かつての霊亀には効かなかった魔法だ。

 だが、今回は効果があった。

 巨大な炎によって、霊亀は大きく後ろへ吹き飛ばされる。


「援軍かっ!?」

「そうだな。お前の弟が俺を呼んだ」


 転移で先ほどの青年の下へ飛び、俺はその目を見た。

 弟と同様、良い眼をしている。


「SS級冒険者……シルバー……銀滅の魔導師本人か?」

「いかにも」

「つまり、俺の」

「そこから先は聞かないでおこう。お前はただ、自分の弟に感謝して、こんな事態になっていることを反省するんだな」

「いきなり小言か」


 青年は顔をしかめながら何度か頷く。

 だが。


「感謝も反省もしよう。だが、あんたからの小言は受け付けない。大抵の問題は魔法で解決してきた癖に偉そうに言うな」

「魔法だって俺の力の一つだからな。悔しかったら匹敵するだけの何かを身につけろ。非力は責められることじゃないが、非力じゃできることは限られるぞ」


 ニヤリと笑うと、どういう顔をしているのかわかったのか、青年は盛大に顔をしかめた。

 そして。


「それじゃあ力があると便利だってことを見せてやろう」


 俺は上空に上がると両手を広げた。

 すでに魔力は溜まっている。

 霊亀も体勢を立て直した。

 さすがに力の差を感じたのか、硬化に入ろうとしている。


「させんよ」


 小さく呟きながら両手を胸の前で寄せた。

 銀色の玉が両手の間に作り出され始める。


≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者≫


≪銀星は星海より来たりて・大地を照らし天を慄かせる≫


≪其の銀の輝きは神の真理・其の銀の煌きは天の加護≫

≪刹那の銀閃・無窮なる銀輝≫


≪銀光よ我が手に宿れ・不遜なる者を滅さんがために――シルヴァリー・レイ≫


 銀の玉を押しつぶすと、周囲に展開された七つの光球が一斉に霊亀へ向かって銀光を照射した。

 一瞬で霊亀はその体を吹き飛ばされ、また魔力へと還っていく。

 その光景を見届けると、俺は先ほどの青年に何か言おうと振り返る。

 だが、青年の傍には予想外の人物がいた。

 黒一色の鎧に身を包んだ騎士だ。

 明らかに周りとは格が違う。

 

「来るのが遅かったな、もう解決したぞ?」

「まさか先客がいるとは……しかもあのシルバーとは」

「ちゃんとした護衛がいるらしいな。まぁ、間に合わないあたり、護衛と呼んでいいのか悩ましいところだが」

「それは……」

「やめておけ。口では勝てん」


 黒騎士が何か言おうとするのを青年が止める。

 そして、さっさと帰れとばかりに手を振る。

 そんな青年に苦笑しつつ、俺は地面に着地してから目を閉じた。




■■■




 目を開けると宿屋のベッドの上だった。

 横にはフィーネがいた。


「おはようございます。アル様」

「ああ、おはよう……」

「どうかなさいましたか?」

「いや……よく思い出せないが……夢を見ていたみたいだ」

「夢ですか? どんな夢でしょうか?」

「大したことないさ。ただ、夢に出てきた奴が生意気だったのは覚えてる」


 そんなことを言いながら、俺はベッドから抜け出したのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 金髪紺眼で推定アルノルトの子孫、目覚めて近くにいるフィーネか 時を超える系はアツいな
[良い点] ここでこんな伏線あったのか...(N周目 [一言] クリスタ、ルーペルトってそんな小さかったっけ?? ってなるやつwいや、冷静になったらめっちゃ小さい子なんだけど
[一言] アルの枷が外れた状態だから単独で討伐ができたのか
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