第四百八十二話 ギルド長室
話の都合上、短いのはご勘弁をm(__)m
数日後、俺のところにギルドから連絡が入った。
ノーネームとクロエが揃ってギルド本部に到着したため、迎えに来いという内容だ。
転移を用いずに移動するとなると、時間がかかりすぎる。
もちろん、ノーネーム単体なら普通の移動よりよほど早く移動できるだろうが、それでも転移に比べればだいぶ時間がかかる。
そのため、俺はギルド本部に飛んだ。
「来たか……」
いつものようにギルド長の部屋へ飛ぶと、疲れた様子のクライドが俺を出迎えた。
「疲れているようだな?」
「疲れもする。SS級の配置替えなんて前代未聞だからな」
基本的にSS級冒険者は自分勝手だ。
よほどの理由がないかぎり、自分の根拠地を変えるようなことはない。
ギルドとしても、SS級冒険者の機嫌を損ねるのも馬鹿らしいので、そこにはあまり介入しない。
SS級冒険者がいる地域から、ほかの冒険者を移動させるほうが楽だからだ。
だから、SS級冒険者が二人動く、今回のようなパターンは珍しい。
「まぁ、ギルドの闇を払うんだ。多少の苦労は仕方ないだろう」
「……これからも俺はお前をシルバーとして扱うし、変に気を遣うつもりはない」
「もちろん、こっちからお願いしたいくらいだ」
「助かる。その上で言わせてもらうが……正直、勝算はあるのか? こちらからは負け戦にしか見えないんだが?」
クライドの言葉に俺は頷く。
最悪なのはノーネームとエルナが全力でぶつかり合うこと。
つまり聖剣と冥神の激突だ。
だが。
「半々だな。向こうがこの機会をどう捉えているかによる」
「どうとは?」
「敵情視察なのか、千載一遇の機会なのか。後者の場合、こちらにできることはほぼない。向こうが仕掛ける気満々では、帝都に入れた時点で負けだ」
「おいおい……」
「まぁ、そちらの可能性は低い。俺は聖剣と冥神。どちらも知っている。いまだに冥神は聖剣に追いついてはいない。向こうもそれはわかっているだろう。そうでなければ、炎神を餌にしようとはしない」
「だが、勇者を前にしてどう出るかは……予想できないと?」
「五百年の悲願だからな。冷静さを失うこともあるだろう。そうなれば強制的に転移でもさせるしかないが……そうなると機会は失われる」
もちろん、ノーネームが変わる機会だ。
それはギルドとしては損失だ。
先代の動きは怪しい。帝都にナイジェルを送り込んだり、その前にはラファエルを助けている。
頼まれたと言っていたらしいが、誰に頼まれたのか? という話になる。
そんな奴と近しい者が味方にいては、悪魔に対抗するのは難しい。ましてやノーネームは最高戦力の一角。
できれば悪魔との戦いは団結したい。
「そうならんことを祈っているよ」
「そうしてくれ」
そんな風な話をした後、少しして。
ノーネームが先にギルド長室へやってきたのだった。
■■■
「俺は仕事がある。後は頼んだぞ? シルバー」
「承知した」
そう言って部屋からクライドが去った。
しばらく無言が続くが、やがてノーネームが口を開いた。
「……まずは先日の謝罪を。先代が申し訳ありませんでした」
「その口ぶりからすると、知らなかったか?」
「そうですね。私は冥神を強化できると言われて、あそこにいただけです。しかし、私は事情を知っても冥神強化を選んだでしょう。ですから、知らなかったことは大した問題ではありません」
「なるほど。まぁ、そういうことにしておこう。すでに済んだことだ。ギルド側から謝罪と補償は受けている。今更、誰が悪いなどと言う気はない」
今回の筋書きは、ギルド側が冥神強化の一環で俺へノーネームの帝都行きを提案したという筋書きだ。
これでギルド側はノーネームに協力している形を取れるし、怪しんでも先代は乗らざるをえないだろう。
実際、ノーネームは乗ってきた。
ここで大事なのが、俺の対応だ。
ノーネームに関心があるように見せてはいけない。
「聖剣と勇者を超えたいというのは結構だが、今回は様子見だ。やり合うのは避けてもらおう。それが条件だからな」
「もちろんです」
ノーネームの答えには感情がない。
この答えをどれほど信じていいやら。
そんなことを思いつつ、俺は苦笑した。
おそらく向こうも似たようなことを考えていただろうからだ。
俺の仮面の奥に潜む真意を、ノーネームは測りかねているだろう。
あまりにも俺にはメリットがないからだ。
「……シルバー。あなたは本当にギルドの提案を飲んだのですか?」
「どういう意味だ?」
「他人からの提案を素直に受け取るほど、あなたは簡単な人間ではないと思っています」
「なるほど。少しは評価してくれているようだな。たしかに俺は交換条件を突き付けた。だが、それはお前には関係ない。気にするな」
あまり探られても困るので、俺はこの会話を短く打ち切った。
その時。
ギルド長室の扉が開かれた。
そして。
「お師匠様!」
元気な声が部屋に響き渡ったのだった。




