表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

500/819

第四百八十三話 シルバーの弟子


 部屋に入ってきたのは黒に近い紫色髪の少女だった。

 腰には二本の剣。

 前に見た時より身長が少し伸びただろうか。

 だが、快活な笑みはそのままだ。

 その笑顔のまま、クロエは結構な勢いで抱き着いてきた。


「久しぶりー!」

「久しぶりだな。S級昇格おめでとう。少し背も伸びたし、髪も伸ばしてるのか?」

「うん! 似合う?」

「ああ、似合ってるぞ」


 そんなに長くない会話。

 約三年ぶりの会話としてはあっさりしているだろう。

 だが、距離があるわけじゃない。

 ちゃんと前と同じように話せるのは、クロエがずっとニコニコと笑っているからだ。


「あなたに弟子がいたとは……意外です」

「自慢の弟子だ。紹介しよう、S級冒険者のクロエだ。こっちはSS級冒険者のノーネーム」

「あなたがノーネームですか!? 本当にお師匠様みたいに仮面をつけているんですね! あ! それが冥神ですか? あたしも魔剣を使うんです!」

「え、あ、その……」


 クロエは笑顔でノーネームに近寄り、仮面を観察した後に冥神に目を向ける。

 いきなり距離を詰めてきたクロエに、ノーネームはたじたじだ。

 大陸で五人しかいないSS級冒険者。

 普通なら怖気づくか、畏まるか。

 とりあえず距離を取るのが普通だ。

 だが、クロエは俺で慣れてしまったのか、その肩書きを持つ者を強い人くらいにしか思っていない。


「これから帝都で一緒にお仕事ですね! とても強いと聞いています! 楽しみです!」

「一緒にって……どういうことです?」

「説明されていなかったか? 俺の不在中、帝都の高難度依頼はお前とクロエで片づけてもらう。だから一緒に行動しろ」

「一緒に? 足手まといは必要ありません」

「邪魔はしません! 後ろについていくだけです!」

「ついて来れると?」

「あたしも古代魔法を使えますから。その点はご心配なく!」


 ノーネームは言葉を重ねようとして、やめた。

 ギルドの決定だからだ。

 本人も監視くらいはつくと覚悟していただろうし、予想外というほどじゃないだろう。

 ただ、監視役がフレンドリーすぎただけだ。


「それじゃあ行くぞ」


 そう言って俺は転移門を開くのだった。




■■■




 冒険者ギルド帝都支部。

 そこに転移した俺は、いつもと雰囲気が違うことに気付いた。

 まず、テーブルがバリケードのように積み上げられていた。


「来たぞ!」

「SS級が二人に、S級が一人! 何かあったら帝都はおしまいだ!」

「いつもいつも厄介事ばかりを持ってきやがって! シルバーの馬鹿が!」

「馬鹿野郎! 刺激するな! 子供みたいなやつだぞ!」

「今日でこの支部も終わりか……」

「こんなバリケードに意味があるのか!?」

「安心しろ! 勇者や仙姫が来ても、ここは問題なかった。つまり、ここは安全だ!」

「それもそうだな。お前、天才か?」

「よせよ、照れるぜ」


 馬鹿どもが。

 思わず、光弾でも投げつけてやろうかと思ったが、やめた。

 それでは子供みたいなやつという言葉を肯定することになるからだ。

 無視して、ギルドの受付嬢に二人を紹介しようとした時。

 クロエが傍にいないことに気付く。


「こんにちはー、いつもお師匠様がお世話になってます」


 見ればバリケードを超えて、クロエが隠れている冒険者たちの下へ行っていた。

 いつの間に、という感じで冒険者たちは距離を取るが、クロエの言葉に考え込む。


「ん? 待てよ?」

「お師匠様?」

「お世話になってます?」

「俺たちが世話をしているSS級冒険者なんて、一人しかいないぞ……」

「あれ? お師匠様ー! あたしが弟子だってこと、隠してたほうがよかった?」

「別にいい。今更、隠すべきことでもないからな。それと、俺はそいつらにはお世話になっていない」

「あー、良かった。言っちゃった、と思って」


 笑顔でクロエは答えるが、それを聞いた冒険者たちは一様に顔を引きつらせていた。


「し、シルバーの弟子!?」

「あいつが人を教えるだと!?」

「秘密の塊みたいな奴が弟子を取るなんて……」

「っていうか……この子が新任のS級冒険者で、シルバーの弟子ってことは……」

「古代魔法の使い手か!?」

「一応、あたしも古代魔法を使いますけど、基本的には剣士です。ミヅホでは基本的に一人で動いていたので、ご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」


 ペコリとクロエが頭を下げる。

 それを見て冒険者たちが全員、俺の方を見てきた。


「おい、礼儀正しい子だぞ……」

「本当にあいつの弟子なのか……?」

「皇帝にため口で話すような奴だぞ? 弟子に礼儀を教えられるはずがない……」

「元々、礼儀がなっている子を弟子にしたんだろう。師匠の悪いところを受け継がなくてよかった」

「お前たちに礼儀を語られたくないな。クロエ、早く来い」

「はーい」


 思わずため息を吐きつつ、俺は改めてノーネームとクロエを帝都支部のギルド職員に紹介した。


「SS級冒険者のノーネームとS級冒険者のクロエだ。しばらく俺は帝都を離れるから、二人が俺の代わりだ」

「は、はい! では一応、名前を書いていただけますか?」


 そう言って受付嬢はノーネームとクロエに紙を差し出した。

 暫定的な登録だ。

 名前を書けば帝都支部の一員となる。


「二人には宿を用意してある。場所は事前に伝えたと思うが、大丈夫か?」

「はい。伝わっています」

「では、二人とはそこで連絡を取り合ってくれ」

「えー? お師匠様の家じゃないの?」

「なぜ俺の家を拠点に提供しないといけない?」

「だって、お師匠様の代わりだし」

「理由になってない」

「ちぇー、あっ! まだ時間あるでしょ? 帝都を案内してよ! あたしもノーネームさんも帝都には疎いから」


 すぐに転移でおさらばしようとしたが、その前にクロエに捕まってしまう。

 ノーネームも断ろうとするが、クロエに遮られてしまう。


「私は……」

「やっぱり、冒険者として情報は大切だしね! 知らない土地じゃ有事の際に動けないし、最低限の案内は責務だと思うなぁ」

「やれやれ……会わない間に知恵をつけたな」

「あうっ」


 俺はクロエの額を指で軽く押し、踵を返す。

 時間が有り余っているわけではないが、弟子に割くくらいの時間はある。


「ついてこい。主要な建物を案内しよう」

「し、シルバー、私は……」

「決定ー!」


 クロエに押し切られ、結局、ノーネームは何も言えずについてくることになったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こ、これは新たな嫁候補では。 それにしてもクロエ、もし帝国に残っていたら、今頃エルナと並んで帝国の双璧とか言われてたかも。
[一言] シルバー=アルの家=城。 連れってたら正体バレほぼ確実www!
[良い点] 皇帝にタメ口に話すって、ソースどこ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ